2023年3月27日
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米Indiana University Bloomingtonなどに所属する研究者らが発表した「Brain Organoid Computing for Artificial Intelligence」は、実験室で育てた人間の脳細胞をコンピュータに接続して数式を解くことに成功した研究報告である。
脳がどのように機能しているのかという問いに答える新たな手法として、ES細胞から脳に類似した組織を作る研究が登場した。この組織体は、細胞自身が備えているプログラムに従い、自発的に自身の組織を作る特徴を持つ。このような特徴である組織体は、後に「脳オルガノイド」と呼ばれるようになる。
そして、人工的に多様な細胞へと分化できるiPS細胞の登場により、脳オルガノイドの研究が加速する。脳オルガノイドの作り方の基本は、幹細胞を3次元の球状に集め、特殊な液に浮遊させた状態で培養することである。これまでにも、大脳や海馬、視床など様々な部位が作られ、研究されてきた。
さらに、脳は異なる組織や領域がつながることで機能するため、脳の異なる領域のオルガノイドを物理的に融合する「アセンブロイド」が登場した。例えば、背側前脳と腹側前脳のオルガノイドを融合するなどである。
一方で、コンピュータは膨大なデータセットを人工ニューラルネットワーク(ANN)などのアーキテクチャで処理する。GPUの進化も加わり、AIは急速に発展してきたが、トレーニングする際に大量の熱が発生し、時間とエネルギーを膨大に消費する。このようなAIハードウェアはANNを駆動するために約800万ワットを消費するのに対して、人間の脳は約20ワットの電力消費で済むことから、研究チームは、人間の脳がAIにとって理想的なハードウェアだと考えた。
今回の研究は、脳オルガノイドをコンピュータに接続した生きたAIハードウェア「Brainoware」を提案する。Brainowareは、脳オルガノイドの3次元生体神経ネットワークの計算を利用し、電極アレイを介して情報を送受信することで計算を行い、トレーニングデータから学習するという。「Organoid Intelligence」(OI、オルガノイド・インテリジェンス)と呼ばれたりしている。
実験を行うため、脳オルガノイドを多電極アレイに乗せてBrainowareを構築した。
論文によると、脳オルガノイド内の3次元生体神経ネットワークは、外部からの電気刺激によって入力を受け、誘発された神経活動によって出力を送ることができ、AIコンピューティングの機能基盤を提供できるという。
実用性を評価するため、脳オルガノイドを用いてエノン写像と呼ばれる非線形方程式が解けるかという実験を行なった。結果は、リザバー計算とオンチップ学習を利用し、入力されたパルスから学習してエノン写像を予測できたという。
結果としては、Brainowareは長・短期記憶(LSTM)ユニットを持たない従来のANNモデルを上回ったが、LSTMを持つANNモデルよりもわずかに精度が低かった。
今回の論文には詳細が書かれておらず、プレプリントであることに留意したい。一方で、情報処理に生物学的ニューロンを使用する今回のバイオコンピュータは興味深く、探求する価値がある分野と言えるだろう。
Source and Image Credits: Hongwei Cai, Zheng Ao, Chunhui Tian, Zhuhao Wu, Hongcheng Liu, Jason Tchieu, Mingxia Gu, Ken Mackie, and Feng Guo. Brain Organoid Computing for Artificial Intelligence.
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