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史上最強の“重力波”、一般相対性理論の「ブラックホール脱毛定理」をかつてない精度で実証【研究紹介】

2026年2月12日

山下(Seamless)

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2025年1月、米国の重力波観測装置LIGOが観測史上もっとも強力で鮮明な重力波信号を検出した。「GW250114」と名付けられたこの信号は、太陽のおよそ33.6倍と32.2倍の質量をもつ2つのブラックホールが合体した際に発せられたもので、信号対雑音比が高い数値を達し、これまでの記録を大きく塗り替えた。

関連記事:過去最高に鮮明な“重力波” 観測、ホーキング博士のブラックホール面積定理を54年越しに実証

国際共同研究グループは、このGW250114を用いて、アインシュタインの一般相対性理論がブラックホールという極限環境でもなお正しいのかを検証した。その成果は2026年1月、Physical Review Letters誌に「Black Hole Spectroscopy and Tests of General Relativity with GW250114」として掲載された。

▲ブラックホールから音色が出ているのを想像しているアインシュタインのイラスト(絵:おね

アインシュタインが築いた理論通りの「振る舞い」

合体直後のブラックホールは激しく歪んでおり、次第に音色(振動)を発しながら落ち着いていく。この振動パターンを「準固有振動モード」(QNM)と呼ぶ。通常、QNMは、基本波以外は雑音に埋もれやすいが、GW250114では基本波(220モード)に加えて、倍音(221モード)も検出された。さらに今回は、合体前から合体後までの全波形を用いた解析により、高次の440モードの周波数が初めて制約された。これにより、複数の振動の組み合わせからブラックホールの性質を高い精度で解析できる。

一般相対性理論によれば、合体後のブラックホールは最終的に「質量」と「回転」(スピン)というわずか2つのパラメータだけで記述される「カー・ブラックホール」へと落ち着く。ブラックホールが質量と回転以外に余計な特徴(毛)を一切もたないことから「ブラックホール脱毛定理」や「ノーヘア定理」などと呼ばれ、一般相対性理論の定理の一つである。

もしこの定理が正しければ、異なるQNMから逆算されるブラックホールの質量と回転はすべて一致するはずである。

今回の解析では、推定されたブラックホールの質量と回転が互いに矛盾なく一致することが確認された。特に、合体前後の全波形を用いた解析では、主要な振動の周波数のずれがわずか数%以内に収まり、一般相対性理論との整合性が極めて高いことが示された。

また、合体前後でブラックホールの表面積が減少することはないというホーキングの面積定理についても、今回の信号を異なる領域に分けて個別に解析することで、高い信頼度をもって実証された。

GW250114という飛び抜けて強い重力波信号が、過去の数十回分の観測と同等以上の成果をもたらした。ブラックホールはアインシュタインが築いた理論通りに振る舞っており、その理論は極限的な強い重力の世界でも依然として揺るがないことが改めて確認された。

Source and Image Credits: A. G. Abac et al. (LIGO Scientific, Virgo, and KAGRA Collaborations), Black hole spectroscopy and tests of general relativity with GW250114, Phys. Rev. Lett. 136, 041403 (2026).

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