個人開発者あんどう氏に聞く「AIを使い倒す」楽しさと、つくり続ける秘訣

2023年12月19日

ソフトウェアエンジニア

あんどう

個人開発者。現在はフリーランスのソフトウェアエンジニア。
ブログ「ニートの言葉」で、プロダクト開発の過程を紹介している。2016年、ブログ「【プログラミング不要】ディープラーニング(h2o.ai)で株価予測をやってみた」で一躍話題に。代表作は競艇予想AI「みずはのめ」。

「エンジニアたるもの、新しい技術が出たらとりあえず触って、何かをつくって公開してみることが大事」と言われます。けれども、本業もある中でそれを続けるのは簡単ではありません。どうすれば継続的にアウトプットすることができるのでしょうか。

なにかと話題になっているAIに関して、まさにそれを体現しているのがフリーランスの開発者・あんどうさんです。2016年からずっと、競艇予想AI「みずはのめ」、コウメ太夫のネタっぽい言葉を生成する「コウメAI太夫」、リアルな人間のような3Dモデルで聴衆と会話し24時間雑談配信ができるAIなど、一風変わったAIプロダクトをつくり続けています。

アイデアを次々とカタチにするあんどうさんに、AIを使い倒す楽しさやそのモチベーション、長く続ける秘訣を聞きました。

「AIが代わりに働いてくれるかも」という期待から、AIプロダクト開発にハマる

——あんどうさんがAIを使ったプロダクト開発にハマった経緯を教えてください。

あんどう:2016年前後です。当時「ディープラーニング」という言葉が出始めていて、「すごい人工知能がこれから来るんだな」と感じました。

僕はもともと性格的にニート気質なところがあって、日頃から「働きたくない」と思っていたので、「ディープラーニングがあれば、もしかしたら人工知能にお金を稼いでもらうこともできるのでは」という淡い期待もありました。

それで周辺の技術を触り始め、ブログ記事で発信するようになったんです。

▲あんどうさんは福岡在住。取材はオンラインで行いました

——たとえばどんなことから始めたんですか?

あんどう:「日経平均株価の予測を、できるだけプログラミングせず、AIにやらせる」というものです。

あんどう:精度としてはいまいちでしたが、その取り組みを書いたブログは、たくさんの人に読んでもらえました。「プログラミングをせずに人工知能で」というのがウケたみたいです。僕自身も面白いと思っていましたが、世間的にも割とニーズがありそうだな、と。

そこからさらに、ディープラーニングについていろいろ触れるようになりました。物体検出や画像分類など、多くの技術を広く浅く触って遊んでいました

とはいえ、理論の勉強は結構大変でした。僕は機械学習を専攻していたわけでもないし、独学もあまり得意ではありません。そこで、誰かと教え合いながら学びたいと考え、勉強会を開くことにしたんです。その会で出会った人と一緒にAIを使ったプロダクトをつくったり、AI関連の仕事を頼まれて請け負ったりしていくうちに、AI関連の開発が仕事になっていき、今につながっています。

精度向上の過程を公開していたからこそ、多くのユーザーに使ってもらえた

——競艇予想AI「みずはのめ」は、あんどうさんのプロダクトの中でも、多くのユーザーに使われているものの1つだと思います。開発を開始した2017年9月当時は「AIが公営競技の予想をする」というプロダクトはまだ少なかったように思いますが、開発の経緯を教えてください。

あんどう:これも、先程話したディープラーニングの勉強会でつながった人に紹介された方との出会いがきっかけでした。

その方は学生で、「競艇の勝敗予想にAIが使えるんじゃないかと思って、過去のデータを集めてやってみたが、なかなかうまくいかない。一緒にやってみないか」と誘ってくれました。おもしろそうだと思って、一緒に取り組むことにしたんです。

僕としては「金儲け」が6割、「ネタとして面白そう」が2割。残り2割は「自分の実績になりそう」という考えで、開発すると決めました。

しかし、彼も僕も競艇初心者で、「6人でレースをするのか」といった初歩レベルからのスタート。予想にどんなデータが必要なのかを考える前に、競艇の基本を学ばなくてはいけませんでした。

▲あんどうさんらがつくったAI競艇予想サービス「みずはのめ」。毎日行われるレースの着順予想をリアルタイムで公開している

——そうだったんですね。それから2カ月後の2017年11月には、早くも回収率100%超え、つまり「勝てる予想」ができるようになっています。どうやって予想精度を高めていったんですか?

あんどう:勝敗予想をする人たちがどんな情報を参照しているのかを研究したんです。すごくシンプルな例を出すと「過去3レースで1着だから、次も1着の確率が高い」とか、「選手本人の誕生日のレースでは1着になりやすい」というジンクスなど、よく参考にされている条件を調べ、それらにまつわるデータを集めて学習させました。

そのうえで、どんな条件が予想の正確さに反映するのかを検証するために、パラメータを調整し、時にはデータを取り直したり、データベースをつくり直したり…と、試行錯誤を繰り返しました。

これという1つの施策で回収率が大幅にアップしたわけではなく、1つ課題が出てきてはそれについて議論して、また次の課題が見つかって……というのを泥臭く繰り返していました。試行錯誤の過程は、しんどいけど楽しかった。結果として回収率100%を超えることができ、その発表以降ユーザーが大きく増加しました。

▲みずはのめの予想通りに4日間舟券を購入し、回収率が134%となった際のブログ記事

あんどう:ちなみに、「みずはのめ」が広まったことで、競艇の年末特番に出演依頼が来たんです。競艇好きのタレントさんと「みずはのめ」が、予想の勝負をするという内容でした。さらに、それを見てくれた地方競馬番組の制作会社の方から「同じことをできないか」と依頼が来て。お仕事として、地方競馬の予想AIをつくることになり、今もテレビでそのAIの予想を放送してくれています。

——「みずはのめ」の取り組みが別の仕事にもつながったんですね。開発当初から、Webサービスとして公開する前提だったのでしょうか?

あんどう:いえ、僕たちは2人とも、自分たちが儲けるためにAIを使いたいと考えていたので、サービスとして公開することは考えていませんでした

でも、つくり始めたばかりのころは、どんなに試行錯誤を繰り返しても、回収率は80%程度しかありませんでした。競艇の控除率は25%なので、AIを使わずに買っても回収率は平均75%。つまり、平均的な結果しか出せていなかったんです。

その当時は、回収率をすぐに大幅に向上させられるような兆しは見えませんでした。せっかくなら、こういったものをつくっていることだけでも公開した方が、興味を持ってもらえたり、改善に有効な情報が得られたりするかもしれないと考えて、競艇予想AIのことをTwitterやブログに書き始めたんです。

その後徐々に精度が上がっていくにつれて注目してくれる人が増え、「使ってみたい」という声をもらえるようになったことから、一部有料のWebサービスとして公開することにしました。

ありがたいことに、「みずはのめ」はこれまでたくさんの方に利用していただきました。けれども、2023年いっぱいで公開を止めようと思っているんです。

——えっ、どうしてですか?

あんどう:メンテナンスの手間がだいぶかかるんです。ほかにいろいろと試したいアイデアがあっても、そちらに時間を割くことができなくなってしまっています。今後、Webサイトで予想を出すこともあるかもしれませんが、今後どうするかはまだ決めていません。

つくったものが役に立つのかわからなくても世に出すのは、「人知れず失敗する」のが嫌だから

——フリーランスになる前はITエンジニアとして企業に就職していたようですが、当時から個人的に何かつくることもあったんですか?

あんどう:そうですね。たとえば、Bluetoothを使って、出社すると自動でSlackに勤怠の通知が飛ぶシステムを自作してみたり。つくってみたいものを自由につくらせてもらえる会社でしたね。僕にとっては遊びの延長のようなものでした。

代表からは、そうした「やってみた」をブログに書くことだけ求められていました。そのブログを見てくれた企業から、書いた内容に関連する仕事がくる、といったこともありました。

——当時の開発と、その後ハマることになるAIを使った開発はどう違いますか?

あんどう:僕にとっては同じです。自分にとって未知の、新しいおもちゃを触ってみるのが純粋に楽しいんです。

ただ、そうは言っても、誰かがすでに「やってみた」と発信していることをそのままやるのではおもしろくない。 「これを使ってどんな便利なことができるだろうか」「どうすればおもしろく見えるだろうか」など、必ず自分なりのアレンジを加えるようにしています。

▲2021年に開発した「コウメAI太夫」。GPT-2を利用しているそうだが、GPT-3以上にすると、生成する文章の意味が通ってしまいおもしろさが薄れるそう

——ほかにも「コウメAI太夫」、24時間雑談配信するAIなど、たくさんのプロダクトをつくり続けています。こうした取り組みを継続できているのはなぜですか?

あんどう:ひとつは、今は業務委託で働いていることもあって、時間が確保できているのは大きいですね。仕事は週3くらいで、残り4日で家事や育児をし、空いた時間で趣味のプロダクトをつくっています。

また、「こんなのつくりました」と発信すると反応がもらえて、自分の実績になることも、モチベーションのひとつです。「みずはのめ」のときもそうでした。的中率が低くても、とりあえずTwitterに書いてみたら、RTやいいねなどで反応をもらえる。興味を持ってくれている人がいるとわかると励みになります。

それに、「人知れず失敗する」のは嫌だったんです。自分なりに一生懸命つくっていても、誰にも知られないまま結果が振るわなかったら「誰にも知られずに、労力だけ割いて、何にもならなかった」と虚しさを感じるだろうと思います。だったら失敗も含めて発信した方が悔いが残らないだろうと考え、成否はさておき発信だけはしておいたんです。

もし個人で何かつくったのであれば、サービスとして公開したり、それをブログやTwitterに書いたりと、世に出してみた方がいいと思います。意外にも反応がもらえたり、仕事につながったりすることもありますから。厳しい意見が届いて悲しくなることもありますが、そうした意見はサービスの改善や次の開発の糧になります。

僕のつくったもののように、何の役に立つのかわからないものでも、公開していると今回のようなお話をいただくことがあるわけです。小さく、自分が面白いと思うものをつくるのは楽しいし、それが自分の実績となって仕事につながったらうれしいですよね。

「やりたいこと」がたくさんある人にはいい時代

——とはいえ、AIに興味があっても、機械学習領域は専門的な知識が必要そうで、ハードルが高いと感じる人もいるかもしれません。

あんどう:AIで遊ぶようなちょっとしたプロダクト開発は「機械学習の数式まで深く理解していないと手を出せない」というほどハードルが高いことではないと思いますよ。

僕自身も「使える」というだけで、原理は理解し切れていません。なんとなく「こういうふうに学習が進んでいるんだな」「学習のさせ方にはこういうパターンがあるんだな」とはわかりますが、数式まではわからないというのが正直なところです。

「何も参照せずにモデルをゼロからつくって」と言われても、今はまだ無理だと思います。それでもこうした遊びに近いプロダクトであれば、次々とつくれるようにはなりました。

——これまで自分ごととして機械学習系の技術に触れてこなかった人も、気軽に入っていけるものでしょうか?

あんどう:そうですね。特にChatGPTやGitHub Copilotなど生成AIサービスが出てきたことで、すごく取り組みやすくなったと思います。

▲2022年12月から、ChatGPTを開発に生かしていたそう

あんどう:これらの登場で一番変わったのは、プログラムを書く速度です。体感、5倍くらい生産性が上がったかな。なので、「やりたいことはたくさんあるけど、忙しくてできていない」という人にとっては、とてもいい時代だと感じています。

僕はもともと設計したり考えたりするのは好きなんですが、プログラムを書くのはそこまで得意ではありません。さすがにすべてChatGPTに任せるのは良くないですが、「こういうものを書いて」と言えば、ササッと書いてくれる。それをチェックしてみて「なるほど、こういう書き方があるのか」と参考にもなるんです。

ですから、今やるとすれば、とりあえずChatGPTに相談することからかなと。データベースの設計なども「どんなテーブル構造にしたらいいか」と聞くだけで、たたき台としては十分すぎるものが出てきますから。

——あんどうさんは「AIに代わりに仕事をしてもらう」ことを歓迎するお立場ですが、この先AIがどんどん進化すると、仕事が減って、競争が激化する、あるいは収入が減る懸念はないですか?

あんどう:競争の激化はもう始まっているように感じています。でも、もっとこの傾向が進んだらどうするんだろう(笑)。

昔を振り返ると、HTMLを手書きしていたところにホームページビルダーのようなものが出てきて圧倒的に便利になったけれど、それでも仕事は残り続けた。そんな感じで、どこまで技術が進化しても、人間がやらなくてはいけない仕事はどこかに残るんじゃないかなと思っています。

——あまり悲観的には考えないんですね。

あんどう:AIが代わりに働いてくれるのであれば、基本的にはそれは便利でいい世の中だと思っています。「働きたくない、AIに働いてほしい」とは、僕が最初から望んだことでもありますし。

実は、そうなった後の世界について、ときどき空想することがあるんです。経済的にあり得るのかは別として、この間は「人間がコンテンツをつくりお金をもらう」という今の世界と逆転して、「AIがコンテンツをつくり、人間がお金をもらって消費する」という未来があるかも?と想像していました。人間は、今の世界で言う「コンテンツを消費しながらダラダラする」をしていれば食っていける、というような世界になったらおもしろいでしょうね。

AIがどこまで、何をできるようになるのかはわかりませんし、正確に予想したいわけでもありません。でも、今まさに発展していく技術を気軽に触って遊ぶことができるのは貴重な経験だと感じますし、おもしろい時代に生まれたなあと思っています

取材・執筆:鈴木 陸夫

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