人間の脳細胞を電極の上に置いてつくった人工知能。日本語の音声認識を実現【研究紹介】

2023年12月13日

山下 裕毅

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米Indiana University Bloomingtonなどに所属する研究者らが発表した論文「Brain organoid reservoir computing for artificial intelligence」は、人間の脳細胞を用いて基本的な音声認識を行うAIシステムを提案した研究報告である。

このシステムは、生きている脳細胞の塊、すなわち脳オルガノイドを利用している。脳オルガノイドは、幹細胞を特定の条件下で育成することによって人工的に作られる、数ミリメートルの神経細胞の塊(ミニ脳組織)である。この脳オルガノイドは、最大で1億の神経細胞を含んでおり、計算に使用される。この脳オルガノイドは、成熟したニューロン、アストロサイト、神経前駆細胞など、さまざまな脳細胞のアイデンティティを有しており、脳構造の初期発達を特徴としている。

そして、このシステムでは脳オルガノイドを高密度の多電極アレイ上に配置し、脳オルガノイドに電気信号を送信するとともに、神経細胞が反応して発火するときを検出するために使用される。研究チームはこのシステムを「Brainoware」と呼んでいる。

関連記事:育てた人の脳細胞をコンピュータに接続、生きたAI「Brainoware」で学習し数式を解くことに成功

▲Brainowareセットアップの概要図

このシステムの目的は、シリコンチップに代わる低エネルギー消費のAI技術を提供することである。従来のAIに比べて、情報と処理の分離といったシリコンチップの限界を克服し、より効率的な方法でAIタスクを実行することが期待されている。

実際の実験では、脳オルガノイドは240の音声クリップから特定の個人の声を識別する方法を教師なし学習で学んだ。これらのクリップは、日本語の母音を発音する8人の声から構成されており、空間パターンに配列された信号のシーケンスとしてオルガノイドに送信された。初期の反応精度は約30〜40%であったが、2日間のトレーニングセッションを経て、精度は70〜80%に向上した。このプロセスは適応学習と呼ばれ、神経細胞間での新しい接続形成が重要な役割を果たしている。

▲Brainowareを使って音声認識タスクを実行するワークフロー

ただし、このシステムは音声の内容を識別するのではなく、話している人物を識別するだけの非常に単純化されたタスクである。さらに、オルガノイドは1〜2ヶ月しか維持できないという問題があり、研究チームはこれを延長する方法を模索している。

バイオコンピューティングの分野では、このようなシステムが従来のAI技術の課題を克服し、新たな可能性を開くことが期待されている。しかし、研究はまだ初期段階にあり、多くの課題が残されていることも事実である。

Source and Image Credits: Hongwei Cai, Zheng Ao, Chunhui Tian, Zhuhao Wu, Hongcheng Liu, Jason Tchieu, Mingxia Gu, Ken Mackie, and Feng Guo. Brain organoid reservoir computing for artificial intelligence.

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