継続のコツは「わざわざ見に行く」をなくすこと。はてなフロントエンドエキスパートmizdraの情報収集術

2024年2月19日

株式会社はてな フロントエンドエキスパート

mizdra

1997年生まれ。2020年3月に電気通信大学情報理工学域Ⅰ類を卒業、4月に株式会社はてなに入社。2022年2月にフロントエンドエキスパートに就任し、チームの開発をリードしながらはてな社全体でのフロントエンド啓蒙活動を担う。HNの読みは「みずどら」。

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技術や業界など仕事についての情報収集の基盤として多くのエンジニアを支えていたTwitter(現X)が、以前とは異なる姿となってゆく今、必要な情報を過不足なく収集しインプットする方法に悩みを持つ人も少なくありません。

「アフターTwitter時代の情報収集」と題したこの連載では、業界をリードする方々に、Twitterの変化によって普段の情報収集の方法がどう変わったか、欲しい情報を効率よく集めるために何をしているのかを取材します。

第3回は、はてな社でフロントエンドエキスパートとして活躍するmizdraさん。個人では技術ブログを運営し、ハイペースで質の高い情報を発信しており、さらにVue Fes Japan 2023などカンファレンスでの登壇やOSSへの貢献など、幅広く活動しています。

移り変わりの激しいWebフロントエンド領域でエキスパートであり続けるために、mizdraさんは何をしているのか?あらゆる「しんどい」をハックして手に入れたmizdraさん流の情報収集術を伺いました。

Twitterを完全に代替できるサービスはまだ存在しない

——Twitterの買収騒動を経て、情報収集の方法に変化はありましたか?

mizdra:特に変化はありません。以前からTwitterを中心に情報収集していて、騒動後も変わらず続けています。ただ、質の高い情報を発信していた人の一部が別のSNSに引っ越してしまったのも事実です。そこはすごく残念ですね。

——Twitterの代わりを探したりはしているんでしょうか?

mizdra:今はしていません。Twitterが全く使い物にならないわけではないので、今すぐどこかに移動しようとか、他の手段を探そうとは思っていません。そもそも、コミュニティの成熟具合を鑑みても、完全に代替となるようなサービスはまだ存在しないような気がしますね。

必要な情報は全てTwitterとGitHubに集まる仕組みをつくっている

——普段はどんな情報を、どんな方法で集めていますか?

mizdra:情報収集には、基本TwitterとGitHubしか使っていません。僕は面倒くさがりなので、必要な情報はすべてこの2つに流れてくるように工夫しています。

ルーティン的に分野を絞らず気になる情報をまんべんなく集めるならTwitter、自分が使っている言語やフレームワークにまつわる具体性の高い最新情報を集めるならGitHub、と使い分けています。

——毎日のルーティンとしての情報収集は、どのように行っていますか?

mizdra:毎日始業前から始業後の30分程度、朝食を食べながらTwitterを眺めて、気になる情報に目を通してます。

Twitterでは、信頼できると感じた人、質の良いアウトプットをする人を中心にフォローしていて、「フォローしている人」だけ表示されるタイムラインを、上から順に数時間分くらい眺め、気になる記事を読んでいます。「おすすめタブ」は見ていません。レコメンドがうまく効いていて便利ではありますが、タブを切り替えるという動作が億劫で。

始業前は頭がぼーっとしていることが多いので、このときのインプットは業務に本調子で取り組むためのウォーミングアップとして続けています。

▲mizdraさんのTwitter画面のスクリーンショット。タイムライン、通知欄、投稿欄をすべて一画面にまとめている

——見つけた記事は、そのときにしっかり読み込んでいるのでしょうか?

mizdra:基本的には、気になる記事を見つけたらその場でしっかり読んでいます。もちろん、朝の30分だけで気になる記事を全部読みきることはできないので、分量の多い記事、あとでじっくり読みたい記事などはChromeのタブとして開いておいて、業務の合間に読むようにしています。

以前はPocketにそうした記事を保存していましたが、気づけばPocketに記事が未読のまま溜まっていくばかりになっていました。自分にとってはPocketを開くひと手間も面倒だと悟って、Chromeのタブとしてそのまま開いておくスタイルに変更しました。Chromeは日常的に使っているので「開く」必要がないおかげで、ストックした記事を面倒くさがらずに読むことができています。

——GitHubはどのように使っているのですか?

mizdra:GitHubでも、知りたい情報は全部/notificationsでチェックできるようにしています

欲しい機能に関するIssueや、使っているライブラリの不具合と思われる挙動に関するIssueを探し、subscribeします。そのIssueが更新されたら/notificationsに通知が届くので、欲しい機能が実装されたらすぐ触りにいけますし、不具合が修正されたらすぐ修正バージョンを取り込みにいけます。

ほかにも、使っているフレームワークやツールのロードマップが分かるIssueをsubscribeして、今後どういう機能が実装されるのかをキャッチアップしています。

▲mizdraさんの/notifications画面のスクリーンショット。「終業後も、暇さえあれば/notificationsやTwitterを見ています」とのこと

「わざわざ見に行く」をなくして「めんどくさい」をハックする

——TwitterもGitHubも、自ら情報を取りに行かなくてもよいような仕組みをつくっているんですね。なぜそうするようになったのでしょうか。

mizdra:情報収集を習慣化するために、自分に合った方法を探し続けた結果、もっとも手間のかからない方法に落ち着きました。

最初はRSSリーダーを使い、気になった技術ブログのRSSフィードを購読していました。しかし、RSSリーダーを開くこと自体が億劫で挫折。次にTwitterのリスト機能を使い、信頼できる人をリストに追加して情報収集用のリストをつくりました。でも普段はタイムラインしか見ておらず、表示をリストに切り替えるのがどうも面倒で、習慣化しませんでした。

結局のところ、普段あまり見ていないところに情報を集める仕組みをつくってもうまくいかないんです。ならば、普段からよく使うTwitterのタイムラインやGitHub、Google Chromeで欲しい情報を全部読めるようにしたらよいのでは?と工夫を重ねた結果、自然と習慣化できました。「情報収集の習慣化」はエンジニアとしての武器になりますし、他のエンジニアと差をつけられるポイントなので、必ず身につけておきたかったんですよね。

移り行くトレンドはあえて追わない。その方がむしろお得かも

——フロントエンドの情報収集は大変だというイメージがありますが、mizdraさんはどんな点が難しいと思いますか?

mizdra:情報が溢れかえっていることが、難しく感じる一因だと思います。初学者にとっては、どこから手をつけるべきか分からず、とっつきづらさを感じることも多いでしょう。僕も、Twitterに流れてきた気になる記事すべてに目を通すことはできていません。それくらい情報が多いです。

情報が多い一因は、トレンドの移り変わりが激しいことだとよく言われています。ただ僕は、フロントエンド界隈の人口の多さや、「フロントエンド」と呼ばれる分野自体が幅広いことも関連していると思います。人が多ければその分発信される情報は増えるし、何よりフロントエンドという言葉に内包される職域が多すぎる。プログラミングだけでなく、UI/UX デザインやアクセシビリティ、FrontendOpsなど1つの職域を構成する領域も、この言葉ひとつにまとめられてしまっていますから。

——そんな中で必要な情報を確実に集めるには、どうしたらいいのでしょうか。

mizdra:情報の多さに怯まず、また、最新情報やトレンドに惑わされず、素直に自分の興味関心を情報収集の軸にするとよいでしょう

日々のルーティンとしての情報収集では「業務に役立ちそう」「おもしろそう」と思ったら、興味に任せて読んでみる。知的好奇心の延長で情報収集していれば、自然と必要な情報を拾えるものですし、そうして読んだものが後々思いもしなかったときに活きることもあります。僕自身、Twitterのリプライを追いかけすぎて脱線してしまうこともよくありますが、その過程で思ってもみなかった面白い情報が得られたりするので、知識を広げるチャンスとして捉えています。その他の情報や最新情報などは、必要になったら集めればいいんです。

トレンドをひたすら追う必要もないと思います。この界隈では半年ごとにトレンドが移り変わることもザラにありますから、追いかけ続けるのは単純に体力を奪われてしまいます。それに、興味のないものを見てもそれ以上深掘りする気にならず、学びにつながらないんですよね。

——「あえて追わない」と決めていても、新しい技術がどんどん生まれて話題になっていく中で、不安になったりはしないんですか?

mizdra:不安を感じることはないですね。というのも「最初に話題になったタイミングで情報をキャッチする」ことに必要性を感じていないんです。

新しい技術やそれに関する情報は玉石混交で、重要でないものも含まれています。本当に重要な情報は、時が経っても何度も話題になりますし、その過程で必要十分な情報がまとまった良い資料が出てきます。そのタイミングで質の高い資料だけを読む方がキャッチアップしやすい。これまで「最新」より少し遅れたタイミングでキャッチアップして「遅かった」と感じたこともなかったですしね。

「技術選定の審美眼」を鍛えると、取捨選択に自信が持てる

——mizdraさんは一貫して、情報収集への迷いがないように見えます。なぜそのようにいられるのでしょうか。

mizdra:技術選定の審美眼を日々鍛えていて、それにある程度自信を持っているからだと思います。

僕が言う「技術選定の審美眼」とは、t_wada さんが2018年のデブサミで紹介していたもののことです。フロントエンド界隈ではとにかく大量の情報が流れてくるので、必要なもの・逃してはならないものは取ってきて、そうではないものはスルーする「審美眼」が非常に重要です。

——この審美眼は、どうやって鍛えればよいのでしょうか。

mizdra:僕は、以前見たことがあるような技術が別の姿で登場した時に、それが以前あった技術とどう違うのかを考えるようにしてます。どこが違っていて、どこが変わっていないのか。なぜ変わったのか、変わったことで何ができるようになったのか。つまり「この技術が生まれることで、どんな課題を解決できるのか。また、その課題は解決に値するものなのか」を考えるのです。

生き残る技術は得てして、今まで解決できなかった重要度の高い課題を解決しています。例えば Webフロントエンドでは以前SPAが流行りましたが、今はSSRが推奨されています。SSRは単に後発だったから広まったわけではなく、SPAでは解決が難しかったパフォーマンスやSEOの問題を解決できるから受け入れられたのです。

技術の変遷は単なる気まぐれではなく、必ず意味があります。その意味を見つける経験を積むことで、審美眼が鍛えられるはずです。

自分にまじないをかけて、「調べ切る」ための気合いを引き出す

——mizdraさんの情報収集のモットーを教えてください。

mizdra:日々の情報収集については、ここまで話してきた以下の3つを大切にしています。

・習慣化する
・好奇心に逆らわない
・審美眼を鍛える

そのほかに、エンジニアとしてもう1つ決めていることがあります。それは「必要な情報を追い切るまで諦めないこと」です。

特に、専門的な知識がないと追うのが難しい時や、複数の分野を横断した知識が求められる時は、途中で力尽きてしまうこともあります。でもやりきらなければ、中途半端な知識しか得られません。

そういうときは、諦めてしまわないように、自分にまじないをかけるんです。例えば僕は、会社全体のフロントエンドの啓蒙活動などを行う「フロントエンドエキスパート」という肩書を持っています。なので「エキスパートであるからには徹底的に調べ切らんといかんだろ….!」と自分に言い聞かせる。根性論っぽい話ですが、これが結構効くんですよね。新卒入社したばかりの頃も「新卒なのだから、深く調べる癖をつけるためにも調べ切ろう」などと自分を鼓舞していました。ほかにも、自分の専門領域以外の情報を集めないといけない時は「フロントエンドエンジニアである以前にエンジニアなんだから」と自分に言い聞かせ、やりきるようにしてます。

情報収集において最もしんどくて、最も重要なことは「習慣化」と「追い切る」の2つだと思います。この2つを着実に積み重ねるために、これらに伴う「しんどい」をハックする方法を色々試して、今のやり方にたどり着きました。知的好奇心を満たす楽しみを味わいながら、エンジニアとして成長するために、今後もその時々の自分にとってベストな方法を探しながら情報収集を続けていこうと思っています。

取材・構成:光松瞳
編集:王雨舟

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