「週2在宅」で生産性落ちず、離職率3分の1減 社員1600人超対象に中国企業が実験【研究紹介】

2024年6月18日

山下 裕毅

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米スタンフォード大学や中国の香港中文大学深圳校、中国のTrip.com(2019年の売上高で世界第3位のオンライン旅行代理店)に所属する研究者らが発表した論文「Hybrid working from home improves retention without damaging performance」は、週2日の在宅勤務を導入したケースにおける生産性や満足度、退職率などを調査した研究報告である。

研究背景

今回の実験の背景には、大学卒の社員を中心に在宅勤務が標準的な制度となり、出社日と在宅日を組み合わせたハイブリッド勤務が広がる一方で、生産性やイノベーション、キャリア形成への悪影響を懸念する経営者も多いという状況がある。そこでTrip.comは、航空運賃部門とIT部門の社員1612人(管理職395人と非管理職1217人)を対象に、ハイブリッド勤務の効果を検証することにした。

▲実験中のオフィスにいるTrip.comの従業員

研究内容

社員の基本属性を見ると、平均年齢は30代半ばで、男性が65%を占める。学歴は全員が大卒以上で、修士号以上の保有者が32%に上る。平均在職年数は6. 4年で、従業員の48%に子供がいる。社員は、ソフトウェア開発やマーケティング、経理など多岐にわたる職種で構成されている。

実験では、週3日はオフィスで勤務し、水曜と金曜の週2日は在宅勤務を認めるハイブリッド方式を導入する。6か月間(2021年8月から2022年1月)にわたり、奇数日生まれの社員をハイブリッド勤務グループ、偶数日生まれの社員を週5日出社する通常勤務グループへと無作為に割り当てた。

実験の結果、ハイブリッド勤務グループの離職率は統制群より2.4ポイント低下し、離職率を3分の1近く抑制する効果が確認された。特に非管理職、女性、通勤時間が長い社員で顕著な効果が見られた。ハイブリッド勤務グループでは、仕事満足度のスコアが向上し、従業員は通勤時間とコストの削減や、柔軟な時間管理ができることを評価していた。

▲ハイブリッド勤務により離職率は全体で33%減少し、特に非管理職、女性、通勤時間が長い従業員に大きな効果が見られた

もう1つの重要な問題は、ハイブリッド勤務が従業員のパフォーマンスに与える影響である。これを評価するために、実験開始後最大2年間の6か月ごとの業績評価と昇進結果、詳細なパフォーマンス評価、コンピュータエンジニアが記述したコード行数という4つのパフォーマンス指標を調べた。

結果は、2年間にわたる人事評価の結果から、在宅勤務の有無で昇進や業績評価に差は見られなかった。パフォーマンス評価のスコアもハイブリッド勤務の有無による差は統計的に有意ではなかった。プログラマの生産性指標の一つであるコード行数も、在宅勤務の影響は確認されなかった。むしろ、実験前はハイブリッド勤務による生産性への悪影響を懸念していた管理職の意識が、実験後には特に好転している点が注目される。

▲ハイブリッド勤務は2年間の業績評価に有意な影響を与えなかった

以上のように、実験結果からは、週2日程度の在宅勤務であれば生産性を大きく損なわずに社員の満足度を高められることが実証的に示された。また、女性は男性よりも退職率が下がり、リモートワークを重視していることが示唆されたが、キャリアへの影響の懸念からか、女性によるハイブリッド勤務への参加率は相対的に低かった。

Source and Image Credits: Bloom, N., Han, R. & Liang, J. Hybrid working from home improves retention without damaging performance. Nature (2024). https://doi.org/10.1038/s41586-024-07500-2

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