2022年12月8日
合同会社エンジニアリングマネージメント 社長 兼 流しのEM
2000年より慶應義塾大学村井純教授に師事。動画転送、P2Pなどの基礎研究や受託開発に取り組みつつ大学教員を目指す。博士課程(政策・メディア)修了。その後高学歴ワーキングプアを経て、2012年に株式会社ネットマーケティング入社。マッチングサービス SRE・リクルーター・情シス部長・上場などを担当。2018年にレバレジーズ株式会社入社。開発部長、レバテック技術顧問としてエージェント教育・採用セミナー講師などを担当。2020年より株式会社LIGに参画。海外拠点EM、PjM、エンジニア採用・組織改善コンサルなどを担当。現在は合同会社エンジニアリングマネージメント社長 兼 流しのEMとして活動中。X(@makaibito)
エンジニア面接官が採用シーンに登場することも一般的になっている昨今ですが、カジュアル面談や面接を担当するメンバーが突如欠席し、ほかのメンバーにピンチヒッターを任すことがあります。欠席の理由は体調不良のほか、障害対応や緊急リリースなど、エンジニア特有の理由もあります。
面接そのものを再スケジュールすることもありますが、候補者の企業決定スケジュールや当該企業への興味レベルによっては、辞退につながってしまいます。そのため、面接に慣れていないメンバーに代理をお願いすることもよくあります。
ただ私の持論として、「面接官教育を受けていない場合、面接官は自身の受けた面接を再現する傾向にある」というものがあります。自分が受けた面接を再現するやり方では、適切に候補者をジャッジすることが難しいばかりか、NG行動をとってトラブルに発展する可能性も少なからずあるでしょう。理想としては事前に人事採用担当などから面接官研修や教育、模擬面談・面接を受けておくのが理想ですが、必ずしもピンチヒッターであればそれは叶いません。
そこで今回は、緊急で面談・面接の依頼を受けた際に押さえるべきポイントを、普段私が実施している面接官研修コンテンツをもとにお話しします。
まずは自分が担当者として何を期待されているかを把握しておく必要があります。よくある面談・面接は大きくは下記の3タイプでしょう。
この中で、とくに気をつけていただきたいのは、カジュアル面談です。経験上、新卒入社された方や、人材紹介経由での転職をされた方、面接官経験者であっても人材紹介会社経由からのみの採用しかして来られなかった方、大手有名企業での採用しか経験されて来なかった方はカジュアル面談についての誤解を持ちやすい傾向にあります。
ご自身が転職を経験されていない方や転職経験が人材紹介経由だけの方が誤解しやすいのが、人材紹介や自社のコーポレートサイトなどからの自己応募経由でやってくる人材と、企業がスカウト媒体でスカウトしてきた人材との違いです。
一部人材紹介からやってくるVIP待遇の人を除き、人材紹介会社では一般的に応募意思が獲得された状態で自社の面接に臨みます。コーポレートサイトからの自己応募についても、多くの場合は選考意思をもってやってきます。こうした人たちは選考意思があるため、直接選考面接に進めても問題ありません。
しかしスカウト媒体でスカウトした人材の場合、「弊社はこういうものなのですが、経歴を拝見し、求めている人材に近く素晴らしいと感じました。ぜひ一度お話をさせていただけませんか?」といったトーンで声をかけている状態です。そこで実施するのがカジュアル面談です。
カジュアル面談の目的は会社や事業に興味を持ってもらい、選考に進んでもらうことにあり、つまりは企業側からナンパをしている状態です。声をかけられた候補者も「話だけなら聞いてみるか」という状態で、この段階では選考意思は皆無と思って良いです。
同様に、この段階でプロフィール・履歴書・職務経歴書がまだ整っていない候補者もいます。そのため、「応募者情報が書き込まれていないのでNG」としてしまうのは時期尚早です。選考への意向を高め、その気になってからきちんと書き込まれた履歴書・職務経歴書の提出を受けましょう。
しかし、カジュアル面談が何者かを知らない状態の担当者が担当すると、下記のようなトラブルが発生します。
こうしたことは候補者が気分を害するのはもちろんとして、TwitterなどのSNSやGoogleマップの口コミなどに書かれてしまい、風評が悪化するリスクがあります。カジュアル面談の場合は、候補者がどのような状態か、どのような声掛けを行ったのか当事者になるべく確認するようにしましょう。
では、いよいよ面接に向けてのお話です。差し迫った時間や用意されている社内資料の充実度によってできる・できないの違いはありますが、ご参考までにどうぞ。
人事採用担当者などから会社説明資料を受け取りましょう。ただ実際には、まとまったものが用意されているとは限らず、下記のようなものがあります。
得てして、目を通すだけのはずが、思った以上に時間がかかる可能性もあるため、余裕をもって事前に入手するようにしましょう。
企業によっては、全てのオンライン面接を録画保存しているところがあります。後からの振り返りができるため非常に有用です。時間に余裕があればこうした録画を見て、どのように話すべきかイメージを掴んでおくと良いでしょう。
私のお客様では、面接官研修、ワークショップ、模擬面接などと併せて面接録画のチェックをしています。主要なチェックポイントは下記になります。
この点に関しては、厚生労働省が面接官の手引きを用意しています。差別に繋がる恐れがあるために聞いてはならない質問が、ひと通りリストアップされているので、確認しておきましょう。面接にて親について聞くシーンは少ないとは思いますが、出身地を尋ねる質問は部落差別などに繋がるリスクもあるため配慮が必要です。
余談ですが、過去に血液型を聞いて合否を決めている方にお会いしたことがあります。論外ですね。
カジュアル面談や面接の後半には、必ず「逆質問」と呼ばれる候補者から企業に対する質問が行われます。この逆質問に対しまったく用意せずにいくと、思わぬ質問をされてタジタジになるかもしれません。
よく聞かれるものとして、平均残業時間や有給消化率などの会社情報です。これらのデータに関しては、社内の統計として話さないと誤解が生じやすいものがあるので、あらかじめ備えておくことが安全です。過去には「入社時に聞いていた平均残業時間と、実際の残業時間が大幅に違っていた」「2年目に得られる年収について面接官が明言をしてしまい、入社後にトラブルになった」などの実際にトラブルになっているケースは多々あります。
また、相談を受けた方の中には「競合他社のエンジニアから面談希望が来た!これで即戦力が入社するかもしれない!あの会社より弊社の方がイケているのかもしれない!」と思っていたら、ただのスパイだったというケースもあります。
企業によっては、社員数やエンジニア数から売り上げが推測されてしまうため、明言をNGとしているところもあります。同様に、まだ世の中に出ていないプロジェクトや上場時期なども回答NGな場合があります。
こうした回答してはいけない事柄を念頭に、常日頃から人事採用担当はエンジニアと連携しながら面接FAQの作成をしておくようにしましょう。
また、「面接官の○○さんがこの会社に入社した理由は何ですか?」「この会社のどういったところが気に入っていますか?」といった、面接官のキャリアについての質問もよくあります。これらの質問に対し返すことができないと、候補者の心象をかなり損なうし、せっかくの自社をPRするチャンスを逃してしまうため、事前に周囲とも話ながら整理しておくことをおすすめします。
面接官が増えるに当たり、よくある問題として、「各面接官が選考結果をなんとなく評論するにとどまってしまう」というものがあります。良いところや懸念点は書いてあるものの、メンバーとして迎え入れて良いかどうかが面接記録から伝わらないというものです。
もう1つの問題点として、自社の社員として重要な要素の抜け漏れがあります。対象者が入社後、パフォーマンスに問題があったりすると面接記録を振り返るのですが、その際にスキルや姿勢で本来重視されるべきものを誰も確認していないという展開が多々あります。
構造化面接のエッセンスを取り入れ、自社で絶対に譲れないポイントをもとにした3項目ほどの質問を作成し、面接課程で誰かしらが確認する形にしましょう。また、どういった回答であればどういう評価をするのか、判断基準も事前にすり合わせておくことをおすすめしています。
就職氷河期の買い手市場では、面接は企業が候補者を選別するだけのコミュニケーションでした。今では99%の面接において、企業が候補者を選ぶと同時に、候補者からも企業を選ぶ時代です。面談や面接の最大のポイントは、候補者にとって不快感が残らずに終わることです。読後感ならぬ、面接後感が良いものになるように心がけましょう。
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