バイセルCTO今村雅幸氏に聞く!データドリブン経営実践の舞台裏【#ThanksGivingDay2022】

2023年1月30日

株式会社BuySell Technologies 取締役CTO 

今村 雅幸

2006年、ヤフー株式会社に入社。Yahoo! FASHIONやX BRANDなどの新規事業開発に従事。2009年に株式会社VASILYを創業し、取締役CTOに就任。2017年にVASILYをスタートトゥデイ(現ZOZO)に売却し、会社統合とともに2018年、ZOZOテクノロジーズの執行役員に就任。CTOとしてZOZOのプロダクト開発やエンジニア採用・教育・評価などのエンジニアリング組織マネジメントなど幅広くDXを推進。2021年3月に株式会社BuySell Technologies取締役CTO就任。

グーグル・クラウド・ジャパン合同会社 カスタマーエンジニア

岩成 祐樹

カスタマーエンジニア。Google Cloud の導入支援やイベント登壇を通じて、スタートアップなどのデジタルネイティブ領域のお客様を技術支援。好きなプロダクトは Cloud Run & Cloud Spanner。趣味は旅行とキャンプ。

2022年12月17日に日本CTO協会主催で開催された「#ThanksGivingDay2022」。グーグル・クラウド・ジャパンのカスタマーエンジニア岩成祐樹氏をモデレーターに、日本CTO協会の理事を務める、BuySell Technologies 取締役CTOの今村雅幸氏が「データドリブン経営の実践」をテーマに、テクノロジーや組織文化などについて語りました。

バイセルの成長を支えるデータドリブン経営への取り組み

岩成:本日はバイセルが実践するデータドリブン経営について、具体的にどのように実践されているのか、いろいろお話を伺っていきたいと思います。まずは今村さんからバイセルさんについてご紹介いただけますでしょうか?

今村:日本CTO協会で理事を務めている、BuySell Technologies CTOの今村です。BuySell Technologies(以下、バイセル)はグロース市場に上場しており、「人を超え、時を超え、たいせつなものをつなぐ架け橋となる。」をミッションに、誰かの不要なものを、誰かの必要なものへとつなぐ、総合リユース事業を展開しています。バイセルの特徴は、出張訪問買取サービスをメインビジネスにしているところです。6期連続で成長を続けており、今期の売上予想は340億円。グループ全体で1400人規模と、出張訪問ビジネスをメインにしている業界では日本で最大規模の会社となります。

岩成:ありがとうございます。データドリブン経営が中期経営計画の投資領域にも入る重要なトピックであることは理解しているのですが、どのようなモチベーションやニーズで取り組まれているのでしょうか。

今村:バイセルが実践しているデータドリブン経営とは、経営に必要なすべてのKPIを数値化し、そのデータをもとに意思決定してビジネスを推進していくことです。

具体例を挙げると、バイセルは経営を司る買取サービスだけでも、100個以上のKPIが存在していて、そのすべてがツリー状に結び付けられています。出張訪問で1日の売上をまず目標件数と1件あたりの買取額に分解していく。さらにその買取額の内訳をブレイクダウンして

  • ・どういうエリアの
  • ・どんな属性の顧客に
  • ・誰が訪問するのか

まで、個々の項目の解像度を高め、これらを全部数値化し、一回の訪問でどれぐらいの金額が買い取れるのかを予測します。

全社のデータソースを1カ所に集約するデータ基盤構築

岩成:経営にすごくインパクトがあるところで、データドリブンが実現できているというお話でしたが、具体的にはどんなチャレンジやアクションをされてきたのか。まずはテクノロジーの観点で、どのような課題にどう取り組んできたのか、お聞かせください。

今村:多数のKPIを扱うため、当然ながら様々なデータソースが必要になってきます。そこで大きな課題になっているのは、データソースが散らかっていることです。データベースにちゃんと入っているデータもあれば、スプレッドシートで管理されているものもあります。

さらに、オフラインにのみ保管されているデータも存在していて、個人PCのデスクトップにあるCSVファイルやExcelファイルをローカルで結合させてKPIを出したりすることもありました。このように、データの属人化により、データソースそのものの信憑性が低いことも問題視されてきました。

そこで、より正しいデータが正しく取れるように、データ管理の仕組化とデータ基盤の構築に取り組みました。信憑性が低いローカルのデータソースを精査し、まずはデータ基盤をつくることを目指しました。これはどの企業にもいえることですが、データドリブン経営やDX推進において、データソースの整理とデータ基盤の整備は常に最重要事項です。実際、前職のZOZOでも、最初に取り組んだのはデータ基盤をつくることでした。

岩成:ありがとうございます。ちなみにデータの整理にはどういうふうに取り組んでいますか?

今村:まずデータ基盤をつくる上で一番大事な、全部のデータを1つのデータベースに集約することから始めました。要はSSOT(Single Source of Truth:信頼できる唯一の情報源)の実現です。そこからほしいデータを取り出して、BIツールで加工したり、機械学習を使って分析したりできるようにしたいと思っています。

そのために私たちが選んだのは、Google Cloud の「BigQuery」です。プロダクト開発に使われるデータはもちろん、業務で使っているようなスプレッドシートや人事関連の情報など、プロダクト開発とまったく関係なくても、社内で使われているデータであれば漏れなく全部入れるようにしています。

全部を1カ所にまとめてから、次は分析です。BIツールに関しては検証を重ねた結果、こちらも Google Cloud の「Looker Studio」を採用させていただきました。現在はBigQueryへデータをシンクするシステムを自社で開発していますが、Datastreamに切り替えも検討しています。スプレッドシートなども「Databricks」を使って、データベースに自動的に入れるフローを組んでいます。

CTOとしての技術選定のポイント、現場に任せるメリット

岩成:データを1カ所に集めるためにBigQuery、BIツール、データ処理のためのツールを挙げていただきましたが、その選定理由と選定プロセス、CTOとしてその決定プロセスにどう関わっていったのでしょうか。

今村:データベースの技術選定に関していうと、BigQueryを中心にデータ管理を行うという意思決定は、私自身がしています。選定理由は前職での経験であったり、他社に導入事例を聞いたりしながら意思決定しました。

ただ、BIツールやデータベース関連のツールに関しては、必ず現場で実際に毎日使うメンバーに検証してもらっています。本当に使って良かったものを取り入れるようにしています。

これまでエンジニア組織を作ってきた中で気づいたのは、CTOは万能ではないということ。おそらくどの会社にも、CTOより適切な技術選定ができる人はいると思います。技術は日々バージョンアップされて、進化しています。昔はいいなと思った技術が今はもう廃れていたりしているかもしれません。

CTOの先入観だけで決めず、その業務に一番関わっているメンバーに技術検証してもらい、自分たちで選んだという納得感を持ってもらう。そのほうが圧倒的にモチベーション高く推進できるのではないでしょうか。

さらにその技術選定の過程や検証結果も、全てドキュメントにして残しています。組織を効率よくスケールさせる上で不可欠なプロセスだと思います。

データドリブン経営を目指す組織文化の創り方

岩成:先程データ基盤をつくる最初のプロセスについて、現場に散らかっているデータを一通り集めるとおっしゃいました。それは現場メンバーからして「面倒くさい作業」であり、かけ声だけでは組織全体が動かないというケースもあると思います。テクノロジーの面もそうですし、データ分析やデータドリブン経営を目指すという意識付けはどのように取り組んでいますか。

今村:バイセルでは、ビジネスサイドも含めてデータで会話する文化が元々ありました。そこへ、データサイエンス部門のメンバーが中心となって、全社向けにデータを扱うための勉強会を開催し、全員がデータを扱えるようになろうという啓蒙活動を行っています。

BigQueryから必要なデータを取り出すためのクエリーを書く会をつくったり、データサイエンス部門に質問できる時間を毎日1時間設定したりするなど、データを扱える人材をビジネスサイドでも育成する取り組みを行ってきました。

現在では、ビジネスサイドの各部門からクエリーが書けるようになったアンバサダー的なメンバーが40人くらい出てきました。さらにデータを扱えるメンバーを増やし、良い成果を出すことで、「やっぱりみんなが使えるようになった方がいいよ」といった空気感をつくって、どんどん輪を広げていきたいと思っています。

岩成:私もプリセールスとして、営業の方々と一緒にデータドリブンに関するハンズオンを開催して、オペレーションの自動化やデータ活用のメリットを啓蒙する取り組みをしたことがあるので、大変共感しました。

最後に、今後データドリブン経営という観点でやっていきたいことや目指していることについてお聞かせください。

今村会社の成長を司る要素として、意思決定のスピードはかなり大事なポイントです。ビジネスサイドがいつでも自分でほしいデータを取り出し、意思決定できるようになれば、さらなる成長に繋がっていく。時間はかかるかもしれませんが、今後もビジネスサイドを巻き込みながら、データ活用ができる組織文化を作っていきたいと考えています。

岩成:ありがとうございます。我々もそのスピード感についていけるように頑張っていきたいと思います。

文:馬場 美由紀
撮影:Qiuyu Jin

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