2025年6月11日
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高血圧は世界中で十億人以上の規模で人々が罹患する重大な健康問題であり、心血管疾患の主要な危険因子として知られている。従来、高血圧の治療は薬物療法が中心だが、予備軍も含め運動が推奨されてもいる。では、どういった運動が効果的なのだろうか。この問いについて調査した2023年発表の論文「Exercise training and resting blood pressure: a large-scale pairwise and network meta-analysis of randomised controlled trials」を見ていきたい。
この研究では、1990年から2023年2月までに発表された270件のランダム化比較試験を対象に、1万5,827人の参加者データを分析した。この研究では、有酸素運動(AET)、レジスタンス運動(RT。筋肉に負荷をかける動作を繰り返す運動)、複合運動(CT。AETとRTの組み合わせ)、高強度インターバルトレーニング(HIIT)、アイソメトリック運動(IET。筋肉の長さを変えずに力を入れ、姿勢を維持したりする運動)の5つの運動様式が安静時血圧に与える影響を比較検討した。
分析の結果、すべての運動様式で有意な血圧低下が認められたが、中でもアイソメトリック運動が収縮期血圧(SBP)で8.24mmHg、拡張期血圧(DBP)で4.00mmHgの低下を示し、最も大きな効果を発揮したとされている。収縮期血圧においては、アイソメトリック運動、複合運動、動的レジスタンス運動、有酸素運動、高強度インターバルトレーニングの順に高い効果があった。
さらに詳細な分析では、アイソメトリック運動の中でも、壁に背中をつけて膝を曲げた姿勢を維持するエクササイズ「ウォールスクワット」が収縮期血圧の低下に最も効果的であることが判明した。
このように運動による血圧管理において、これまで有酸素運動が主に推奨されてきたが、アイソメトリック運動が最も効果的である可能性が示された。次に、アイソメトリック運動を継続的に行った場合にどれくらいの効果が出るかを調査した2023年発表の論文「Reductions in systolic blood pressure achieved by hypertensives with three isometric training sessions per week are maintained with a single session per week」を見ていく。
この研究では、収縮期血圧が130mmHg以上の高血圧患者77名を対象に、ハンドグリップ運動群、ウォールスクワット運動群、対照群の3群に無作為に割り付けた。そして4セット×2分間の運動を週3回、12週間実施した。
ハンドグリップ群は最大握力の30%の強度で握力計を握り続け、ウォールスクワット群は壁に背中をつけて膝関節を95度から135度の角度で保持する運動を行った。
12週間後の結果、ハンドグリップ群では収縮期血圧が平均11.2mmHg、ウォールスクワット群では12.9mmHg低下した。これは標準的な降圧薬を1回投与した場合の平均的な血圧低下(9.1mmHg)と比較しても遜色ない効果である。対照群では0.4mmHgの低下にとどまり、運動群との間に統計学的に有意な差が認められた。
さらに興味深いのは、その後の12週間の維持期間の結果である。この期間中、運動頻度を週1回に減らしたところ、ウォールスクワット群では血圧低下効果が維持されたばかりか、さらに1.8mmHgの追加的な低下が見られた。一方、ハンドグリップ群では0.5mmHgのわずかな上昇が観察された。この結果は、ウォールスクワット運動がより少ない頻度でも効果を維持できる可能性を示唆している。
Source and Image Credits:
Edwards JJ, Deenmamode AHP, Griffiths M, et alExercise training and resting blood pressure: a large-scale pairwise and network meta-analysis of randomised controlled trialsBritish Journal of Sports Medicine 2023;57:1317-1326.
Cohen DD, Aroca-Martinez G, Carreño-Robayo J, Castañeda-Hernández A, Herazo-Beltran Y, Camacho PA, Otero J, Martinez-Bello D, Lopez-Lopez JP, Lopez-Jaramillo P. Reductions in systolic blood pressure achieved by hypertensives with three isometric training sessions per week are maintained with a single session per week. J Clin Hypertens (Greenwich). 2023 Apr;25(4):380-387. doi: 10.1111/jch.14621. Epub 2023 Mar 25. PMID: 36965163; PMCID: PMC10085809.
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