2024年1月4日
株式会社iCARE 代表取締役CEO 産業医・労働衛生コンサルタント
1979年生まれ、大阪府出身東京育ち。金沢大学医学部卒業後、2008年より公立久米島病院で離島医療に従事。「持続可能な地域医療の在り方」に疑問を持ち、一旦医師を辞め、MBA取得のために慶應義塾大学大学院経営管理研究科に入学。在学中に、心療内科・総合内科で医師として従事しながら、iCAREを創業。2016年に企業向け健康管理システム「Carely」をローンチ。厚生労働省の検討会において産業医の立場から提言し、2018年から同省の検討会委員も務める。iCARE代表を務めるとともに、現役の産業医としても活動している。プライベートでは四児の父。
意外に思われるかもしれませんが、産業医面談の場で転職・キャリアチェンジへの相談を受けることは少なくありません。その中で新型コロナ流行の前と後では、ひとつの変化があることを実感しています。この変化は、いくつもの職種の中でも、「手に職をつける」タイプのエンジニアにおいて顕著な変化です。
最終回である今回は産業医の立場から、「健康」に着目したキャリア形成についてお話してみたいと思います。
転職をキャリア形成の手段として考えると、健康という要素はあまり関係ないように感じられるかもしれません。しかし、これまでの記事でも紹介してきたように、エンジニアという職業にはさまざまな健康を害する要因が潜んでいます。
産業医としていくつものキャリアの分岐点を見てきた中で、「会社を辞める理由」は2つに大別されます。ひとつは、現職での働き方に不満があり会社を嫌いになってしまったという理由。もうひとつは、新たな職場に魅力を感じて転職候補先を好きになってしまったという理由。この中の「不満」や「魅力」を左右する要因として、健康を意識する方がコロナ流行後から増えていると実感しています。
企業が従業員の健康や働き方に対して十分なサポート体制を持っていない場合、従業員が体調やメンタルヘルスの不調で休職を余儀なくされることもあり、それで企業側へ不信感を抱いてしまうことも考えられます。健康状態が個人のキャリア形成を左右するのにも頷けます。
では、従業員の健康に対して企業はどんなサポートをしているのでしょうか。健康経営という考え方が普及した今、さまざまな企業が先進的な取り組みを行っています。ここでは、そうした先進的な取り組みの前に企業が義務として行う従業員の健康管理についてまとめてみたいと思います。
上記のような健康管理は「安全配慮義務」に基づいています。安全配慮義務とは、「従業員が健やかに働ける環境や制度を企業が整備する」ことを求めています。そのため日常業務に潜むさまざまな健康を害する要因を、企業が解消していく必要があるのです。
これまでは職場に出社して、始業・終業が同じ時間で、顧客との打ち合わせは訪問することが当たり前の働き方でした。一転して現在、特にエンジニア職のような採用難が続く職種に訴求するために、企業としても従来の通勤・出社を基本とした働き方だけではない勤務形態や、独自の健康施策を実行しています。
しかし、全ての企業がこのような施策を実行しているわけではありません。自身のパフォーマンスを維持向上させた状態で働いていけるように、自分にとって健康面で働きやすい組織かどうかをしっかりと見極めていきましょう。
これまで述べてきたとおり、企業は従業員の健康に対して配慮する義務があります。しかし、その対応はあくまで環境や制度を整えることや、発症後の対応に限られます。実際に自身の健康を守っていくためにはセルフケアが重要になっていきます。
セルフケアで行うとよい内容は以下になります。
どれもごく一般的なセルフケアですが、パフォーマンスを維持したまま仕事を続けていくためには必要不可欠なこと。実践の仕方については一般的な事柄ですので、ここでは控えさせていただきます。自分にあった方法を見つけ、無理なく続けられるものを実践していきましょう。
しかし、セルフケアを続けられない場合が多くあります。
それは本人のやる気の問題だけでなく、本人を取り巻く環境にも問題があります。過去記事「生活習慣の乱れは本人だけの責任じゃない!健康に影響する社会的要因・SDHとは」でも触れましたが、健康に影響を与える外的要因のことをSDHといい、職場の環境は特に大きな影響を与えます。
つまり、健康を維持向上させるためには、本人の努力に加え、職場環境をはじめとした外的要因の整理も必要不可欠なのです。
このことからも、自身が業務を行う環境選びが重要となってくると言えるでしょう。
連載最終回となる今回は、キャリアと健康の関係についてご紹介しました。キャリアや業務に前のめりになると、どうしても健康という概念は後回しになってしまいがちです。しかし、仕事に関わらず全ての資本となるのは、自身の心と体の健康です。崩してしまってからでは取り戻すのは難しくなってしまうので、ぜひともキャリアの道標のひとつとして健康を意識していただけると幸いです。
いま、日本の雇用形態は欧米に倣い、メンバーシップ型雇用からジョブ型雇用へ現在進行形でシフトしています。
ジョブ型雇用においては、健康はスキルのひとつとして捉えられているため、健康管理の面でも人事部門が一律管理する体制から、部門ごとに上司が部下の健康を管理する個別な体制へと変化してきます。そのため、「どの組織で働くか」よりも「どの人と働くか」が重要になってくるでしょう。
今後のキャリア形成においてはなおのこと、健康に対する嗅覚を鍛えていく必要があると思います。ぜひこれまでの内容をもとにヘルスリテラシーを身につけ、心身ともに健康なキャリアを歩んでください。
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