「プラセボで痛みが消える」の仕組み 関与する脳回路をマウス実験で発見【研究紹介】

2024年7月26日

山下 裕毅

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米ノースカロライナ大学チャペルヒル校や米スタンフォード大学などに所属する研究者らが発表した論文「Neural circuit basis of placebo pain relief」は、プラセボ効果によって痛みを和らげる脳回路をマウスの実験で調査した研究報告である。

研究内容

効果のない偽薬の服用によって痛みが和らぐ、プラセボ鎮痛という現象がある。長年、この現象の存在は知られていたが、その生物学的メカニズムは謎に包まれていた。今回、神経科学者たちがマウスの脳内回路を特定し、プラセボ効果による痛み緩和のメカニズムの一端を解明した。

研究チームは、マウスにプラセボ効果を引き起こすような条件づけを行った。具体的には、痛みを伴う48度の熱い床(1番目の部屋)と30度の快適な温度の床(2番目の部屋)を用意し、マウスに対し「熱い床から快適な床に移動すると痛みが和らぐ」との期待を持たせ、2番目の部屋に行くと痛みがなくなると学習させた。

▲実験の概要

研究者らはその後、両方の部屋の床を48度に温めた。マウスの行動をリアルタイムで観察したところ、マウスは依然として2番目の部屋を好み、そこにいる間は足を舐めるなどの痛みに伴う行動をあまり示さなかった。つまり、プラセボ効果により痛みが軽減されたことを示している。

研究チームは、前帯状皮質(ACC)から橋核へ投射するニューロンの活動が、この痛み緩和への期待と関連していることを発見した。橋核は大脳皮質と小脳をつなぐ脳幹の領域であり、これまで痛み調節における役割が十分に理解されていなかった。

さらに詳細な分析により、橋核のニューロンの65%には、δまたはμオピオイド受容体が存在することが判明した。オピオイド受容体は強力な鎮痛薬が作用する部位であり、この発見はプラセボ効果による痛み緩和に体内のオピオイド系が関与している可能性を示唆している。

研究チームは、橋核のニューロンの活動を抑制したり活性化したりすることで、マウスの痛み反応が変化することも確認した。橋核の活動を抑制すると、マウスはより早く痛みに反応し、活性化すると痛みへの反応が遅くなった。これらの結果は、橋核が痛みの知覚調整に重要な役割を果たしていることを示している。

研究評価

この研究成果は、既存の鎮痛薬の作用機序の理解を深めるだけでなく、新たな痛み治療法の開発にもつながる可能性がある。例えば、脳幹と小脳の神経回路を直接操作することで、プラセボ効果を利用した痛み緩和を実現できるかもしれない。また、認知行動療法や経頭蓋磁気刺激などの非薬物療法の効果メカニズムの解明に寄与する可能性も秘める。

Source and Image Credits: Chen, C., Niehaus, J.K., Dinc, F. et al. Neural circuit basis of placebo pain relief. Nature (2024). https://doi.org/10.1038/s41586-024-07816-z

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