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「DNAカセットテープ」登場。理論上1kmあたり最大36万TB超の記録や、345年超の保存も可?【研究紹介】

2025年9月12日

山下 裕毅

先端テクノロジーの研究を論文ベースで記事にするWebメディア「Seamless/シームレス」を運営。最新の研究情報をX(@shiropen2)にて更新中。

中国の南方科技大学などに所属する研究者らが発表した論文「A compact cassette tape for DNA-based data storage」は、DNAを記録媒体として使用するデータストレージシステム「DNAカセットテープ」を開発したとする研究報告である。

▲開発されたDNAカセットテープドライブにDNAカセットテープを挿入する様子

10回繰り返し読み出してもデータの劣化が起こらないDNAストレージ

デジタルデータは年々増加し続けており、現在のハードディスクやSSDなどでは将来的に対応が難しくなってくると予想されている。そこで注目されているのが、生物の遺伝情報を記録するDNAを使ったデータ保存技術である。

研究チームが開発したDNAカセットテープは、かつて音楽録音に使われたカセットテープを彷彿とさせる形状を持つ。ポリエステル・ナイロン複合膜のテープ上にインクジェット印刷でバーコードパターンを形成し、その白い部分にDNAデータを保存する仕組みである。1キロメートルのテープには約55万個のデータパーティションが配置され、それぞれが独立してデータの読み書きが可能である。

データに基づいた推定から、DNAテープは1キロメートルあたり74.7ギガバイトの実データを保存でき、さらに理論上の最大記憶容量は1キロメートルあたり362ペタバイト(36万2000テラバイト)に達する可能性があるという。

このシステムの中核をなすのが、「DNAカセットテープドライブ」である。従来のカセットテープレコーダーのように、テープを挿入してデータの入出力を行う。バーコードを光学的に読み取り、毎秒1570個という高速でファイルを検索し、必要な化学反応を自動制御してデータの読み書きを実行する。

▲DNAカセットテープとDNAカセットテープドライブの概略図
▲(A)DNAカセットテープドライブの外観。(B)DNAテープドライブの内部構造。(C)データ読み取り用ヘッド機構。

特筆すべきは、「DMRM」(deposit-many-recover-many)と呼ばれる機能である。従来のDNA保存技術では、データ読み出し時に元のDNAが消費されてしまうという欠点があったが、この技術では10回繰り返し読み出してもデータの劣化が起こらない。さらに、不要となったデータを削除し、新しいデータで上書きすることも可能である。

長期保存のために、研究チームは「ZIF」(Zeolitic imidazolate framework)という特殊な保護膜を開発した。この膜でDNAを覆うことで、室温で345年間以上データを保存できる。計算上、寒冷地ならさらに長く、約2万年の保存が可能という。しかもこの保護膜は、必要な時には15秒で取り除くことができ、すぐにデータにアクセスできる。

実証実験では、中国の伝統的なランタンの画像を4つのパズルピースに分割して保存し、意図的に間違った場所に配置したテキストファイルを、自動的に削除し正しい画像ファイルを再配置するという複雑な作業を実施した。この一連の操作は自動化されており、約50分で完了し、最終的にランタンの画像を復元することに成功した。

Source and Image Credits: Jiankai Li et al. ,A compact cassette tape for DNA-based data storage.Sci. Adv.11,eady3406(2025).DOI:10.1126/sciadv.ady3406

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