2024年11月12日
フリーランスエンジニア/小説家
葦沢かもめ
東北大学にて生物学を学び、京都大学大学院へ進学。博士(医科学)。大学院卒業後は、SIerを経てAI系ベンチャーでエンジニアとして勤務。現在はフリーランスのエンジニアとして受託開発を手掛けながら、AIを活用した小説の執筆活動を展開。『あなたはそこにいますか?』で第9回日経「星新一賞」優秀賞(図書カード賞)。本作は、AIを利用して執筆した小説として史上初めて入選。その他、かぐやSF第1回最終候補、第2回選外佳作など。2024年10月には、生成AIの小説への活用法を解説する書籍『小説を書く人のAI活用術 AIとの対話で物語のアイデアが広がる』が刊行された。
ゲームや小説、あるいはWebサービスなど、さまざまな創作物の源泉は人間が持つ「創造性」であり、それらは人間の手によって生み出されてきました。しかし、生成AIの登場によって、その認識は塗り替えられようとしています。
本記事ではAIを活用した執筆活動を展開している小説家・葦沢かもめさんにインタビュー。SI系企業でエンジニアとしてキャリアをスタートさせた葦沢さんは、なぜAIを活用した小説の執筆に挑むようになったのでしょうか。そして、作品の創り手から見たAIと創造性の関係について伺いました。
現在はフリーランスのエンジニアとして受託開発を手掛けながら、作家としても活動しています。作家としての活動内容は大きく2つあって、1つはChatGPTやClaudeなどのAIサービスを活用して、小説を執筆すること。
2つ目はこれまでの活動の中で得た、AIを活用した小説執筆に関するノウハウを発信することです。これまでの活動の中で、それぞれのステップにおけるAI活用のポイントがつかめた感覚があるので、note上で「かもめAI小説塾」と題したマガジンを立ち上げ、さまざまなノウハウを発信しているんです。
小説を書くプロセスにはさまざまな工程があります。アイデア出しから始まり、コンセプトの設定、舞台となる世界や登場キャラクターの設計、あらすじの作成、本文執筆、そして推敲……おおまかに言ってもこれだけのステップがあるわけですが、基本的にはすべてのステップで生成AIと対話しながら進めることができると思っています。
たとえば、「異世界ファンタジー」という自分がこれまで挑戦したことないジャンルのものを書きたいと思ったとしましょう。まずはジャンルの特徴をおさえるために、ChatGPTに「日本のライトノベルにおける異世界ファンタジーの特徴を教えて下さい」と質問をすると、「1.異世界への転生・召喚」「2.ゲーム的要素の導入」など、異世界ファンタジーものに不可欠ないくつかの要素を挙げてくれます。
次に具体的なアイデアづくり。「異世界ファンタジーのライトノベルのアイデアを5つ教えてください。主人公は転職中のエンジニアとします」と入力すると、小説のタイトルとあらすじが5つ生成されます。実際に生成されたものの一つを読み上げると……。
「転職エンジニアの異世界自動化プロジェクト——転職中のエンジニアが異世界に召喚されると、そこでは魔法文明が進んでいるが、技術的な自動化や効率化が遅れていた。主人公は、自身のシステム開発の経験を活かし、魔法工場や農業システム、物流の自動化プロジェクトを開始する。しかし、急速な技術革新に反発する保守的な勢力との対立や、新たに生じた技術の弊害にも直面し、最終的には異世界全体の未来を左右する選択を迫られる」といった感じですね。
生成されたアイデアから採用するものを決めたら、「○番目のアイデアを採用します。この物語の主人公の名前とプロフィールを教えてください」と質問すると、名前や性別、性格やバックグラウンドなどを提案してくれます。
その後、「どのような役割のキャラクターを登場させる必要がありますか?」「先ほどの登場させるべきキャラクターの名前とプロフィールを教えてください」「この物語のプロットを、三幕構成に従って制作したいです。三幕構成の要点を教えてください」「今までの会話を基に400単語ぐらいの小説を書きたいと思います。小説の第1幕の前半部分を書いていただけませんか」と質問を重ねていくと、小説が出来上がっていきます。
もちろん、これはあくまでも活用法の一部でしかありません。より具体的なノウハウを知りたい方は、ぜひ「かもめAI小説塾」をご覧いただければと思います。
執筆活動をつづける中ではつらい瞬間もあるのですが、やっぱり楽しいと感じることの方が多いんですよね。だからこそ、続けられているのだと思います。その楽しさやつくる喜びをいろんな人に味わってもらいたいと思っているんです。
「AIを使った創作には興味があるけど、どうやればいいのかわからない」という人が、私が発信しているコンテンツを見て、創作活動を始めてくれたら嬉しいなと思い、「かもめAI小説塾」を立ち上げました。
AIを活用した執筆活動を始めたのは、2018年頃です。小説自体は大学に通っていた2009年頃から書いていました。大学生ってレポートを書くじゃないですか。その中で文章力を上げたいなと思い、「小説でも書いてみようか」と(笑)。それから趣味の一つとして、定期的に小説を書き、小説投稿サイトに掲載するようになりました。
その後大学院に進み、卒業後はSI系の企業に入社することに。このことをきっかけに、プログラミングを学び始め、その中でAIに興味を持ったんですよね。そして、「AIを活用して小説を書けるのではないか」と思ったんです。
それからいろいろと調べてみると、AIを小説執筆に生かそうとする動きがあることを知りました。星新一さんの作品を分析し、AIにショートショートを創作させることを目指すプロジェクト「作家ですのよ」などですね。それなら自分もチャレンジしてみようと、AIを活用した執筆活動を始めたんです。
小説を書き続ける中で、創作活動は漠然とした物足りなさやさみしさを埋めてくれるのではないかと感じるようになったんです。
でも、私の小説家としての能力はそんなに高くないと思っていて、もちろん努力は続けていくつもりですが、努力できる時間にも限りがありますし、自分が生きている間に心の穴を埋められるような作品はつくれない気がしているんです。
ただ、作家としての私をAIに落とし込むことができれば、私が死んでからも、AIが私の代わりに創作活動を続けられるのではないかと。自分の作家としての活動を全てプログラム化し、AIに私の死後もそれを学習させ続けることができれば、肉体を持った私がつくり得なかった作品を生み出せるはずだと考えています。
私が小説を執筆する際のプロセスや、その中で考えていることを言語化し、それをプログラムに落とし込んでいます。執筆の進め方や頭の使い方さえ再現できてしまえば、私らしい書き方になるはずですし、AIが私らしい作品を生み出してくれるのではないかと。
あとは、私自身のこれまでの経験や、それらの経験から生じた信念のようなものを文章化し、AIに学習させたいと思っています。というのも、私が目指しているのは「私の死後も成長し続けるAI」です。言い換えれば、「半永久的に作家としての力を伸ばしつづける私」をAIによって生み出したいと考えています。
であれば、私の「物事の学び方」も模倣させる必要があると思うんです。そうしなければ、私が死んだあと、AIによって書かれる作品が私らしいものではなくなってしまいますからね。
でも、同じものを見たとしても、あるいは同じ経験をしたとしても、そこから何を学ぶかは人それぞれじゃないですか。
その差が何から生まれるのかといえば、持っている知識やそれまでの経験の違いだと思うんです。だから、成長や学習のベースとなる、現段階で私が持っている知識や経験をどうにかしてAIに落とし込みたい。まずは文章化することから始めていますが、より正確にそれらをAIに反映させることが今後の大きな課題になってくると思っています。
そうですね。「創造性」が人間特有のものだと思っている人は少なくないと思うんですよ。「AIって結局、大量のデータを学習して、それらをコピーしてアウトプットしているだけでしょう」と。
でも、私は創造性そのものがアルゴリズムで表現できると思っているんです。つまり、創造性を分析して、プログラムに落とし込むことができれば「創造性を持ったAI」は実現できると思っていますし、すでにChatGPTやstable diffusionに組み込まれているAIは、人間が持つ創造性にかなり近いものを獲得しつつあるのではないかと。
そもそも、私たちが持つ創造性も、さまざまな知識や経験によって構成されているはずです。まったくのゼロから何かを生み出せる人はおらず、基本的に創造は「模倣」から始まっているのではないでしょうか。
不可能ではないかもしれませんが、かなり難しいのではないかと。たとえば、ある大学の研究チームが古今東西の何千もの小説を分析したところ、「物語の類型は6つしかない」ことが明らかになったというニュースを目にしたことがあります。もちろん細かな差異はあるものの、基本的に物語の構造は6パターンしかない。極端に言ってしまえば、すべての物語はすでに存在する物語のプロットを模倣しているわけですね。
そういった意味で、私たちの創造も模倣から始まっているのではないかと思うんです。だからこそ、「模倣しているだけ」のように見えるAIも創造性を獲得できると思っていますし、私の知識や経験を学習したAIは「私が持つ創造性」に限りなく近いものを獲得するのではないかと思っています。
自らプロンプトを入力したとしても、AIに文章を生成してもらった作品については、自分の文章だという認識はあまりありません。でも、AIが生成した文章を読んで選別し、ときに修正しているのは私ですし、AIを活用して制作した作品が「葦沢かもめの作品」であることは間違いありません。
感覚的には映画監督に近いのかなと思います。役を演じるのは役者ですし、役者をカメラに収めているのはカメラマンですよね。他にも照明や音響など、さまざまな役割を持つ方々が映画を「つくっている」わけですけど、出来上がった作品にはその監督の色が出ているし、たとえば監督の名前が葦沢かもめなら、「葦沢作品」と言われることもありますよね。
AIは役者であり、カメラマンなんですよ。私はAIに指示を出し、出来上がったものを見て判断をする監督のような立ち位置として、「葦沢作品」をつくっている感覚ですね。
AIの登場により、「つくる」の新しい選択肢が生まれたのだと思います。とはいえ、私自身従来の「つくり方」、小説で言えば自ら手を動かして文章を書くことは好きですし、その価値が落ちることはないと思うんです。あくまでも、AIを活用した創作は選択肢の一つであって、従来の創作を代替するわけではなく、共存していくのではないかと考えています。
たとえば、写真という技術が無い時代は、美しい風景を絵に描くことで残していたわけですが、写真が誕生してからも風景画は描かれ続けていますよね。そんな風に、さまざまな領域でAIを活用した制作が可能になったとしても、人の手による創作が途絶えることは無いと思います。
そうですね。エンジニアリングスキルの価値が上がるのは間違いないと思いますよ。新たな創作の選択肢を生み出したAIも結局はプログラムによって出来ているものですし、私自身、エンジニアとして培ったスキルがAIを活用する作家としての活動の中で生きる場面がありました。
AIによってさまざまな創造が可能になるのだとすれば、そのベースを理解していることは、これからの創造的な領域において大きなアドバンテージになるのではないでしょうか。今後エンジニアリングスキルを生かす領域はさらに広がり、その価値はより高まっていくのではないかと思っています。
企画・取材・執筆:鷲尾 諒太郎
編集:王 雨舟
関連記事
人気記事