2025年3月12日
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米ニューヨーク大学とカナダのブリティッシュコロンビア大学の研究者らが発表した査読前論文「Volume estimates for unions of convex sets, and the Kakeya set conjecture in three dimensions」は、回転する針(1本の線分)が描く形に関する、数十年来の難問を解決したと主張する研究報告である。
掛谷問題とは、「長さ1の線分を1回転するのに必要な図形の中で面積が最も小さくてすむものは何か?」という、針を360度回転させるために必要な最小の面積を問うものである。1917年、日本の数学者である掛谷宗一が提起した。
通常、円形を描く発想が考えられるが、掛谷はルーロー型の三角形なら、円より面積が小さくなると発見した。しかし、他の研究者らが、正三角形や、デルトイドという三角形の3つの辺をへこました図形の方が小さくなると指摘した。
そんな中、1920年代にロシアの数学者ベシコヴィッチが驚くべき発見をした。「長さ1の線分を1回転することのできる領域はいくらでも小さくすることができる」というものである。その図形は、掛谷集合(ベシコヴィッチ集合)と呼ばれる。
このような形状に関して生じる疑問のひとつは、それらの形状がどのような次元を持っているか、ということだ。正方形や立方体などの従来の形状はそれぞれ2次元と3次元だが、フラクタルのような奇妙な形状は、その中間のどこかに位置する次元を持つことがある。
掛谷集合の発見によって生まれた「掛谷集合予想」は、「n次元空間における掛谷集合の次元はnである」と主張するものである。ここでの次元は数学的に厳密に定義された「ミンコフスキー次元」と「ハウスドルフ次元」を指す。簡単に言えば、掛谷集合では、針の移動によって描かれる形の次元は、それが移動する空間の次元と常に同じである、というものだ。
1次元の場合については簡単に証明され、2次元の場合も1970年代にRoy Daviesによって証明されたが、3次元の場合は数十年間、数学者たちを悩ませてきた。
今回の研究では、3次元における掛谷集合予想を解決し、すべての掛谷集合のミンコフスキー次元とハウスドルフ次元が3であるはずだと証明したという。この証明は、間接的なアプローチを取っている。まず、予想に反する例、つまり3次元よりも小さい次元を持つ掛谷集合が存在すると仮定する。そして、そのような集合が特定の数学的性質を持たなければならないことを示し、最終的にそのような性質を持つ集合は存在しないという矛盾を導き出したとのことだ。
Source and Image Credits: Wang, Hong, and Joshua Zahl. “Volume estimates for unions of convex sets, and the Kakeya set conjecture in three dimensions.” arXiv preprint arXiv:2502.17655 (2025).
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