【スタートアップにおける良い開発者体験とは】株式会社ゆめみの「全員CEO制度」で見えてきた、全員が意思決定する組織構造の光と闇

2023年4月27日

株式会社ゆめみ 執行役員 / テクニカル・エバンジェリスト

桑原 聖仁

東京の大学院修士課程修了後、システム開発会社に新卒で入社。ECサイト新規構築・保守、フロントエンドエンジニアの経験を積み、現在ゆめみに在籍。エンジニア組織を横断した生産性や開発者体験向上、組織開発に取り組む。Ionic Japan User Group スタッフ、Riot.js コアコミッターなど。

Webサービスに必要なサービスデザインやシステム構築・運用、改善などの支援事業を行う株式会社ゆめみ。全員が「CEO」として意思決定を行う独特の組織体制を敷いているが、さまざまな課題も抱えているという。本セッションでは、ゆめみで執行役員を務める桑原 聖仁氏から、独特な組織構造の利点と問題点、そして現在取り組む課題について語られた。

全員CEO。「自律・自学・自責」を指針にした自由すぎる組織

セッションの冒頭で、ゆめみは全員が意思決定する組織であること、そしてその行動指針を「自分達で考え、自分達で行動、自分達でコミットすることが企業文化の根底にある」と語る桑原氏。

「ゆめみでよく話題に上がる『全員CEO制度』要は社員全員に、CEOと同じ代表権限を渡すというものです。企業として今どこに注力すべきか、自分達で考え、意思決定できるように権限委譲した制度です」

社員全員が意思決定できるということは、上下関係や上司といった管理職がいないことを意味する。社員間で相互にコミュニケーションを取りながら役割分担をし、意思決定をしているという。

▲ゆめみの組織構造図

では具体的に、どのような組織構造になっているのか。上記の図版を示しながら桑原氏は、ゆめみの組織は職能型で設計されており、それぞれの職能ごとに複数のチームがぶら下がる状態だと話す。新しいプロジェクト(案件)が生まれると、デザインやPMなど職能で分けられた各チームからメンバーを集め、プロジェクトチームを組閣していく。メンバーそれぞれに、所属するチームと案件のチームがあるというわけだ。

また最近は、チームにプロジェクトをアサインし、チーム内で工数のやりくりをすることで、人の冗長化を図る動きをする職能グループ(ゆめみではギルドと呼びます)も生まれ始めました。

「トップダウンで、“このメンバーをこのプロジェクトにアサイン”と決められるのではなく、“このプロジェクトがやりたい”とメンバー自らも選べる。これが面白いと思います」。

また、開発組織の構造も実に興味深い。組織内部には2つのグループが存在し、一つには「BROAD」と呼ばれる取締役が属するチームがあり、今後の会社運営や採用など全体的な話が検討される。もうひとつは、現在の組織が抱える問題や課題を発見し改善する自発的につくられたグループで、2グループは相互作用しながら稼働している。

参考:ゆめみオープン・ハンドブック

▲ゆめみの開発組織構造図

『DX Criteria』でゆめみの得意・不得意を数値化。見えてきた改善点とは

桑原氏は組織の評価として、一般社団法人 日本CTO協会が公開している『DX Criteria (v202104)/企業のデジタル化とソフトウェア活用のためのガイドライン』(以下、『DX Criteria』)を用いることをすすめる。

「『DX Criteria』では、デジタル時代の超高速な仮説検証能力を得るために、企業のデジタル化(デジタル・トランスフォーメーション/DX)と開発者体験(デベロッパー・エクスペリエンス/DX)、この2つのDXが必要不可欠だと語られています」

▲『DX Criteria』による分析構造

公開中の『DX Criteria』には、5個のテーマ、8個のカテゴリ、8個のチェックリストの320項目に、最近新たに追加された8項目が加わり、合計328項目のチェックリストから成る。これを一つひとつチェックしていくと、社内のDXがどれだけできているのかという進捗度や、逆に弱点が可視化される仕組みだ。

「実際に集計までしなくても、評価基準となる項目を知るだけでも参考になります。DXってこういうことをすればいいんだな、という指標にしてもらえれば」と桑原氏。

▲設問に答えていくだけでDX化の進捗率が可視化できる

セッションでは、社内のとあるチームのアセスメントも公開された。「team」「system」「corporate」「data」「design」という5つのテーマに分けて評価したところ、開発会社だけあってsystemやcorporateは高評価だったため、桑原氏は一安心したと笑う。

Slackなどコミュニケーションツールの使用についても強いという結果が出たが、同時にデータ活用やセキュリティなどのカテゴリにおいていくつかの課題も見つかったという。

テックリードチームによるサポート体制の光と闇

続いて今回のテーマ「全員が意思決定する組織の光と闇」に話題が移った。最初に挙げたのは、エンジニアに対するサポート体制だ。ゆめみには職能ごとにテックリード職を集めたテックリードチームがあるという。各種技術支援や第三者レビュー、ハンズオンによるレクチャーなどを行い、技術的な支援環境を整えている。

▲(左)テックリードチームによる支援内容/(右)プロジェクトにおけるテックリードチームの役割

これは対メンバーだけでなく、プロジェクトに対しても同様で、不具合が出るなど緊急時にはチームとして一緒に手を動かしてリカバリーをし、安定した品質の確保や育成体制の構築等、さまざまな後方支援をしている。

ただ、この体制にも「闇」の部分があるといい、桑原氏は3つの課題を挙げた。

  1. 1. プロジェクトリード(いわゆるリードエンジニア)とテックリードを兼任
  2. 2. テックリードチームへ依頼をあまりしないグループもある
  3. 3. テックリードチームも全ての技術を把握してはいない

リードエンジニアとテックリードを兼任しているケースも見受けられるそうだ。役割分担と責務を分けたいと考えつつ、実情として課題も多く難しいと語る。さらに、せっかくテックリードチームがあるにも関わらず、なかには相談しないチームもある。

▲ゆめみのサポート体制が直面している3つの課題

「必要ないという状況であれば素晴らしいのですが、そうでなければ、テックリードチームは相談を受ける姿勢ではなく、“なにか問題ありませんか”と、声掛けをしていかなければいけないなと考えています」。

新しい技術へのチャレンジの光と闇

クライアントワークをする会社であることを前提に、桑原氏はメンバーの成長そのものが、ゆめみの成長に直結すると言い切る。課題解決に最適な技術の活用を目標に、毎年技術投資を行い新しい技術への挑戦をサポートしているが、技術選定は各メンバーに一任している。メンバーの自主性が最大限に担保されているものの、次のような2つ課題の「闇」が見られるそうだ。

課題①:習熟していない技術のリスクを加味し挑戦しない

新しい技術を使って新しい案件をやりましょうという話をしても、「Valueをしっかり出せるか」「納期を守れるか」など、どうしてもリスクが発生してしまう。結果、やり慣れた技術で進めてしまい、結局チャレンジに至れない。

課題②:水平方向のチャレンジが目につく

人間だから興味・関心が勝ってしまう。必要性よりも、いま話題の技術であったり、新しいものの技術的には似たものにチャレンジしてしまう傾向があると感じる。案件ごとの事情もあり、仕方ない部分も大いにあるものの、本来必要なものの優先度を下げてしまったり、慣れた技術でカバーしたりといった、水平方向のチャレンジが目についてしまう。

ゆめみの組織構造の光と闇

セッションの最後に、桑原氏は現在ゆめみが抱える組織構造上の問題点についても指摘した。

「細かな社内標準化や平準化、効率化のための委員会や運営委員会などが存在するため、相談場所が多すぎてわからない、もしくは複数箇所に相談したけど、どっちの意思決定が正しいのか判断できない。全員CEOなので、みんなが考えて意思決定しますが、各チームがそれぞれ最善策を出した結果コンフリクトが発生し、みんなが袋小路になることもあります」

さらに、各ギルドメンバーが集った委員会のコアメンバーが重複するなど、オーナーシップを取るメンバー、コアメンバーの偏りはじめているとも指摘した。桑原氏は色々な人と意見交換しながら組織を改良しようと考えていると話し、今後のゆめみ組織の進化に期待してほしいと、セッションを結んだ。

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