2025年3月19日
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英国のケンブリッジ大学、キングス・カレッジ・ロンドン(KCL)、オックスフォード大学が共同で実施する「Brain-PACER」(Brain-PACER: Brain Pacemaker Addiction Control to End Relapse)は、アルコールや薬物(オピオイド)への依存症で苦しむ患者に対して、脳深部刺激療法(DBS)を行って脳の働きに介入し、強い欲求や衝動の制御を目指す研究プロジェクトである。(プレスリリース)
DBSは、細い電極を脳に、そしてペースメーカーを埋め込む神経外科的治療である。これらの電極は電気的な刺激を送り、神経活動を調節することで、様々な神経学的および精神医学的障害の症状を軽減するのに役立つ。
手術中、細い電極が脳内の適切な位置へ正確に配置されるよう、慎重な作業が行われる。これらの位置は治療する状態に基づいて選択される。依存症の場合、電極は報酬、動機づけ、意思決定に関与する領域に配置される。
これらの電極は、通常は鎖骨付近の皮膚の下に埋め込まれる「パルスジェネレーター」という小型の電池式装置に接続される。この装置は脳に電気的刺激を送る。パルスジェネレーターからの電気的刺激は、異常な脳活動を調節するのに役立つ。
依存症の場合、これらの刺激は、関連する脳回路を調節することにより、強い欲求や衝動を減少させ自制心を向上させる可能性がある。
DBSは、パーキンソン病(1997年)、ジストニア(2003年)、重度のOCD(強迫性障害)(2009年)などの状態に対する、米FDA(食品医薬品局)承認済みの確立された治療法であり、現在は依存症治療の方法として研究されている。
研究チームは現在、アルコール使用障害(AUD)およびオピオイド使用障害(OUD)に焦点を当てた研究調査の参加者を募集している。参加資格は18歳から60歳で、DSM-5基準(精神疾患の診断基準)に従ってAUDまたはOUDの診断を受け、当該障害が最低5年間続いており、断酒や断薬の試みに少なくとも3回失敗し、心理療法および標準的薬物療法による治療にも失敗していることが条件である。
統合失調症や双極性障害などの、重篤な精神疾患を有する者は除外される。ただし、中程度のうつ病やOCD、不安障害などの併存症は許容される。重たる疾患としてAUDまたはOUDの診断を受けている場合は、他の物質使用障害があっても参加可能である。オピオイド代替療法を受けている者も、週に1回以上または月に5回以上の突発的な薬物使用があれば研究の対象となることができる。
その他、全身麻酔に耐えられない、出血リスクが高いなどの神経外科的禁忌事項がある者、何度もの転倒、重大な頭部外傷、顕著な認知機能障害、皮質萎縮、末期肝疾患(進行性肝硬変)の既往歴がある者は除外される。
研究における「理想的な候補者」の特徴としては、フォローアップに一貫して参加し、依存症から抜け出す強い意欲を持ち、適切な治療を受けているにもかかわらず再発を繰り返している個人が挙げられている。
研究チームによると、治療抵抗性または重度のACDまたはOUDを対象とした、このDBS研究への参加は、複数の「潜在的なメリット」をもたらすという。
まず、参加者は従来の治療法が効果を示さなかった場合に症状を緩和できる可能性のある「最先端のDBS療法」を受けられ、研究期間中は包括的な医療・心理的サポートを享受できるとのことだ。また、各参加者の特定のニーズに合わせた個別治療計画が提供され、計画はその分野の専門家による管理を受ける。
参加者には時間と労力に対する金銭的補償として500ポンドが支給され、交通費や研究関連活動に費やした時間に対する追加補償も行われる。加えて、無料ながら詳細な健康評価を受けることができ、全体的な健康状態や医学的注意が必要な潜在的な領域についての洞察を得ることができる。
Brain-PACERはケンブリッジ大学のValerie Voon教授が主導し、KCL依存症部門の責任者で教授のJohn Strang卿、KCL脳神経外科のKeyoumars Ashkan教授や、神経精神科医、依存症精神科医など20人以上のメンバーを擁する。
Brain-PACERは英国全土で実施される大規模な多施設共同研究である。同国政府機関であるイギリス医学研究審議会(MRC)から資金提供を受け、ケンブリッジ大学病院とケンブリッジ大学の倫理承認の下で運営されている。
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