2025年6月25日
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ベルギーのブリュッセル自由大学と、スイスのUniversità della Svizzera italiana(スイスイタリア語大学)に所属する研究者らが発表した論文「Möbius games and other Bell tests for relativity」は、原因と結果の順序が変えられることを証明できる実験方法を提示した研究報告である。
量子力学の世界では、離れた場所で起きるできごとが不思議な相関を示すことがある。これを説明しようとすると、情報が光より速く伝わる必要があり、アインシュタインの相対性理論と矛盾してしまう。この矛盾を明確に示したのが「ベルの不等式」である。今回の研究では、この考え方を時空の構造そのものに応用する新しい方法を提案している。
日常では原因と結果の順序は固定されている。コップを落とせば割れるし、その逆はない。しかし一般相対性理論では、重い物体が時空を曲げるように、物質の配置が因果関係そのものを変える可能性がある。この研究は、そのような「動的な因果関係」を実験的に検証する方法を提案している。
提案された検証方法の中で特に興味深いのが「メビウスゲーム」である。これは多数の参加者による協力ゲームで、次のように進行する。審判が参加者の中から「送信者」と「受信者」のペアをランダムに選ぶ。審判が0か1のビットを決め、そのことは送信者だけに伝えられる。受信者がこのビットを正しく当てれば勝利となる。
通常の物理法則では、情報は過去から未来へしか流れない。もし受信者が送信者より時間的に先にいれば、情報は届かず推測するしかない。このような固定された因果順序の下では、ゲームの勝率は理論的に11/12(約91.7%)が上限となる。
しかし、もし参加者の行動によって因果関係自体が変化するなら、この上限を超えることが可能になる。実験でこの限界を超える勝率が観測されれば、因果関係が固定されたものではなく、物理的相互作用によって変化したこと、つまり「動的な因果関係」の証明となると研究者らは主張する。
重要なのは、このような動的な因果関係が一般相対性理論の枠組みで実現可能かもしれないという点である。重力場中では、物質の配置が時空構造を決定する。適切に物質を配置することで重力を操作できれば、理論的には実際に事象間の因果関係を制御できる可能性がある。このように、重力操作によって生じる「動的な因果関係」の証明ができる実験方法がメビウスゲームとなる。
研究チームは、この発見が将来的に「重力情報理論」という新しい分野の発展に寄与する可能性を示唆している。量子情報理論がベルの不等式から発展したように、メビウスゲームも重力を利用した情報処理技術の基礎となるかもしれない。ただし、実際の応用にはさらなる研究が必要である。
Source and Image Credits: Eleftherios-Ermis Tselentis and Ämin Baumeler. Möbius games and other Bell tests for relativity. Phys. Rev. A 111, 052211 – Published 13 May, 2025 DOI: https://doi.org/10.1103/PhysRevA.111.052211
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