2023年11月29日
株式会社iCARE 代表取締役CEO 産業医・労働衛生コンサルタント
1979年生まれ、大阪府出身東京育ち。金沢大学医学部卒業後、2008年より公立久米島病院で離島医療に従事。「持続可能な地域医療の在り方」に疑問を持ち、一旦医師を辞め、MBA取得のために慶應義塾大学大学院経営管理研究科に入学。在学中に、心療内科・総合内科で医師として従事しながら、iCAREを創業。2016年に企業向け健康管理システム「Carely」をローンチ。厚生労働省の検討会において産業医の立場から提言し、2018年から同省の検討会委員も務める。iCARE代表を務めるとともに、現役の産業医としても活動している。プライベートでは四児の父。
日常生活や社交の場はもちろん、仕事をする上でもコミュニケーションは欠かせません。社内・社外との業務上のやり取りや、部署間での関係性の構築など、オンライン・オフライン問わずあらゆる場面でコミュニケーションが発生します。
業務を円滑に進めるために大切なコミュニケーションですが、一方でコミュニケーションが原因で健康を害してしまう場合もあります。今回は業務とコミュニケーション、そしてメンタルヘルスの関係性について紹介していきます。
専門性が高く、高度な知識が求められるエンジニアは、その他の職業以上にコミュニケーションが必要です。
なぜなら、システムの仕組みや使い方の説明であったり、不具合の発生原因や対処した内容、さらに開発前の機能のすり合わせなど、知識の少ない人に対してもわかりやすく説明する必要があるからです。
実際に、採用の現場でもエンジニアにはコミュニケーションを求める動きがあります。以下の表は、レバテック株式会社が2022年に実施した調査結果です。
中途採用担当者へのアンケートで、エンジニア採用の選考の中で最も重視している点について聞いた結果、1位が「技術力」で48%、そして、僅差の2位が「コミュニケーション能力」で45.3%という結果になりました。
特に中途採用の場合、即戦力や高いポジションでの採用を考えている場合が多く、コミュニケーション能力が求められる背景には、プロジェクトマネジメントや、要件定義など上流工程の仕事を任せていきたいという思いが感じられます。
実際に、エンジニアとしてキャリアを積んでいく場合には場を仕切る力が求められます。また、普段の業務でもコミュニケーションが円滑であれば、より生産性を高めていくことができるでしょう。
しかし、一方でコミュニケーションはエンジニアはもちろん、働く人々のメンタルヘルスを損ねるストレス要因ともなっています。厚生労働省による「令和4年労働安全衛生調査」では、強いストレス要因として「対人関係(セクハラ・パワハラ含む)」(25.9%)や「顧客・取引先等からのクレーム」(22.8%)と、コミュニケーションに起因するストレスを感じる人が多くいることがわかります。
エンジニアの場合、考え方が非常に論理的で、説明や理解に高度な知識が必要となってくる専門性の高い職業です。加えて特有のコミュニケーションの問題もあり、ストレスはより深刻な問題となります。
実際に私が代表を勤めるiCAREのエンジニアに、iCAREはもちろん、これまでのキャリアでストレスに感じたコミュニケーションについてヒアリングしてみました。
高い技術や専門性が求められるエンジニアの業務内容は専門用語も多く、裏側のプログラムの内容や特性を非エンジニアが理解することは難しい場合が多いです。
しっかりと理解してもらうためには、知識レベルをあわせて丁寧に説明しなくてはなりませんが、その説明を考えることがストレスになる場合もあります。
短期的な売上や利益を目標にする部署とのコミュニケーションでよく発生する問題です。現場で働くエンジニアは、予算や利益率について把握していない場合があるとのこと。そのため、とある機能要件に対して「(予算内で)実現できる?」の問いに「(技術的には)実現できます」という、意思疎通が取れているように見えても、実は認識の異なるコミュニケーションが生まれていることもあります。
急な仕様変更や、修正依頼、システム障害など、エンジニアは緊急対応を強いられることが多いものです。見た目には軽微な問題だったとしても、エンジニアから見たときには複雑な問題がある場合も。理解していない人から「すぐ直るでしょ?」「なんでそんなに時間がかかるの?」といったような発言をされることがストレスになっていきます。
無理な仕事の依頼や、仕事へのリスペクトがない態度などは論外ですが、エンジニア特有の事情はあるものの、ほとんどの場合、エンジニアのコミュニケーション問題は相手との相互認識がないことによるすれ違いのように感じられます。
コミュニケーションを取ることがストレス要因となる一方で、コミュニケーション不足がストレス要因となる場合もあります。
三菱UFJリサーチ&コンサルティングが行った調査(在宅勤務者のメンタルヘルスの現況)によると、リモートワークを行っていない平時と比べ、リモートワークを行っている期間ではメンタル不調を抱えている人の割合がどの年代でも上昇していることがわかります。
エンジニア・非エンジニア問わず、組織としてコミュニケーションの機会を増やしていくことで、互いの立場や業務内容を知ることができ、コミュニケーションを円滑にすることができるでしょう。
近年、多くの企業が取り組んでいる健康経営においてもコミュニケーションは重要視されており、ミスコミュニケーションが健康状態の悪化の原因となり、ひいては経営上のデメリットになると認識されています。
そのため上場企業を中心に、健康施策としてコミュニケーションを活性化させるための施策が行われています。
健康経営優良法人を認定する際の調査においても、コミュニケーション促進施策は必須事項となっています。
それでは具体的な施策としてどのようなものがあるのでしょうか。
実際に、とあるIT企業では健康的な行動を行うとポイントが貯まるシステムを企画し、ポイントを利用したインセンティブを支給する施策を行っています。
社内イベントは部署の垣根を超えて、さまざまな人が集まるので組織内の相互認識を高めるよい機会になります。こうしたポイントシステムも健康増進にはもちろんですが、組織全体で共通の企画を実施することで、コミュニケーションを活発化させる効果もあると思われます。他にも禁煙イベントやウォーキングイベントなども多くの企業で実施されています。
また、1ON1ミーティングは業務や社内環境への悩みや不安を吸い上げ、アドバイスやフィードバックを行うことでストレス要因の改善にもつながります。より効果的に実施するためにも1ON1の頻度、話を聞くべき項目や事後の対応など、ある程度フォーマット化しておくことが望ましいです。
ストレスチェックの分析結果やサーベイ結果を分析した上で、必要だと思われる施策を実行していきましょう。
今回はエンジニアが抱えがちなコミュニケーションの問題について紹介してきました。コミュニケーションはストレス要因ともなり得るものですが、うまくスキルを磨けば、キャリアにおいて大きな武器となります。
また、普段仕事を共に行う仲間と適切なコミュニケーションが取れれば、業務上の生産性の向上にも大いに影響するものになります。そのために、以下の点に注意するとコミュニケーションがうまくいくかもしれません
1. ローコンテクストな会話を心がける
相手に対して「きっと知っているだろう」「これはわかっているはずだ」という先入観を捨て、細かく伝えるべきことを伝えるコミュニケーションを心がけましょう。話を聞く場合も同様で、前提条件はなんなのかをしっかりと確認しましょう。
2. 専門用語を言い換える
業務内容の専門性が高いエンジニアの場合、専門用語も日常的に飛び交っています。しかし、非エンジニアにはそれが理解できるかどうかわかりません。できるだけ誰にでも伝わる言葉を使ったコミュニケーションを心がけましょう。
コミュニケーションをストレス要因として忌避するのではなく、積極的に改善を重ねてエンジニアとしてのキャリアを育てていきましょう。
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