2025年7月14日
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英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンなどに所属する研究者らがNature系列のScientific Reports誌で発表した論文「Longer wavelengths in sunlight pass through the human body and have a systemic impact which improves vision」は、太陽光に含まれる赤外線領域の光が人体を透過し、視覚機能を改善する可能性を示した研究報告である。
まず、この研究における実験では、7人の男性参加者が上半身裸で、太陽光に背中を向けて立ち、胸部にアルミ製の箱を当て、体を通過してくる光を測定した。直射日光下で行われたこの測定で、実際に長波長の光が胸部を通過することが確認された。通過した光は主に600~1000ナノメートルの赤外線領域で、特に800~870ナノメートル付近で最も効率よく透過が起きていた。
手における透過実験も行われた。850ナノメートルの光源の上に手をかざし、赤外線感度カメラで観察すると、静脈は光を吸収して黒く見えた。一方、骨は見えないほどに、光をよく通過した。
次に、衣服が光を遮るかを調べた。Tシャツ、シャツ、ウールのセーターを6枚重ねて撮影すると、可視光ではほとんど透過しないが、850ナノメートルの波長を捉える赤外線カメラで見ると、まるで薄い布のように光が透過していた。つまり、服を着ていても太陽光の赤外線成分は体に届くことがわかった。
次に、視覚機能への影響を調べる実験では、参加者をいくつかのグループに分けた。まず13人が暗室で850ナノメートルのLEDパネルに背中を向けて15分間座った。別の5人は、光が目に入らないようアルミホイルで頭部を完全に覆って同じ実験を受けた。対照群として、7人はLEDが点灯しない同じ部屋で同じ時間座った。
視覚機能の評価には、色を見分ける能力を測定する検査を用いた。コンピュータ画面に様々な濃さの色文字を表示し、薄い色をどこまで識別できるかについて測定する方法である。赤緑系統の色(プロタン)と青黄系統の色(トリタン)の両方を検査した。
結果は、光を背中に受けた参加者は、24時間後の検査で色の識別能力が大幅に向上していた。赤緑系統で9%、青黄系統で16%の改善が見られた。さらに、頭をアルミホイルで覆って目を遮断した参加者でも青黄系統では7%の有意な改善が確認された。これは、光が目を通さずに体の他の部分から入って効果を発揮したことを意味する。対照群では変化は見られなかった。
なぜ赤外線を浴びると視覚機能が向上するのか。
人間の細胞にはミトコンドリアという「エネルギー工場」があり、ここでATPという細胞の活動に必要なエネルギーがつくられる。年をとると、このエネルギー工場の働きが弱くなり、細胞の機能が低下する。
赤外線(660~1000ナノメートル)がミトコンドリアに当たると、エネルギー産生能力が回復する、とされる。網膜の細胞は特にエネルギーを大量に使うため、ミトコンドリアの活性化により大きな恩恵を受ける。
これらの結果から、服を着た状態でも太陽光を浴びることが、視覚機能に影響する可能性があるとわかった。反対に、太陽光を浴びない生活(現代建築の白色LED照明は一般的に400~650nm程度に制限されている)では、視覚機能へのこうした影響が制限されている可能性が示された。
Source and Image Credits: Jeffery, G., Fosbury, R., Barrett, E. et al. Longer wavelengths in sunlight pass through the human body and have a systemic impact which improves vision. Sci Rep 15, 24435 (2025). https://doi.org/10.1038/s41598-025-09785-3
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