EMが居ないほうが良い組織?EMを置かなくてもうまく機能するエンジニアリング組織の7つの特徴を解説

2024年2月14日

合同会社エンジニアリングマネージメント 社長 兼 流しのEM

久松 剛

2000年より慶應義塾大学村井純教授に師事。動画転送、P2Pなどの基礎研究や受託開発に取り組みつつ大学教員を目指す。博士課程(政策・メディア)修了。その後高学歴ワーキングプアを経て、2012年に株式会社ネットマーケティング入社。マッチングサービス SRE・リクルーター・情シス部長・上場などを担当。2018年にレバレジーズ株式会社入社。開発部長、レバテック技術顧問としてエージェント教育・採用セミナー講師などを担当。2020年より株式会社LIGに参画。海外拠点EM、PjM、エンジニア採用・組織改善コンサルなどを担当。現在は合同会社エンジニアリングマネージメント社長 兼 流しのEMとして活動中。X(@makaibito

2015年から2022年の間、アベノミクスやコロナ禍での「カネ余り」に後押しされる形で、IT人材の採用やそれへの投資が進みました。採用投資は、費用面だけでなく工数面でも大きくなったことから、EMが重用されるようになりました。エンジニアバブルが収束した現在でも、件数は少なくなったものの、EMを求める組織は存在しています。

一方で「EMが居ないほうが良い組織なのではないか」というご質問も頂きます。その背景としては、成熟した人材を集めることで、マネジメントコストは下がるのではないかというものです。今回はEMが不要である事例を挙げながら、その必要性についてお話していきます。

全くEMが居なくても良い組織になるのか?

まずEMが不要な組織の条件について見ていきます。下記のような条件下であれば不要ですし、無理やり入れることによって人件費を圧迫してしまうこともあります。

開発組織が小さい組織

まずは開発組織が小さく、全体的に目が通しやすい組織です。

各社のEMとも時折話題になるのが「何名規模からEMが必要か」という議論です。チーム内のメンバーの顔ぶれにもよりますが、下記のような単位で語られることが多いです。

  • ・Amazon CEOのジェフ・ベゾス氏が提唱する「ピザ2枚ルール」に基づいて8名という説
  • ・評価時を想定して、目配りできる限界という経験則に基づいて10名という説
  • ・ある程度評価をリーダーに分散させた上で経験則に基づいて20名程度という説

時折スタートアップで開発組織が総勢1-2名にも関わらずVPoEが存在するケースがあります。その場合のVPoEは実質採用担当者ではありますが、評価対象などが居ないことを考えると「肩書を付与することによる権威性」以外に効果を期待することは難しいでしょう。

採用工数がかからない組織

面接や採用イベント出席が少ないと、採用に関するタスクが少なくなるためにEMが不要でもいいケースがあります。背景としては下記のようなものが想定されます。

  • ・積極採用をしていない
  • ・採用目的が欠員補充であり、一時的な採用工数で済む
  • ・業務委託が中心であり、スポットでの面談で済む
  • ・良い人がいればスポット採用というスタンスのため、書類選考のハードルが高く、面接件数が少ない
  • ・採用は人事の仕事として切り出しており、大きく問題にもなっていない

こうした採用工数が少ない組織の場合、EMを設置しても業務は評価が中心となります。評価業務のみですと目標設定時期や評価時期に多忙になりますが、定常的なタスクというわけではないので専任のEMは不要と判断されやすいです。

素直さを重視して採用された新卒が中心の組織

営業が強みの会社によく見られます。しっかりとしたビジネスモデルを新卒が忠実に実行することで利益が出るタイプの組織です。ただこのような組織の場合、開発チームがBizサイドの要件に従うだけの「社内受託」状態になりやすいほか、職種を問わずに中途の受け入れが下手であったり、スペシャリストタイプやイノベータータイプの人を受け入れることが苦手な傾向があります。

社員が共通のゴールイメージを持っており、調整コストが低い組織

ピープルマネージメントコストが低い組織の場合も、EMが不要になったり、他のポジションが兼務していてもうまくいくケースがあります。

  • ・未アサインのタスクが発見された場合であっても、速やかに手を挙げる方がそろっているメンバーシップ型に近い組織
  • ・新卒中途に関らず厳選された採用がなされており、MVVや事業に対する共感が前提となっている
  • ・展開しているサービスの方向性が明確であり、そこに共感した元ユーザーたちが社員になっている

特に最後のパターンは、事業内容が分かりやすい自社サービスでよく見られます。同じ方向を向いているために統率が取りやすい。社内ルールも少なくて済むためマネージメントコストが低い傾向にあります。

しかしここでも2つ注意点があります。

1つ目はサービス共感を求めすぎてしまうことにより、スキルレベルが低いというものです。2つ目は組織の急拡大のフェーズに入ると、どうしても同調しきれない人が入社して、急速に雰囲気が悪化していくおそれがあります。後者については、一気にマネージメントコストがかかるため、ある意味ハンドリングしにくい組織となってしまいます。

平均年齢が高く、酸いも甘いもかみ分けた人たちが揃っている

何社かスタートアップで見たことがあります。平均年齢が40歳前後、ほぼ全員がマネージャー経験者であり、n回目の新規事業挑戦(n>=2)を旨に参加していました。高度に空気を読むことができる組織であり、非常に穏やかな情熱を感じました。

評価がない・評価コストが低い

評価がなかったり、評価コストが低い場合もEMが専任である必要が少なくなります。

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各社の事例を見ていきますと、ユビーでは、給与設定は全社の事業進捗と連動するようにしています。全体的に年収水準が高いために不満は起きにくいとのことですが、全社員がストックオプションを持っていたり、「MRRがこの水準まで行けば、全員の給与がこの程度上がる」という業績連動昇給制度も合わせて採用しているようす。自社発信の評価に関する記事でも、「評価はしない」と明言しています。

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ソニックガーデンでは、弟子扱いの新卒を除いて、プログラマは一律給与としています。スペシャリストは給与ではなく、早くタスクを消化することで、時間分のインセンティブをもらえるという形式を取っているとのことです。早く終わらせて空いた時間は好きなことに使って良いという仕組みです。プログラマの仕事は評価が難しいことと、個々人のビジョン(内発的動機づけ)を重要視しての制度となります。

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また、一部SESやSIerのように案件稼働率でのみ評価する場合も評価時間が大幅に減少します。

ジュニア層が不在で教育コストが低い

教育対象となるジュニア層が居ない場合も、EMのタスク減少に繋がります。教育担当や教育監修としてのEMです。

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新卒の場合、長期インターンなどで事業へのコミット実績がある方も一定存在します。採用レベルや、オンボーディングなどによっては一時的な担当者としてのアサインでも十分対応可能な範囲となります。

フルタイムのEMは要らないが、少し手伝って欲しい場合

上記のタスクを積み重ねていくと、EM業務のタスク量が大筋で見えてくるようになります。丸々一人月のタスクがない場合、他の職務との兼務であったり、スポットでの顧問との契約が想定されます。私もレンタルEMとしてこうしたお話を受けておりますので、2年間実際にトライしてみた振り返りについて、次回お話ししたいと思います。

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