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2025年12月25日


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スペインのバルセロナ大学と米メリーランド大学に所属する研究者らが発表したプレプリント論文「Partially hyperbolic dynamics in the 3-body problem」は、3つの天体が重力で引き合いながら動くとき、その運動が本質的に複雑になる数学的な仕組みについて解明したとする研究報告である。この複雑さは偶然ではなく、系に最初から組み込まれた頑健な性質であることが証明されたという。
SF作品『三体』では、3つの太陽を持つ惑星系に住む異星文明が描かれる。3つの太陽の動きが予測できないため、灼熱と極寒が不規則に訪れ、文明は何度も滅亡と再生を繰り返す。この設定の元になっているのが、物理学と数学における「三体問題」だ。
宇宙に3つの天体があり、互いに重力で引き合いながら動いているとする。三体問題はこの運動を予測する問題で、ニュートンの時代(1687年)から科学者を300年以上悩ませ続けてきた。2つの天体なら完璧に計算できるのに、もう1つ加わっただけで、なぜか一般解が存在しなくなる。
三体問題が厄介なのは、わずかな初期条件の違いが、時間が経つにつれて劇的に異なる結果を生むこと。3つの天体が互いに引っ張り合うことで、運動が信じられないほど複雑になり、最初の位置や速度がほんの少し違うだけで、しばらく経つとまったく別の場所にいる。
今回、研究チームはこの複雑さを生み出す幾何学的な構造を特定した。研究チームは「シンプレクティック・ブレンダー」と呼ばれる構造が三体問題に存在することを証明したとしている。ブレンダーとは、近くを通る軌道を必ず捕まえて絡め取る性質を持つ領域のことで、この領域があると様々な動きが強制的に混ぜ合わされ、予測不能なカオス的振る舞いが生まれる。
ブレンダーの概念自体は1996年に導入されたが、これらは抽象的な数学の枠組みの中で構成されたものであり、具体的な物理モデルにおける存在は示されていなかった。今回、三体問題という実際の物理系でブレンダーの存在が証明されたという。
研究によると、さらに、ブレンダーの存在から「振動運動」と呼ばれる軌道の性質を解明したとされる。振動運動とは、ある天体が無限遠まで飛んでいきながらも何度も戻ってくるという、直感に反した動きのこと。研究チームは、このような軌道に沿って、内側の2つの天体が描く楕円の形がある領域内のあらゆるパターンを経験することを示した。
重要なのは、この複雑さが頑健だという点だ。条件を少し変えても消えない、系に根本的に備わった性質なのである。なお、この結果は3つの天体のうち少なくとも2つの質量が異なる場合に成り立つ。研究に基づくと、三体問題には、運動を複雑にする仕組みが最初から組み込まれていることが今回の発見で数学的に裏付けられたことになる。
Source and Image Credits: Guardia, Marcel and Jaime Paradela. “Partially hyperbolic dynamics in the 3-body problem.” (2025).
メイン画像出典:Wikimedia Commons (EnEdC, Nekorine / CC BY-SA 3.0) ※編集部加工
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