気持ちよいUIができたら後は放置。傑作Flash『艦砲射撃・マテスナ』作者の素敵な“悪癖”【フォーカス】

2024年7月11日

ゲームクリエイター

TANAKA U

ゲーム制作フリーランス。「動かしているだけで気持ちよい」が信条で、UI制作に強いこだわりを持つ。専門学校でゲームづくりを学んでいた2003年にFlashゲームサイト「NEXTFRAME!」を立ち上げ、多数のゲームを制作。2006年にバンダイナムコゲームス社に入社し、2009年からフリーランス。ソーシャルゲームを中心に、UI演出、UIコンサルティング、ゲームデザインなどを手がける。仮想通貨「Monacoin」についてSNSでつぶやいただけで、何者からか400万円相当のMonacoinを振り込まれ、戦慄したことがある。
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NEXTFRAME!

2000年代のWeb上には、「Adobe Flash」規格の無料ゲームが、個人によって多数制作・公開されていました。「NEXTFRAME!」という個人サイトは、大きな人気を集めていたFlashゲームサイトのひとつです。

代表作は、スナイパーライフルで標的を撃つシンプルなシューティング『マテリアルスナイパー』や、山なり軌道の砲撃で敵の殲滅を狙う『艦砲射撃!』など。Flash Playerが2020年でサポート終了してからも、「NEXTFRAME!」の作品は現在のHTML環境でプレイできるように順次対応が進んでおり、再公開の告知がなされるたびにSNS上で大きな話題を集めています。

「NEXTFRAME!」管理人であり数々のゲームを開発したのは、「動かしているだけで気持ちよい」をゲームづくりの信条に掲げるTANAKA Uさん。現在ではフリーランスとして、有名スマホ向けゲームのUI制作や演出の監修などを手がけています。趣味のFlashゲーム制作を通して培った「気持ちよい」UIづくりのノウハウが、いまの仕事につながっている部分も大きいのでは?そう考え、彼がFlashゲームに込めたこだわりと、現在も役立っている学びを聞くべく取材を申し込みました。

「取材をお断りするべきか、迷いました。20年前のことなんかを語っても、現代の読者が得られるものがないと思うのです…」とのお返事から、このインタビューははじまります。

20年前の話なので…

――取材を引き受けていただいて、誠にありがとうございます。本日はよろしくお願いします。早速なのですが――。

TANAKA U:あの、やっぱり思うんですけれど。

――はい、なんでしょうか。

TANAKA U:今さらFlash時代のことを語って、最新技術のお話を求めている読者の方に、「おいおいウソだろ!?このTANAKA Uって人、まさか20年も前の実績をもってして、俺達に学びをもたらそうとしているんじゃないだろうな…!?」などと思われるのだけは、本当に避けたくて。

――TANAKA Uさんは、『艦砲射撃』『マテリアルスナイパー』などFlash作品の中でも多くの人の記憶に残るゲームをつくられ、いまもフリーランスとして活躍されています。「あの時培ったノウハウや考え方のうち、後のキャリアにも役立っているポイント」があれば、それは多くの方が気になるお話なのではないでしょうか。

TANAKA U:確かに、それは全くないわけではありません。

でも、例えばですよ。この後、記事の中の私が「UIを良くするにはどうしたらいいか、ですか?フフ、良い質問ですね。ではまず、こちらのゲームをご覧ください」などと語り、何年も前のFlashゲームを見せつけてくるとします。これはさすがに恥ずかしすぎますよね。そんなことをする人間と思われては、私、穴があったら入るを通り越して、地表からブラジルまでトンネルを掘り進める作業に一生を費やさなくてはいけなくなるので。

やっぱり、昔のゲームは、昔のゲームですから。何年も前の実績をもとに、最新技術の世界に生きる皆さんに授業や説教をしたい、なんて意識は一切ないのです。

――そこはやはり、我々の方から取材をお願いしているのですし、そんな風に見えないようにいたします。ぜひ、お話をお聞かせください。

TANAKA U:ご配慮、ありがとうございます。では、あくまでただの昔話としてお聞きください。

▲取材に応じた、TANAKA Uさん

無料Flashゲームは「即離脱」の連続

――TANAKA Uさんは「動かしているだけで気持ちよい」を信条としており、ゲームのUIや手触りに強いこだわりがありますよね。これはやはり、Flash時代に生まれた考えなのですか?

TANAKA U:はい。この信条に至ったのには、2つの事情があります。

1つは、完全無料でプレイできるFlashゲームにおいては、UIの気持ちよさを追求せざるを得なかったからです。FlashゲームはいわゆるF2P(Free-to-play)で、課金要素もゼロですよね。ゲームをプレイしてもらうこと自体が、私の収入になるわけではありません。でもせっかくなら、お客さんには私がつくったゲームで目いっぱい楽しんでほしい。

ゆえに、私にとって最大の敵は「離脱率」だったんです。

無料Flashゲームのお客さんは常に「つまらない体験をさせられるんじゃないか?」という疑いの眼差しを抱いて来るんですよ。所詮は個人がつくった無料ゲームである以上、面白さの保証がないからです。なので、少しでもUIが分かりづらかったり、なんとなく面白くなさそうだと感じたら、それ以上時間を無駄にしないために、いつでもブラウザの「戻る」ボタンを押す気満々です。

そうはさせず、つくったゲームを楽しくプレイしてもらうためには、いかにお客さんをタイトル画面やステージ選択などの段階で途中離脱させず、ゲーム部分の本編まで導くかが重要ですここのつくりこみはもはや、ゲーム自体の面白さと同じくらい優先していました。

これが有料アプリとかなら、UIが多少劣悪でも「いや、ここから面白くなるはず」と勝手に期待して我慢しやすいんですよ。なぜかって、すでにお金を支払っちゃっているので、無料で遊べるFlashに比べて、「元を取ろう」とする意思が働きやすいから。

――ゲームの世界では、無料の方がユーザーの目が厳しくなるケースがあるんですね。

TANAKA U:はい。つまり、お客さんを離脱させないために、UIや操作時の感触の気持ちよさを追求せざるを得なかったのです。ゲームを始めた瞬間、メニューを選んだときの感触や画面遷移の小気味良さなどで、ちょっとでも「気持ちよい」と思わせる。すると、「これは楽しませてくれるゲームかも…」と期待してもらえる可能性が、だいぶ上がります。

だから、操作するたび、「1クリック」ごとに「1快感」が得られるようなUIの実現にこだわりました。

▲初期作品『2ch格闘(仮)』のタイトル画面~キャラクター選択まで。項目を選択するたび、さまざまなオブジェクトが細かく動く

――それが「動かしているだけで気持ちよい」の信条に至った大きな理由なのですね。もうひとつは、なんでしょうか。

TANAKA U:単純にUIをつくりこむのが好きだからですね。

――そこはシンプルなのですね。

TANAKA U:はい。それに、個人的なこだわりですが、「触っているだけで楽しい」「ボタンを押すことさえ、エンターテイメント」というゲームでないと、なんだか許せなかったんですね。自分のアウトプットとして納得いかない、というか。

ただ、この手触りの部分ばかりつくるのが好き、という妙な性質がある反面、「物量」的な作業があまり好きではなくて

――「物量」とはどういう意味ですか?

TANAKA U:UI、ゲームルール、動作設定といった骨格ができた後、作品を完成させるのに必要となる、ステージや敵キャラクター、オブジェクト配置、BGM、バランス調整といった長期のプレイに耐えるようにするためのあらゆる肉付け要素のことです。そこに労力を費やすのが苦手でして。

「操作しているだけで楽しくなるようにできたぞ! あとは時間をかけてボリュームを出すだけだ!」と確信が得られたら、そこで興味がなくなってしまうのですよね。次の新しいゲームをつくり始めてしまう。

なので、UIやジャンプ・攻撃時の感触といったゲームデザインの核、つまり最もお客さんが触る部分だけをつくってみて、自分の納得いくものができたら、そのまま完成させずに制作を投げ出す「悪癖」があります

Flash時代には数十作を手がけましたが、完成させたと言い切れる作品は、実は『艦砲射撃!』と『2ch格闘(仮)』の2作だけです。

――人気作品が多々あるのに、完成したのは2作だけ!?

TANAKA U:お恥ずかしながら。

特に『弾幕張れ!』は、この「悪癖」の典型ですね。UIやスキル設定、操作説明はしっかりとつくり込んでいて、プレイは可能ですが、ステージは1つしかないですし、ひたすら同じような敵が出現するのみ。このUIのつくりこみに満足してしまい、物量部分であるステージや敵のバリエーション制作へは進まず、制作を止めてしまいました。

▲未完成のゲーム『弾幕張れ!』。画面上の情報量の多さがなんだか楽しい

企画として「しょうもないゲーム」なのに

――ゲームへのこだわりを実装に落とし込むうえで、例えば代表作のひとつ『艦砲射撃!』では、どのような工夫をしましたか?

TANAKA U:これは、当時専門学校で学んだユーザビリティの概念を実践するために、「気持ちよい」だけでなく「わかりやすい」も重視してつくった作品です。こちらが想定するアクションを実行してもらうために、お客さんの認知をどのようにコントロールするかを意識しました。

例として、タイトル画面では「ゲーム開始」「演習」「シナリオ」など各選択肢の横に、白い矩形を高速で点滅させています。仮に薄目で画面を見ていたり、あるいは日本語がわからない方だったりしても、この点滅しているところさえ選んでいけば、ゲーム開始までたどり着けるようにしてあるのです。

▲ユーザーがクリック可能な部分は、白く点滅する(実際のゲームでは画像以上に高速点滅します)

――この点滅は、どこを押したらいいかの道筋が見える、誘導灯のような役目なのですね。

TANAKA U:まさしく誘導灯です。

点滅でわかりやすさを担保したうえで、私の信条である「気持ちよさ」にも力を入れています。項目にマウスポインタを合わせるたび「カチャン!」と気持ちのよい金属音が鳴り、クリックすると画面が遷移し、新しいボタンがブワッとフェードインしてくる。

この時点で、「ちょっと楽しい」と感じられるようにしてあるのです。この最初の1クリックが面白くなかったら、もう終わり…。そんな思いでつくっていました。

――そうした「1クリックの楽しさ」も、「NEXTFRAME!」のファンの多さにつながっているのですね。次に、『マテリアルスナイパー』での工夫を教えてください。

TANAKA U:これは、専門学校の卒業旅行で訪れた米国の射撃場で、実銃で撃ったときの体験に感動し、「銃を撃つことの面白さ」を表現したくてつくったゲームですね。

▲『マテリアルスナイパー』のタイトル画面。未完のため、「テストプレイ」しか選べない

TANAKA U:私はあくまで銃弾を放ったときの爽快感や、銃身のメカニズムが好きなだけで、人を撃ちたいわけじゃない。そのため、ゲーム内の標的は人じゃなくて物体にしています。

しかし、出てきた標的をマウス操作で撃つだけって、ゲームロジックだけ見るとモグラ叩きとそんなに変わりませんよね。あまりにも平凡で、しょうもないゲーム性の作品だとたびたび思うんですよ。

――しょうもない…!?

TANAKA U:なので「気持ちよい」を増やして、気持ちよくない部分は極力減らし、快感を敷き詰めるようにしています。ゲーム性以外の、細かいUIやUXの積み重ねで「69点」を稼ぎ、どうにか総合的には100点満点中「70点」という及第点評価を皆さんからいただいている作品なんじゃないかと。

――ゲーム性の部分が「1点」しかないですね。

TANAKA U:まあ、企画の新規性ゼロですからね。

快感の積み重ねの部分について話すと、例えば、発砲の衝撃を伝えるためのシェイク(画面の揺れ)。これが気持ちよくなるよう、速度や周期に関する数値を試行錯誤し、長い時間かけて決めました。

実際に銃を撃ってみたとき、「銃で撃つ」という体験の気持ちよさの大部分は、「衝撃」が占めていると感じたんです。当時の感覚をもとに、画面の挙動をつくりこんでいます。発砲すると、ドンッと大きく画面が動く。その後、揺れは急速に収まるが、完全に停止するまでは一定の時間がかかり、微細な振動が続く。Flashという平面のゲームにおいても、銃を撃つ「気持ちよさ」を再現するために、画面の揺れの大きさや持続時間の調整を重ねました。

この時つくった、発砲に伴う画面の表現はかなり気に入っていて。いまでも、手がけるゲームの演出に同じような揺れを取り入れることがあるくらいです。

――ゲームの軸となる「射撃」の爽快感を演出するのに力を入れたのですね。

TANAKA U:あとは、射撃時に画面を瞬間的に覆う爆発エフェクトや、一瞬遅れて響く重厚な射撃音、リロード時に、UI上の弾丸が押し込まれるように出現する演出など、細かい快感要素を細かく取り入れています。

▲アンチマテリアルライフルの射出時の衝撃が伝わるような爆発エフェクト

TANAKA U:あとは、主人公「スナ子」の存在も大きいです。

▲左下のキャラクターがスナ子(本名はアイリス)

――いまもファンからの人気が根強いキャラクターですよね。

TANAKA U:でもこれ、冷静に考えるとゲーム性への貢献が一切ないですからね。「画面手前に女の子がいて、見ていて楽しい!」以外の機能は果たしていない。

しかもプレイヤーは正面の的を見ているのに、スナ子はなぜか横を向いてるんですよ。存在そのものに合理性がない

――言われてみれば、プレイヤーの操作性には関与しない、装飾的存在ですね。

TANAKA U:でも、お客さんからは「スナ子かわいい」と言ってもらえるから、それでいいんです。キャラがかわいいということ自体が、プレイ上の気持ちよさに貢献しているはずですし。

実は、「スナ子」は私が描いたイラストなんです。というのも、『マテリアルスナイパー』をつくったのには、「自分が描いたイラストを『かわいい』と言ってほしい」という意図もちょっとありまして。

リリースしてみたら、実際に「かわいい」との声をたくさんいただけました。これは狙い通りで、大変嬉しい言葉です。しかも、一部の方は「絵が上手ですね!」とまで言ってくださる。

でも、絵が上手いなんてわけないんですよ

――えっ?

TANAKA U:私は、イラストを描いてみたいという願望があるのに、絵の練習をきちんとできなかった人間です。テクニックがないので、上手なわけがないんです。

ゲームをプレイする過程で30分も1時間もちょこちょこと動くスナ子を視界に入れていると、愛着が湧くからか、不思議なことにこんな下手くそな絵でもかわいく見えてくるというだけです。絵が上手だからスナ子がかわいいと感じる、というわけではない。

ま、いまだに『マテリアルスナイパー』を好きといってくれるお客さんがいるのは、このキャラクターの存在も大きいと思います。ちょっとした下心も込みで描いたキャラが、長らくゲームを愛していただける理由につながったというのは、結果論ですが嬉しくも感じるところです。

社会活動の場をくれる「ゲーム」への感謝

――こうしたご経験やこだわりのうち、いまのお仕事に生きている部分はなんですか?

TANAKA U:例えば、私は、基本無料が多いソーシャルゲームにおけるUI改善のお仕事をよくいただいております。

――それってFlashと同じ…。

TANAKA U:はい、F2Pです。

ソーシャルゲームのお客さんは、インストール後、ゲーム起動やチュートリアルなどで1アクションを求められるごとにすごい勢いで離脱していきます。お客さんに求める1タップの重みは、かなり大きい。誇張した言い方をしますが、「1タップするたびに半分が離脱し、次のタップでさらに半分になるかもしれない」と覚悟してつくっています。

そもそもインストールしてもらうことも、さらにその後アプリを起動してもらうことさえも難しい中で、課金にまで導くのは至難の業です。少しでも課金につなげる確率を上げるために、いかにお客さんを逃がさずゲーム本編をプレイしてもらうか、というのは重要な改善項目です。

このお客さんを逃がさない工夫が、私の仕事です。今まで「気持ちよさ」を追求してきた経験から、ありがたいことに、忙しくなる程度にはお仕事をいただけています。

でも別にそれは、私がゲーム界に舞い降りた天才スーパークリエイターだから、というわけではありません。ソーシャルゲームが大流行した2010年代前半に、無料ゲームの世界でいかにお客さんを離脱させないかという工夫を何年も重ねていて、かつ楽しいUIをつくりこめる技量を持った私のような人物って、そもそもそんなに多くなかったんです。

情勢と私の経験がたまたま合致したんですよね。意外とソーシャルゲームもFlashも、私の能力が生きる戦場としては似ていたんです。

――まさしくソーシャルゲームが求めるスキルが、Flash制作により培われ、お仕事につながってきたのですね。やはり、担当領域はUIや演出に関する部分が多いですか?

TANAKA U:はい。実装に携わることもありますし、最近ではUI、UXに関するコンサルティングも多いですね。「なんだかこのゲーム、触っていて楽しくないんだけど」という相談が持ち込まれて、「こうしたら気持ちよくなると思いますよ」と改善提案をしていく感じです。

「なんだかタップしていて感触が気持ちよくない」「画面遷移がモサッとしている」など、UIや手触りの課題はさまざまです。

私はFlash時代、ゲームを未完のまま放置することばかりだったのですが、その分UI周りをつくりこむ回数だけは妙に多かった。だから、どんな課題でもなんとなく改善策はわかるんですよ。

要は、自分が気持ちいいなあと思えるまで改善を行えば、結果的にゲームのお客さんにとっても満足いくUIができあがるんです。

▲人型ロボ「パシフィクス」で飛びながら戦うSFアクション『SeventhSky』も代表作のひとつだ

――では、いまのフリーランスの仕事は、UIや手触りという好きなことを突き詰められる天職なのですね。

TANAKA U:別にいまの仕事は、そこまで好きではないですよ。お金をもらわないと、やろうとは思いません。

――えっ!?

TANAKA U:毎回「しんどいなあ」って思いながら、一生懸命やっています。

というのも、私のゲームのつくりかたって「コスパ」が悪いんですよ。革新的なアイデアで面白いゲームをつくれるわけではありません。「気持ちよい」を細かく詰め込み、気持ちよくない「ささくれ」のような部分があれば除去する。こうした地味な作業の積み重ねで、どうにかやっと人が「面白い」と感じる閾値をクリアできるだけです一発で面白くできる「銀の弾丸」なんて持ち合わせていないので、仕方ないかなと。

――実は地道な作業が多く、大きな労力を要するのですね。

TANAKA U:それに、私は究極的には、何も問題が無ければ布団の上でずっとゴロゴロとし、天井を見て1日を過ごすことに一切の躊躇がない人間なんですよ。正直、働くことへのモチベーションがかなり薄い。私にとっては、「働いて社会参加すること」自体、ハードルが高いことなのです。

でも幸運なことに、ゲームをつくるのだけは多少うまい。その一応の強みによって、辛うじて社会に参加できています。

――そんな風に捉えていたんですね。TANAKAさんはゲームづくりに関わる仕事を心から楽しんでいるように見えていたので、とても意外です。

TANAKA U:まあ、今の仕事は完全な苦痛ではないし、楽しさを感じるときもありますよ。フリーランスとして参画し、どうしたら目の前の案件をより良いゲームにできるかと考える中には、楽しい瞬間もある。問題をヒアリングし、解決へ導く一連の流れ自体は、実は割と好きですし。

それに多分、本当に天井をずっと眺めているよりは、社会活動に少しでも参加していた方が幸福感は「マシ」になるじゃないですか。「苦労がなくて楽である」ことと「有意義で幸福である」ことは、別ですからその意味で、ゲームというものには感謝しています。

▲TANAKA Uさんが初めてつくったFlashゲーム。タイトルは「はじめて作ったゲーム」。当時ゲームを面白くするテクニックは一切なく、苦労して手がけたが、「自分でもゲームがつくれる」という重要な成功体験が得られたそう

時を経てようやく信じた「面白い」の声

――「ゲーム」に感謝を覚えている、というのはすごく素敵なお話ですね。今後はまたFlash時代のように、個人での活動にも力を入れていくことはあるんでしょうか?

TANAKA U:その気はあります、が…。ちょっと個人活動に関しては、私は重い「十字架」のように感じているところがあって…。

――どういうことでしょうか?

TANAKA U:目下の個人活動の目標として、『マテリアルスナイパー』は人気ゲームながら例によって未完成作なので、いつか完成させようと思っています

そこで2015年ごろ、私が最も敬愛する、大人気イラストレーターのLM7さんに依頼して、大変高品質な「スナ子」のキャラクター素材を描き下ろしてもらったんです。

――ファンからしたら、大興奮の展開ですね。

TANAKA U:ところが、フリーランスの方の活動が忙しすぎて。ゲームをつくるというのは大変なエネルギーが必要ですから、なかなか個人活動に時間が割けず、進捗は遅れに遅れ続けており、合計で15年以上も、制作と中断を繰り返しています…

LM7さんには、せっかくイラストを納品してもらったのに…という後ろめたさから、もう顔向けできないような心境で。そういう罪悪感を抱えて毎日生きています。

▲TANAKA Uさんが10年以上前から制作や中断を繰り返しているという、『マテリアルスナイパー』(完成版)の開発画面(本人のXへの投稿から

TANAKA U:とはいえ、そんな状態ではよくないので、ちょっとずつ個人活動を再開しつつはあります。各Flashゲームを2022年から再公開しているのも、実はその布石だったりはするんですよ。

――そんな背景もあったんですね。

TANAKA U:驚いたのが、『マテリアルスナイパー』を再公開したところ、Amazonのギフト券や、欲しいものリストに入れているお茶なんかと一緒に、「これ、めちゃくちゃハマってました!」「いまも好きなゲームです」というメッセージが届くようになったんですよ。

――2000年代当時から人気を博し続けている作品だと思いますが、なぜ驚いたのですか?

TANAKA U:Flash時代の私は、人から自分のゲームに「面白いね!」と言ってもらえても、「コミュニケーション上、褒めるに越したことはないから、とりあえず皆褒めてるだけなんじゃないのか…!?」と思っているところがあったからです。

――すごい疑り深さ。

TANAKA U:まあでも、私も大人になりましたから。約20年も経ってこうした支援をいただけると、「もしかして俺のゲーム、本当に愛されてたんじゃないか?」と、ようやく信じられるようになりました。

嬉しいことですよ、本当に。あまり人生に軸なくフラフラと生きている分、こうしたメッセージが結構、生きる軸になり得るほどの活力になっていたりします

だから、個人活動についても、まあつらいですが、どうにかちょっとずつ進めていこうかなと。もう本当に時間がなくてどうしようもなくなっても、『マテリアルスナイパー』の完成を断念するのも違うかな、という気がしているので。諦め悪くジタバタしながら、なんとか取り組み続けていきたいです。

取材・執筆:田村 今人
編集:光松 瞳

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