2025年6月27日
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今回取り上げる論文「How to cook pasta? Physicists view on suggestions for energy saving methods」では、2021年のノーベル物理学賞受賞者ジョルジョ・パリージ氏が提案した、高い効率でパスタをゆでられる調理法について、ドイツのマックスプランク高分子研究所の研究チームが詳細な実験を行い、エネルギー効率と食感の関係を明らかにした。
パリージ氏の提案は「水を沸騰させてパスタを入れたら、すぐに鍋に蓋をして火を止める」というものだ。本論文によると、この「Hofflon法」(heat-off-lid-on)と呼ばれる方法は、従来の調理法と比較して調理後の水分含有率がほぼ同等でありながら約60%のエネルギーを節約でき、火を止めて放置する最適な時間は15分としている。
なお、この研究ではアルデンテを目指して調理しており、ここでいう最適な調理時間とは、食用パスタの調理品質を定める国際規格(ISO 7304-1)に基づきつつ、パスタをガラス板で押しつぶした際に断面に見える白い芯が、ちょうど見えなくなる直前の時間と定義されている。
また研究チームは、パスタを冷水に浸してから短時間加熱調理する方法(事前浸水法)も検証し、40〜50%の省エネ効果があることが分かった。こちらの方法では、1時間半冷水に浸した後に95度のお湯で3分湯がいている。
しかし、物理学者たちが発見したのは、省エネには代償があるということだった。
研究チームは、異なる調理法で作られたパスタの物理的特性を、圧縮試験(硬さや弾力性などの指標を測定)や引張試験(最大応力や破断時の伸びを計測)といった材料工学的手法で詳細に測定した。
その結果、Hofflon法で調理したパスタは従来法と比べて柔らかく、粘着性が高くなることが判明した。事前浸水法では、この傾向がさらに顕著で、粘着性が大幅に増加し、アルデンテの食感からはかけ離れたものになってしまう。
この違いは、パスタを構成するタンパク質とデンプンの分子レベルでの挙動の差に起因する。従来の調理法では、沸騰水中での一定温度により、タンパク質の架橋反応とデンプンの糊化が適切なバランスで進行する。
一方、Hofflon法では温度が95℃から80℃まで徐々に低下し、長い調理時間を必要とするため、外側の層が過度に調理されデンプンの一部が溶出して表面が粘着性を帯び、内部のアルデンテな芯が小さくなってしまう。
事前浸水法では、冷水でタンパク質だけが先に水を吸収し、その後の短時間で湯がく調理でデンプンの糊化が不完全になるため、独特の粘着性のある食感になる。
研究者たちは、エネルギー節約と食感の品質はトレードオフの関係にあると結論づけている。ただし、従来の調理法でも工夫次第で省エネは可能だ。大量の水を激しく沸騰させ続ける必要はなく、適度な量の水で時々かき混ぜれば十分である。これにより水の量を最大90%削減でき、相応のエネルギー節約が可能になる。
Source and Image Credits: Phillip Toultchinski, Thomas A. Vilgis; How to cook pasta? Physicists view on suggestions for energy saving methods. Physics of Fluids 1 November 2024; 36 (11): 117120. https://doi.org/10.1063/5.0230480
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