太陽が「磁気嵐」でSpaceXのスターリンク衛星の寿命をどれほど縮めているか、NASAの研究者ら調査【研究紹介】

2025年5月29日

山下 裕毅

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米メリーランド大学ボルチモア校や、NASA(米航空宇宙局)のゴダード宇宙飛行センターに所属する研究者らが発表した論文「Tracking Reentries of Starlink Satellites During the Rising Phase of Solar Cycle 25」は、太陽がSpaceX社のStarlink(スターリンク)衛星にどのような影響を及ぼしているかを調査した研究報告である。

太陽から飛んでくる粒子の嵐が地球の磁場を乱すとき、地磁気嵐(磁気嵐)が発生する。この地磁気嵐が人工衛星にどのような影響を与えるのか、SpaceXのStarlink衛星群を対象にした大規模な研究が行われた。2020年から2024年にかけて、大気圏に再突入した523基の衛星の動きを追跡した結果、低軌道衛星であるStarlink衛星は地磁気嵐の影響を強く受け、地磁気嵐が強いほど衛星が速く落下することが統計的に示された。

▲2000年から2024年までの、全衛星の年間再突入数(灰色棒)とStarlink衛星の年間再突入数(赤色棒)

2022年2月には約40基の衛星が

Starlink衛星のうちの一定数は、地上から500キロメートル前後の低い軌道を飛んでいる。こうした、地上から数百キロメートル程度の高度では、地球の大気がわずかに存在し、衛星に抵抗力を与えている。普段はこの抵抗力は小さいが、地磁気嵐が起きると状況が一変する。太陽からの荷電粒子が地球の磁場とぶつかると、上層大気が加熱されて膨張する。すると衛星が飛ぶ高度の大気密度が増加し、衛星への抵抗力が大幅に増える。結果、衛星の負荷が大きくなり、寿命も短くなり得る。

2022年2月には、この現象が大きな要因となって、約40基のStarlink衛星が予定の軌道(高度500~600キロメートル)に到達できずに大気圏に再突入してしまった。衛星は最初、210キロメートルという低い高度に投入され、そこから徐々に高度を上げる計画だった。しかし、ちょうどその時に地磁気嵐が発生し、大気密度が通常の1.5倍に増加した。その結果、衛星は予想以上の抵抗を受けて急速に高度を失い、スラスターで軌道を上昇させることができなくなった。

▲2000年から2024年までの間に再突入した1864個の衛星の地理的な再突入位置を示している。オレンジ色の点がStarlink衛星(509個)、青色の点がStarlink以外の衛星(1355個)を表している。

地磁気活動の強弱と、衛星の「落下」の関係は

研究チームは地磁気活動の強さを3段階に分けて分析した。通常の状態(地磁気活動が弱い状態)、中程度の嵐、激しい嵐である。523基の各衛星が高度280キロメートル付近を通過してから、大気圏の境界である100キロメートル(カーマン・ライン)まで落下するのにかかった時間を測定した。

結果は明確だった。通常の状態では平均約16日かけて落下したが、中程度の嵐では12日、激しい嵐ではわずか7日で大気圏に突入した。つまり、激しい嵐の時は通常の2倍以上の速さで衛星が落下することになる。

▲地磁気嵐の強度別のStarlink衛星の再突入時の高度変化
▲Starlink衛星の再突入数が地磁気活動の強さに応じてどのように分布しているかを統計的に示している

さらに重要な発見は、嵐が強いほど落下時期の予測が難しくなることだ。通常の状態では比較的正確に予測できるが、激しい嵐の際は実際の落下時刻が予測より大幅に早くなる傾向があった。これは衛星の運用や、他の衛星との衝突回避を行う上で、深刻な問題となる。

2024年5月に発生した超大型の地磁気嵐は、この研究の重要性を示す上で注目すべき事例だ。この嵐は過去20年で最も激しいもので、ある衛星は高度276キロメートルからわずか1.86日で大気圏に突入した。これは1日あたり95キロメートルという驚異的な落下速度である。

Source and Image Credits: Oliveira, Denny M., Eftyhia Zesta, and Katherine Garcia-Sage. “Tracking Reentries of Starlink Satellites During the Rising Phase of Solar Cycle 25.” arXiv preprint arXiv:2505.13752 (2025).

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