ゼリー電池。10倍に引き伸ばしても導電性そのまま、デンキウナギから着想【研究紹介】

2024年7月19日

山下 裕毅

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英ケンブリッジ大学に所属する研究者らが発表した論文「Highly stretchable dynamic hydrogels for soft multilayer electronics」は、柔らかく伸縮性があり、高い導電性を持ったハイドロゲルを提案した研究報告である。同大学公式サイトのニュースページでは、このハイドロゲルによってつくられたデバイスを「ゼリー電池」として紹介している

▲開発されたゼリー電池

研究内容

この研究は、デンキウナギからインスピレーションを得ている。デンキウナギは、筋肉細胞が変化した特殊な器官である電気器官を用いて、獲物を気絶させる能力を持つ。研究チームはこの仕組みに着想を得て、電流を流すことができるゼリー状の材料を開発した。これは、粘着性のレゴブロックのような層状構造を持つ。

このゼリー電池は、強い圧力で押しつぶされても元の形状を保持し、損傷を受けた場合でも自己修復する能力を有する。さらに、元の長さの10倍以上に引き伸ばされても導電性を失わないとの特徴を備えている。

▲伸ばされても電力を維持する

ゼリー電池の主成分はハイドロゲルである。ハイドロゲルは、水を大量に吸収して保持する能力を持つ高分子材料である。人体組織の特性を模倣でき、形状を自由に変えられるため、ウェアラブルデバイスやソフトロボティクスなどへ活用されている。

また、生体適合性が高く、体内に挿入しても拒絶反応が少ないとの特徴を持つ。温度変化に応じて膨潤や収縮を行うものもあるため、薬物を特定の部位に届けるドラッグデリバリーシステムや創傷被覆材としても使用されている。さらに、ハイドロゲルの多くは透明なため、コンタクトレンズなどの用途にも利用可能である。

様々な用途で使用できるハイドロゲルだが、伸縮性と導電性の両立は難しく、これまで実現は困難とされてきた。研究チームはこの課題を解決するため、ハイドロゲルに電荷を与えることで導電性を持たせた。さらに、各ゲルの塩分を調整することで粘着性を付与し、複数の層を積み重ねることでより大きなエネルギーポテンシャルを構築することに成功した。

従来の電子機器が金属材料を使用し電子を電荷キャリアとするのに対し、このゼリー電池は電気ウナギと同様にイオンを電荷キャリアとして使用する。この生体模倣的なアプローチにより、より生体親和性の高い電池の開発が実現した

ゼリー電池の柔軟性と生体適合性は、ウェアラブルデバイスやソフトロボティクスなどはもちろん、将来的な生体医療用インプラントへの応用可能性も示唆する。

加えて、金属などの硬い成分を含まないため、体内での拒絶反応が低減されている。そのため、脳内への埋め込みによる薬物投与やてんかん治療など、幅広い応用が期待されている。研究者らは、生体内でテストし、さまざまな医療用途への適合性を評価するための今後の実験を計画している。

Source and Image Credits: Stephen J.K. O’Neill et al. ‘Highly Stretchable Dynamic Hydrogels for Soft Multilayer Electronics.’ Science Advances (2024). DOI: 10.1126/sciadv.adn5142

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