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2025年9月30日
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米カリフォルニア大学ロサンゼルス校に所属する研究者らが発表した論文「Invisibility Cloak: Personalized Smartwatch-Guided Camera Obfuscation」は、自分の姿をカメラから消せる、スマートウォッチを使った技術を提案した研究報告である。
カメラが遍在する現代社会において、個人のプライバシー保護と映像解析技術の有用性をどう両立させるかは重要な課題となっている。この課題に対して今回開発された「Invisibility Cloak」は、スマートウォッチから送信される慣性測定ユニット(IMU)信号を活用して、カメラ映像内の個人を特定し、各人のプライバシー設定に応じて映像をリアルタイムで加工する技術である。
従来のプライバシー保護手法では、カメラ映像全体を一律に処理するか、あるいはカメラの使用自体を制限するという二者択一的なアプローチが主流であった。しかし、オフィス、学校、公共施設などの共有空間では、利用者によってプライバシーへの要求が異なり、また同一人物でも状況によって必要とされる保護レベルが変化する。Invisibility Cloakは、このような動的かつ個別化されたニーズに対応するため、スマートウォッチという身近なウェアラブルデバイスを活用した。
このシステムのポイントは、IMU信号と映像データの関連付けにある。研究チームが開発した機械学習フレームワークでは、スマートウォッチのIMUエンコーダーが加速度とジャイロスコープのデータから手首などの動きのパターンを抽出する。一方、ビデオエンコーダーは物体認識モデル「YOLO11x」を用いて検出された人物の手首、肘、肩の関節点を追跡し、動きの特徴を抽出する。これらの異なるモダリティから得られた特徴を共通の潜在空間に投影することで関連付けを実現している。
プライバシー保護のレベルは5段階で設定できる。最も基本的な「Raw」では映像を無加工のまま保持し、「Masking」では人物領域を単色で覆い隠す。「Blurring」はぼかし処理により個人識別可能な特徴を除去しながら動きの情報を保持する。より高度な「Inpainting」では人物を完全に除去し、背景を自然に再構築する。さらに「Skeleton Overlay」では、Inpainting後に骨格表現のみを重ね合わせることで、活動監視などの機能を維持しながら外観的特徴を完全に排除できる。
実験では10人の参加者によるデータセットを用いて評価が行われ、デバイスと人物の関連付けにおいて平均95.48%の精度を達成した。特に動きの大きいスポーツシナリオでは最高の精度を示した。未知のユーザーに対する汎化性能を検証したクロスユーザー評価では94.63%、異なる環境での検証を行ったクロスシーン評価では96.62%の精度を維持し、システムの堅牢性が確認された。
Source and Image Credits: Xue Wang and Yang Zhang. 2025. Invisibility Cloak: Personalized Smartwatch-Guided Camera Obfuscation. In Proceedings of the 38th Annual ACM Symposium on User Interface Software and Technology (UIST ’25). Association for Computing Machinery, New York, NY, USA, Article 153, 1–15. https://doi.org/10.1145/3746059.3747601
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