2022年7月27日
合同会社エンジニアリングマネージメント 社長 兼 流しのEM
2000年より慶應義塾大学村井純教授に師事。動画転送、P2Pなどの基礎研究や受託開発に取り組みつつ大学教員を目指す。博士課程(政策・メディア)修了。その後高学歴ワーキングプアを経て、2012年に株式会社ネットマーケティング入社。マッチングサービス SRE・リクルーター・情シス部長・上場などを担当。2018年にレバレジーズ株式会社入社。開発部長、レバテック技術顧問としてエージェント教育・採用セミナー講師などを担当。2020年より株式会社LIGに参画。海外拠点EM、PjM、エンジニア採用・組織改善コンサルなどを担当。現在は合同会社エンジニアリングマネージメント社長 兼 流しのEMとして活動中。X(@makaibito)
合同会社エンジニアリングマネージメント 社長兼「流しのEM」の久松です。IT界隈を歴史やエピソードベースで整理し、人の流れに主眼を置いたnoteを更新しています。
ここ最近、新型コロナウィルスへの対応はウィズコロナの様相を見せ、街に人が戻ってきました。これまでリモートワークが導入されていた企業にあっても、リモートワークを継続するかどうか、転換期を迎えています。今回はいくつかの今後のシナリオについてお話していきます。
フルリモートワークを継続するパターンはスタートアップやベンチャー企業で多く確認されています。
下記のニュースではNTTの場合ですが、基本は在宅勤務という形で進めています。
参考:NTTが勤務場所を基本自宅に、出社は「出張扱い」
当初はコロナ禍における感染防止の意味合いが強かったリモートワークですが、制度として定着することで地元に帰省し、子育てや祖父母・両親の介護問題に取り組むことができます。
私は現在、個人の活動で地方在住エンジニアにインタビューを実施しています。20人強にインタビューをしてきましたが、過去の生活拠点と全く縁の無い地域に住んでいる方は1名のみでした。それ以外の方は実家であったり、実家で何か問題があっても車ですぐに帰省できる場所で生活していました。
うち数名は介護に代表される家庭の都合を抱えていました。核家族化、少子高齢化、地域社会の衰退が起きる中、リモートワークは救世主的な立ち位置になっている側面があります。そのような問題を抱えている方々にとってリモートワークの需要は高く、企業のエンジニア採用の面でも、リモートワーク制度が中断され介護都合で転職を考えている方を集めることで、1年で約40名ほどのエンジニア採用ができた企業もあるほどです。
原則フルリモートワークだが、出社頻度を上げるというものです。概ね週1〜3回出社する、という意思決定がなされます。
こうした意思決定をする企業としては、下記の4つのパターンがあります。
共通するキーワードは「生産性」です。「生産性を高める」「生産性が下がっている」などと言われることがありますが、生産性というのは定義が曖昧であり、組織によって異なるものを指していたりします。
実際に私が見聞した生産性には下記のようなバリエーションがありました。
これらのいずれかの数字に対し、生産性が下がっていると判断がなされた場合、目の届くところで作業をしてもらおうと意思決定することがあります。
「社員の退職が止まらないから」という理由でリモートワークから目の届く出社に戻した、あるいは戻そうとしてる企業が複数あるようだ。
辞めない・辞められない人材だけが残る負のスパイラルは確定だけど…
— 久松剛:7/21 ITエンジニア採用・定着・活躍本発売 (@makaibito) June 4, 2022
リモートワークから出社へ戻すという意思決定をする企業もあります。
実際に出社に戻した、あるいは検討している会社の背景としては下記のようなものがあるようです。
イーロン・マスク氏の「出社か、退職か」の話がオフライン就業を後押ししている格好です。
参考:マスクCEO、テスラ従業員に週40時間の出社を求める–「さもなくば退職」
<テスラ人員削減>突然のミーティング設定から45分後、私は即時解雇された。夢にまで見た憧れの会社で
テスラの対応に関しては一定の賛成派も見られます。
参考:マスク氏「出社か退職か」発言に「リモート否定派の根拠に…」との悲痛な声。Twitter本社のホームレス施設化計画も“リモートワーク嫌悪”が発端か
リモートワークを希望する社員からは「待遇をTesla並みにしてから言ってくれ」というのは分からなくはないですが、もとよりIoTやロボティクスはリモートワークが難しいため、Teslaそのものは一定の出社を求めてもやむなしかなとは思います。
また、Googleも週3日の出社を推奨するようになりました。出社回数は最終的には部署ごとに委ねているとのことです。
参考:オフィスに回帰? 「出社したくなる」仕掛けとは!?【WBS】
日系企業のうち、製造業、特にハードウェアのものづくり企業は、IT部門よりも工場のほうが社内での政治力が強いため、工場勤務に配慮して全社的に出社を呼びかけるパターンがあります。
また、IT企業であっても(オフライン出社をしている)営業部門に配慮して同様の出社の呼びかけがあります。
「部下が何をしているか分からない」というところから始まります。資産管理ツールを監査や情報漏えい対策ではなく、社員の業務状態をモニタリングし、出社に切り替える意思決定に利用します。
これは、いずれかの方法で目視すると安心するというマネジメント層の心理が働いているようです。では出社すると、実際に仕事をしているところを見るのかというとそうでもなく、「見かけたよ」「PCの前にいたよ」という情報で満足する傾向にあります。もっともオフラインにする意味合いが見えにくい施策であり、エンジニアから不評を集めやすい要素です。
不満の解消策として海外拠点のマネジメント手法でよく見られる方法は、オフラインで集合するインセンティブをつくるというものです。会社負担でランチに行く、お弁当を配布する、交流会を設定するなどです。
ジョブ型採用が前提で大学の専攻により当該領域の専門性を持っていると判断されるアメリカとは異なり、日本ではいまだに新卒一括採用の側面が強いため、前提知識を揃えるための一括研修期間があるケースが主流です。
開発経験のない新卒入社者や、非ITエンジニアからのキャリアチェンジである未経験エンジニアの受け入れなどでは、教育担当者が「どこで躓いているのかを把握する」必要があります。
Discordで音声通話を常時アクティブにしたり、画面共有の上でペアプログラミングをすることもありますが、スキルレベルが低い場合であればオフラインで集合したほうが効率が良いと判断することもあります。
強気で経験者のみを採用し、ドライに評価を下せるような環境であればリモートワークは成立しますが、未経験層を定期的に複数名受け入れる組織では厳しさが残るケースはあります。
リモートワークで難しいのは会話です。SlackにせよZoomにせよ、業務上で使用するコミュニケーションツールでは要件しか伝えないことが多いため、それ以外のコミュニケーションが発生しない状態になります。
タスクについての伝達とその進捗確認だけとなると、いわゆる社内受託のような形になりがちで、企業も社員も双方が「業務委託で良いんじゃない?」と思いやすくなります。
余談ですが、実際こういった組織は業務委託の方が人も集まりやすいですし、退場時期(契約終了時期)が明確であるためハンドリングしやすい。私も業務委託の導入をお勧めする場合があります。
外注することによる開発のコストの増加に難色を示されるケースは多いのですが、採用コスト・退職コストとどちらが安いのか、ぜひ計算いただきたいところです。
さて、こうした会話不足に関する諸問題を総括していくと、極端なアウトプット志向に傾く企業が出てきます。
エンゲージメントに関与せず、売上だけを注視することで、モニタリングコストは下がりますが、殺伐とした職場になりやすく、離職者は増えます。
こうしたアウトプット志向に対し、粗利に余裕があるとEMやVPoEを入れることでピープルマネジメントを補強するという解法があります。ただ、粗利が低い状態でEMやVPoEを入れると、直接売上貢献をしないピープルマネジメントに対する費用対効果が見えず、企業とEM・VPoE双方が不幸になってしまいます。
リモートワークを活かした地方採用をしておきながらも、出社に戻す検討をしている企業もあるため、転職をお考えの方もいるでしょう。会社選びの際は下記のような点に注意が必要です。
まだリモートワークを巡る各社の動向は過渡期と言えます。情報収集と契約時の合意を意識した意思決定をしましょう。
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