2023年3月6日
執筆者
TechCrunchのシニアレポーター。アーリーステージのスタートアップやベンチャーキャピタルの動向を担当。Boston Globe、San Francisco Chronicle、BostInnoにも寄稿している。
多くの起業家が昨年末ごろ、チームの生産性と、会社への信頼を高めるべく、2023年には出社のワークカルチャーを復活させるつもりだと筆者に語った。中にはあのイーロン・マスク氏を引き合いに出した起業家もいた。ある創業者は酒の席で、出社が義務化されたからといって退職するような人は、そもそも本当の意味でミッションドリブンではないとして、人材を失うことは心配していないとさえ語った。
出社の復活を明確に決めている創業者がいる一方で、判断しあぐねている創業者もいる。投資先企業の成功を願うベンチャーキャピタリストなどからは、出社を復活させることで生産性が向上し、最終的に収益につながるという意見も聞かれる。また、リモートワークによってより包括的で広範にわたる人材採用が可能になるという反論もあり、これもまた収益に貢献する可能性がある。
今年収益をあげられない企業であれば、収益以外で着目すべき点は何だろうか。スタートアップをサポートしている会計事務所Kruze Consulting(クルゼコンサルティング)は、四半期ベースで3億ドル(約394億円)以上の売上と7億5000万ドル(約985億円)以上の支出を計上している750社超の企業の財務を調査した。Kruzeで財務計画と分析を担当するHealy Jones(ヒーリー・ジョーンズ)氏に調査の結果について話を聞いた。この調査結果は出社をめぐる議論にとって意味のあるものだとジョーンズ氏は考えている。
ジョーンズ氏によると、オフィスを持たないアーリーステージのスタートアップはオフィスを持つスタートアップに比べて2.7倍の速さで収益を伸ばしている。しかし、スタートアップが十分に成長した後に、1ヶ月の支出が25万ドル(約3300万円)程度になるか従業員数が10〜12人になったときが転機となるという。
このデータセットは、新型コロナウイルス感染症による最初のロックダウンの後、2021年以降に設立された企業のみを追跡している。つまり、収益の数字は新しい企業のみに焦点を当てており、古い企業は含まれていない。
「収益を上げる前のスタートアップで、事業を軌道に乗せようとしているときは本当に素早く反復しなければならず、製品を売り出すためにし烈な競争に身を置いている」とジョーンズ氏は述べた。フルリモートに移った企業は世界中から優秀な人材を採用することができ、この目標を達成するのに役立っているとも語った。
もちろんフルリモートの企業でも経費や売上がずっと多いところはあるが、企業がある程度の規模になると分岐点があることがデータで示唆されているとジョーンズ氏は指摘した。いずれにせよメリットがある。例えば、お互いの意見を出し合う営業チームなどオフィス内に信頼できるチームを持つのに役立つかもしれない。一方、リモートワークのみを採用する企業はコラボツールに投資しており、そのコストは1人当たり100〜200ドル(約1万3000〜2万6000円)程度だ。コストはかかるがスムーズでより効率のいい運営に役立つ。
障害者向け宿泊施設のプラットフォームDisclo(ディスクロ)の共同創業者でCEOを務め、このほど500万ドル(約6億6000万円)を調達したHannah Olson(ハンナ・オルソン)氏は、3つのタイムゾーンにまたがるチームを構築中だ。「移転や不動産にかかる諸経費をかけずに全国から人材を集めることができた」とオルソン氏は話した。同社はオフィス維持にかかっているであろう予算を、マーケティングや会議、請負業者に振り向けている。オルソン氏は、Discloが年間約12万ドル(約1600万円)のオフィス費用を節約していると見積もっている。
また、Discloのビジネスは、リモート第一の方針とよく合っている。「当社の従業員のほとんどが子どもを抱えているため、保育園などの追加費用が発生する。また、慢性疾患や障がいを抱えているためにリモートワークを希望する場合もある。今のところ、リモートワークが主流で、当社が方向性を変えることはない」と話した。
一方、Gutter Capital(ガッターキャピタル)の共同創業者Dan Teran(ダン・テラン)氏は、創業者のチームが直接会って仕事をすることを好む。
「リモートワークではやり取りする中で多くの文脈が失われる」とテラン氏はTechCrunchに語った。「リモートワークで人材を獲得することには明らかな利点がある。ただ、創業初期にリモートワークを行うには、文化を構築するために経営陣が意図的に行動する必要がある。創業者が意図的で、トレードオフを意識している限り、どちらのアプローチでも構わない」と述べた。
従業員の士気から顧客体験、さらには日々の組織体制に至るまで、収益の成長に影響を与える主観的な要因は数多くある。今日のデータは、オフィスをどうするかは収益の視点で考えるべきであることを示している。
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元記事:Data hints at the value of startup offices
By:Natasha Mascarenhas
翻訳:Nariko
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