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2026年1月28日
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メキシコ国立自治大学などに所属する研究者らが発表した論文「Elastic overtones: an equal temperament 12 tone music system with “perfect” fifths」は、オクターブの定義を見直すことで12平均律の数学的矛盾を解消し、完全五度と転調の自由を両立させる新音律を提案した研究報告だ。
西洋音楽の根幹をなす12平均律には、数学的に解決不可能な矛盾が存在する。オクターブを12等分した音階では、完全五度の音程を正確に再現することができないのだ。
この問題に対し、研究チームは、従来の常識を覆す解決策を提案した。オクターブの周波数比を2倍ではなく約1.9726倍に変更することで、完全五度を保ちながら自由に転調できる音楽システムを構築できるという。
そもそもなぜ12平均律では完全五度が実現できないのか。完全五度とは周波数比が3対2の音程であり、7半音に相当する。12半音でオクターブを構成するため、12回の完全五度は7オクターブに等しくなるはずだ。しかし計算してみると、3/2の12乗は約129.746となり、2の7乗である128とは一致しない。この微小な差異が「ピタゴラスコンマ」と呼ばれ、このずれが蓄積して不協和音(ウルフトーン)を生み、古来より音楽家たちを悩ませてきた。
そもそもオクターブが周波数の2倍で定義されるのは、ギターの弦やフルート内の空気といった細長い振動体の物理法則に由来する。こうした一次元的な物体は、基本周波数の整数倍(2倍、3倍、4倍…)で振動する性質を持つ。周波数が2倍の音は、その倍音がすべて低い音の倍音に含まれるため、人間の耳には「同じ音の“高い”版」として認識される。これがオクターブの正体である。
研究チームはこの前提を覆した。電子楽器であれば物理的な振動体に縛られず、倍音構造を自由に設計できる。オクターブの本質は「周波数が2倍」ではなく「高い音の倍音がすべて低い音に含まれる」ことだと捉え直せば、2以外の比率でも同様の効果を得られる。研究チームは倍音の配置を工夫した「Elastic Overtones」(EO、弾性倍音)システムを考案し、完全五度が成立する条件からオクターブの比率を約1.9726と算出した。
この新システムでは、五度に加えて四度も高い協和性を持つ。バッハやショパンの楽曲を両方式で比較演奏したところ、弾性倍音システムでは純正律に似た滑らかな響きが得られたという。オクターブがわずかに狭くなる代償はあるが、転調の自由を保ちながら協和性を高められるとしている。
Source and Image Credits: Hernandez, Xavier, Luis Nasser, and Pablo Garcia-Valenzuela. “Elastic overtones: an equal temperament 12 tone music system with” perfect” fifths.” arXiv preprint arXiv:2601.08074 (2026).
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