シェアを拡大し続ける中国のAIユニコーン「iFLYTEK(科大訊飛)」。革新的な製品で見せるエドテックの未来

2023年9月25日

中国アジアITライター

山谷 剛史

1976年生まれ、東京都出身。2002年より中国やアジア地域のITトレンドについて執筆。中国IT業界記事、中国流行記事、中国製品レビュー記事を主に執筆。著書に『中国のITは新型コロナウイルスにどのように反撃したのか?』(星海社新書)『中国のインターネット史 ワールドワイドウェブからの独立』(星海社新書)『新しい中国人 ネットで団結する若者たち』(ソフトバンククリエイティブ)など。

中国の「iFLYTEK(アイフライテック/中国語表記:科大訊飛)」という企業をご存知だろうか。中国のAIというと、バイドゥを筆頭に、テンセントやアリババやファーウェイやバイトダンスなどの企業が参入している。こうした大手IT企業とは別に、同社は古くからAI専門でやっていることで知られている。教育のオンライン化が進む中国において、AIやデジタル技術を導入したエドテックが台頭している(過去記事:「中国版のゆとり教育政策「双減」で教育はどう変わる?生き残りをかけ事業転換を迫られるスマート教育企業たち)が、iFLYTEKは学習タブレットの分野でも売上を伸ばしている。今回は同社の製品の特長と、独創的な製品をいくつか紹介しよう。

付加価値の高い製品で成功したiFLYTEK

iFLYTEKは変わり種ともいえるコンシューマー向け製品を日本市場へ出荷している。そして中国の競合製品よりも、機能面で上回っている製品が目立つ。よく最上位の機種だけ、または特徴的な製品だけをリリースする企業というのはしばしば見受けるが、同社の製品の場合はどれも特徴的であり、むしろ他社と機能面で正面から競争が発生するようなシンプルな製品は少ない。そのうえに付加価値をつけているので他社より値段が高いのだ。しかし、値段が高くとも要らない機能ではないため、ECサイトでよく売れている。人件費が高騰している中国で、多くの中国企業が安いだけの製品から付加価値の高い製品の製造を模索している最中だが、IT系企業の中でiFLYTEKは付加価値面で特に成功した企業といえよう

特長的なiFLYTEKの製品

ここからは同社の尖った製品を3つ紹介しよう。1つ目は『デュアルディスプレイ翻訳機』だ。オンラインで83の言語、オフラインで16の言語の翻訳のほか、32の言語の写真翻訳が可能で文字起こしも行う翻訳機だ。折りたたみ式のデュアルディスプレイが特長で、折りたたみ携帯電話やスマートフォンとは反対の面、つまり外側にディスプレイがあり、開いて別の人に見せることを意識した構造となっている。また、特長的な機能に同時字幕が挙げられる。PCと連動すれば、外国語の動画やビデオ会議で二か国語での字幕が表示されるため、内容を理解しながら視聴することが可能だ。

▲二画面分割が特徴的な『デュアルダブルディスプレイ翻訳機』

2つ目の尖った製品はビジネス向けのE-Ink搭載タブレット『スマートオフィスノートAirPro』だ。電子ブックリーダーに採用されるE-Inkを使ったタブレットで、手書きやキーボードでの入力に加え、カメラを通したOCRでの入力が可能だ。特に文字起こし機能が豊富で、単に文字起こしをするだけでなく、発言ごとに誰が話したかを声の方向から判別し発言者がわかるように記録してくれる。また、12種の方言を認識し6種類の外国語翻訳を行う。近年のAIトレンドを取り入れていて、会議内容を文字起こしした後、AIが要点をまとめてくれる。単にデータ転送にとどまらないパソコンとの連携作業機能も魅力的だ。ほかにもカスタマイズ可能な音声リーダーも搭載し、10のセンテンスを話すとAIが音声を作成し、その声で読み上げてくれる。

▲さまざまな手書き認識に対応するビジネス向けE-Ink搭載タブレット『スマートオフィスノートAirPro』

また同社のAI学習タブレット『T20』は、家での勉強を幼児から高校生までサポートする学習用ガジェットだ。値段は8799元と日本円で18万円弱という高価格商品だが、年齢別コンテンツを網羅するのはもちろんのこと、机上にテスト用紙や作文用紙を置くとカメラがスキャン。画面上で正誤チェックをする上に、同社が長年蓄積した教育ビッグデータとAIを活用し、アドバイスする。また、利用者の理解度を把握し、苦手なジャンルには簡単な問題を用意してくれる。音声を聞き取るAIと、ChatGPTのような文章生成チャットボットを活用した英語の会話練習も搭載している。

中国では競合他社も学習タブレットを開発しているが、iFLYTEKはこうした付加価値の高い技術を製品に投入し、ECサイトのデータによれば値段こそ高いが学習タブレットの中で売れ行きがいい。

世界的な評価を得たiFLYTEKのAI技術

このようにiFLYTEKの製品を見ると、ハードウェア的にも優れているが、それ以上に、「何ができるか」というサービス(ソフトウェア)が尖っていることがわかる。そして、そのサービスには音声認識や文字認識、文章自動生成など同社が開発したAIが活用されている。

同社は音声認識AIの分野で技術研究に投資し、圧倒的な技術力で多くのスマートスピーカーなどに搭載されるようになった。アメリカ国立標準技術研究所によるOpenASR(Speech Recognition Challenge) が開催した世界15言語の音声認識コンテストにおいて、1位を獲得している。

このように、世界的に見ても同社のAIは確かな実力がある。さらにオープン化されたAIプラットフォームを38万人の開発者に提供。さらに研究を強化したほか、文字認識や翻訳にも力を入れている。2022年に行われた冬季北京オリンピックでは、公式翻訳機を提供するなど中国国内でも音声認識の高い技術力を認められる企業になった。

「双減」政策下でも技術力でシェアを拡大している

ところで中国の教育というと、塾などの校外学習を禁止にした「双減」政策をご存知かもしれない。これはそれまで多すぎた学生の勉強量を減らすための政策だ。しかし、タブレット型などの学習系ガジェットは販売は禁止になっておらず、iFLYTEKもこの政策で大きなマイナスの影響は受けなかった。「双減」を行うからといって中国がエドテックを捨てるわけではなく、各地方政府が一部の地域や学校でエドテックの製品を導入している。そこにコンシューマー向けエドテック製品で技術力を高めたiFLYTEKのソリューションが導入されている。

いくつか具体的な例を挙げよう。安徽省蚌埠市では都市部と農村部の教育格差是正のために、2019年から農村部の教師と生徒にタブレットを提供した。このタブレットはiFLYTEKのコンシューマー向け製品をそのまま提供したのではなく、専用のソリューションが入ったものとなる。教師は必要な教材を専用のクラウドサーバーからダウンロードし、生徒のタブレットに転送する。また、教師向けの生徒評価サービスを提供し、テスト問題の自動採点やテスト、授業の各種統計分析を行っている。そのため、教師の作業時間や負担が軽減するとともに、各生徒に即した指導を的確に行えるようにしたという。

山東省青島市の小学校では、教師が授業中にタブレット操作で各生徒のタブレットに問題を転送。一斉に問題を解くという授業を行っている。生徒たちが解答をすると、問題の完了率や正答率などといった詳細なデータ分析が即座に教師のタブレット上に表示され、教師はこれらのデータを見ながら、間違いやすいポイントを把握。間違えた生徒には、問題を解くためのポイントについてアドバイスを行うといった具合だ。ほかにも美術(図工)の授業で、同社のタブレットと筆圧感知ペンとペイントソフトを使い、スケッチや線画を行うといった取り組みも行った。生徒のデータは前述のとおり自動分析されているので、授業の準備や添削、指導のクオリティが向上したという。

▲感圧ペンとタブレットを使った美術の授業

湖北省武漢市の中学校では、教師が各生徒の力量に合わせた宿題を出している。データ分析によって各生徒がすでに理解していることは宿題に出さず、理解してない点について個々にフォローアップする問題を宿題として出す仕組みだ。これにより、生徒の負担を減らして学習効率を向上させた。さらに授業後には確認テストを通じ、指導効果をチェックし、同社のビッグデータに基づいた指導システムで各生徒を自動で細かく分析。クラス全体でよく間違えたポイントについて、システムより提案された適切なフォローアップ問題を活用して学力を強化させている。また、体育の授業では各生徒の心拍数や運動量を記録して教師が運動や身体状況を一目でわかるようになっている。教師はタブレットを活用し、このように運動のデータ化を行うことで、各生徒に最適な指導を行い、成績を向上させる取り組みを行っている。

▲体育の授業で活躍するタブレット

湖南省岳陽市の高校学力レベルテストでは、同社のシステムを活用。英語のスピーキングとリスニング、音楽、美術、情報技術、一般技術、体育、理化学実験など11科目を実施した。採点処理が自動で行われ、現場の作業効率が向上した。

▲大規模言語モデルやAIを活用した学習用タブレット

教育のスマート化を進める中で、iFLYTEKは今後も中国のエドテックで重要なポジションであり続けるだろう。同社は大規模言語モデルを「SparkDesk(星火認知)」という名でリリースし、その活用の場を拡大し続けている。創業時に「機械が聞き、話し、人工知能を活用してより良い世界を構築する」というミッションを掲げている。今後もこのミッションを柱に、教育業界に留まらず、さまざまな業界でAIを活用したソリューションをリリースしていくだろう。

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