『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』に学ぶ、スキル習得の難易度コントロール

2025年3月10日

しんざき

システムエンジニア、PM、ケーナ奏者、三児の父。南米民族音楽の演奏が趣味。仕事・育児・演奏活動の傍ら、レトロゲーム雑記ブログ「不倒城」を20年程運営している。

X:@shinzaki

ブログ:「不倒城」

今日書きたいことは、大体以下のようなことです。

・エンジニアにとって「スキルの学び方、身につけ方」は非常に重要な問題です
・学習環境を用意する時、「応用的なスキルをどのように身につけるか」を考える上では、ゲームの難易度調整が大いに参考になります
・最近だと、特に『ゼルダの伝説ブレス オブ ザ ワイルド』の「祠」における難易度調整が非常に秀逸だと感じました
・祠のギミックは「①スキルの基本的な使い方を提示する」「②基本的な課題を解かせる過程で、スキルの応用的な使い方を考えさせる」「③応用的な課題を解かせる」という三段階構成になっています
・つまり「練習」と「実践」が分割されておらず、「実践の中に次の課題の練習が組み込まれている」ため、課題を順にクリアしているだけでおのずとスキルが身につくわけです
・この三段階はゲーム中至るところに登場し、「フィールドの興味があるところに近寄るだけで自然と課題が提示される」という学習のインフラが整備されている点も大変美しい
・私のチームでは、各タスクの難易度と関連性を整理して、「チケットを順番に処理していくと自然に難易度が上がっていく」というデザインができないか試みています(できない場合もある)
・新人さんにスキルの身につけ方を提示する際は、「課題難易度の調整」「課題提示のインフラ構築」を考慮するとうまくいくことが多い気がしています

以上です。よろしくお願いします。

さて、書きたいことは最初に全部書いてしまったので、後はざっくばらんにいきましょう。

ゲームには「学習」「適応」のノウハウが詰まっている

しんざきはおよそ20年程システムエンジニアをやっています。元々の専門分野はデータベース関連なんですが、それ以外のことも色々やります。

最近はマネジメントばかりでがっつりテクニカルな仕事はあまりできていないのですが、技術者として、知識のアップデートやスキル習得はこまめに行うよう心がけています。

クラウドサービスや生成AIの進化により、昔と比べてエンジニアの学習環境は非常に改善されました。とはいえ、「どうやって技術を身につけるか / 身につけさせるか」というノウハウが重要である、という点は、昔も今も変わっていないように思います。

ところで、しんざきは幼少の頃からのゲーム好きでして、駄菓子屋の軒先で遊んだ『ゼビウス』や『Mr.Do!』を皮切りに、40年ほどゲームを遊び続けています。ゲームセンターのゲームも散々遊びましたし、家庭用のゲームも散々遊びました。

そして、色んなゲームを攻略する過程で、実生活や仕事とも通底する様々なノウハウを身につけることもできた、と考えています。真面目な話、しんざきはPDCAサイクルを『ダライアス外伝』 の全国スコアを目指す過程で学びましたし、マルチタスクのプランニングは『大航海時代II』を攻略する過程で身につけました。

ゲーム攻略というのは、要は「テクニックを身につけて、自分の動きを最適化して、ゲーム内で提示された課題を解決する」そのループを楽しむ遊びですので、テクニカルスキルはともかくとして、「学習」「適応」のノウハウは一般化が可能で、色んな面で応用が利くと考えているんですよ。

私のチームでは「実務を通じて自然と応用的なスキルが身につくような環境」を構築しようと試みていまして、タスクの内容や提示の仕方を考えるうえでは『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド(以下、BotW)』が大いに参考になりました。

ということで、本記事では「ゲームにおける学習と適応」をテーマに『BotW』の話をしたいと思います。主にマネージャー視点、「部下にどうスキルを身につけてもらうか」の話が主眼です。

皆さん、ゼルダシリーズは遊んでますか? 直近でも『知恵のかりもの』が大変面白かったのですが、古いタイトルから新しいタイトルまで、どれを選んでも外れがないですよね。

私が一番遊んだゼルダは『神々のトライフォース』か『夢をみる島』だったんですが、最近『BotW』と、その続編である『ティアーズ オブ ザ キングダム』にプレイ時間を抜かれました。めちゃ面白いですよね、BotWシリーズ。

「祠」はスキル習得の秀逸なフレームワーク

私は面白いゲームに出会った時、よく「開発者さんはどのような意図で難易度調整を行ったのだろう?」と考えます。ゲームを進めるにつれて課題がどのように難しくなるか、その課題をどうやってプレイヤーにクリアさせているか、という観点です。

ゲーム中に発生する課題の難易度、例えば「敵の強さ」や「パズルの難しさ」がずっと一定だった場合、プレイヤーはすぐに達成感を感じられなくなり、エンディングに辿り着く前に飽きてしまいますよね。

したがって、世の中のゲームの多くは、遊んでいるうちにだんだん難しくなるようにできているわけですが、すると別の問題が顔を出します。今度はプレイヤーが課題をクリアできずに途中で挫折してしまう可能性があるのです。

難しい課題を達成するためには、プレイヤーにも相応のテクニックが求められます。しかしゲームを遊ぶのは、高い壁を用意しておけば自分から喜んで試行錯誤するような、いわゆる「コアゲーマー」ばかりではありません。多くの人にゲームを楽しんでもらうためには、達成感を感じられる高さのハードルを段階的に設定しつつ、そのハードルを乗り越えられるように自然な形でプレイヤーの上達を誘導することが望ましい。

言うのは簡単ですが、明確な正解というものがない、開発者さんにとってはもの凄くシビアなさじ加減だと思います。

というわけで、ゲームの「難易度調整」とは、単なる難しさのコントロールではなく、「課題の乗り越えさせ方」をデザインすることでもある。そして、この「課題の乗り越えさせ方」が上手いゲームは、それだけで十分名作と言って良い、としんざきは思っているのです。

ところで、『ゼルダの伝説』シリーズ、特に『BotW』(と『ティアーズ オブ ザ キングダム』)の難易度コントロールは神がかっています。今まで色んなゲームを遊んだつもりですが、その中でもトップクラスに、「プレイヤーの学習と、それに沿った難易度の上がり方」の作りが丁寧なゲームだと思います。

『BotW』って「テクニックを身につけてもらいつつ、ごく自然とハードルを上げていく」という、そのコントロール加減がすさまじいんですよ。

その端的な例として「祠の攻略」が挙げられます。

『BotW』は、広大なハイラルの大地を探索しながら冒険を進めていく、オープンワールドタイプのゲームです。リンクを操るプレイヤーは、ハイラルを好きなように歩き回りつつ、宴会をしているボコブリンに爆弾矢を撃ち込んだり、山に登ろうとしてスタミナ切れで転落したり、ガーディアンにビビり散らかしながら追いかけ回されたりします。

さらに、ハイラル各地には「祠」と呼ばれるミニダンジョンが点在していて、それぞれの祠にバリエーション豊かな謎が待ち構えている。

実際に遊んだ方はご承知と思うんですが、『BotW』の祠って、その多くが「三段階」で攻略を進めていく作りになっているんです。

例えば、ゲームを始めたばかり、「始まりの台地」で攻略することになる「ジャ・バシフの祠」。ここって、ゲーム中至るところで利用することになる、「リモコン爆弾」というアイテムを使えるようになる、その導入の祠なんですが、

① 最初は、爆弾で壊せる壁が単に道を塞いでいるだけ
② 次に、爆弾を移動床に置いて離れたところで爆発させないといけない地形が現れる
③ 最後に、爆弾を発射装置にセットして、タイミングよく爆発させることで遠距離の壁を破壊する

という構造になっているんです。

これ、それまでゲームを全くしたことがなかった、当時小学校低学年のしんざき家長女でも、「あ、こうすればいいんだー!」と大納得しまして、以後ずぶずぶと『BotW』にハマることになった、そのきっかけの祠でもあります。

つまりこれって、

① スキルの基本的な使い方を提示する
② そのスキルを使った基本的な課題を解かせる過程で、応用的な使い方を考えさせる
③ ②を踏まえた応用的な課題を解かせる

という三段階になっている、ということですよね。

どんな初心者でも、操作方法さえ分かれば一つ目の課題は解ける。その延長線上で、ちょっと工夫すれば「二つ目」の課題も解ける。そうすると、次の「課題」に取り組むためのスタンスも出来るし、「どう応用すればこの謎が解けるだろう?」と考える、その気持ちよさと達成感も理解出来る。特に「三つ目」については、解き方も本当にバリエーション豊かで、色んな工夫の余地がある。

自然と取り組める、取り組んでいるうちに上手くなる。初心者のテクニック習得のためのインフラとしては、理想的なハードルの上げ方だと思うんですよね。

もちろん、『BotW』の難易度コントロールは祠だけの話に留まりません。

各地の中ボスダンジョンである「神獣」。あちらこちらに隠された洞窟。その辺の建造物でさえ、「テクニックを提示されて」「そのテクニックを使いながら課題を解決していき」「最終的には自分で色んな解法を考える」という三段構造 が、冒険中いたるところにちりばめられていて、プレイヤーは否応なく、「スキルを身につけつつ、即そのスキルの使い道を考えて課題を解決する」というプロセスを経験していくことになります。

これ、大事なのは「“練習”と“実践”が分かれておらず、スキル習得が課題解決の中に組み込まれている」「スキルの基本をマスターすると同時に応用方法を考えることになる」という二点であって、このノウハウは色んなところで活用可能なんじゃないかなー、と考える次第なのです。

行く先々に課題が存在する「理想の学習インフラ」

もう一つ挙げておきたい要素として、「プレイヤーが自然に過ごしていても、自然と課題に突き当たって、自然と課題に取り組む構造になっている」という点もあります。前段は課題の難易度に関する話でしたが、今度は課題の与え方の話ですね。

これもプレイした方はご存知かと思うんですが、『BotW』では、広大なマップの至るところに、様々な「発見」が仕込まれています。ただ道を歩いているだけ、その辺の野山を走り回っているだけで、なんとなく気になるところが見つかる。その「気になるところ」に向かって歩いてみると、例えば人がいたり、祠があったり、コログ(謎を解くと出現する隠れキャラ)がいたりと、自然と「課題」と出会って、その課題を解くことになる。

『BotW』のフィールド自体、ただ広大なだけではなく、本当に美しく繊細で、プレイヤーは黙っていてもあちこちを散歩して、色んな景色を探してみたくなります。道を見つければ道に沿って走ってみるだけ、山を見つければ山に登ってみるだけで、特に特別なことをしようとしなくても、自然と課題を発見して、それを解くことになる。

これまた、あまりゲーム慣れしていない人にとっても、ごく自然と様々なテクニックを駆使して課題を解くことになり、自然とゲームに習熟していくことになる、理想的なインフラを構成していると思うんですよね。

ちなみに、しんざき家では長女のみならず長男や次女も『BotW』をやっているんですが、次女の攻略過程がユニークでした。

最初の「始まりの台地」をクリアすると、普通なら始まりの塔からハイラル宿場町の方角に降りて、双子山経由で双子馬宿に行って、そのまま北上してポックリンに会いつつカカリコ村に向かう、といったルートを辿るのが一般的かと思います。このルートだと、道に沿って歩いているうちに自然とヴァシ・リャコの祠にも行けるし双子山の塔にも寄ることになる。これ自体すごく上手い作りだなーと思ったんですが。

ただ、ある日仕事中に次女から電話がかかってきて、「ゼルダ、村についたよー!」と言うので、ああカカリコ村についたのかな、それともハテノ村かな、と思ったら「海がきれい!漁師さんがいた!」とか言っていて、何をどう聞いてもウオトリー村。

どうも、始まりの台地からハイラル湖の方に降りてしまって、そのまま敵からガン逃げしてフィローネ地方を突破、レイクサイド馬宿を突っ切ってウオトリー村まで行ってしまったようで、初期装備でフィローネのジャングルを抜けたの結構すごいと思うんですが、こういうわけの分からんルートでも最後には攻略出来てしまうというのも、『BotW』のすごいところと言っていいのではないかと思います。

一方の長男はというと、「道」を「単に地形の色が違うところ」としか認識していなかったらしく、本当に「まっすぐ」カカリコ村を目指したため、これまた塔も馬宿もガン無視して西側の山からカカリコ村に行ったらしいですが、まあそれは余談です。

ゼルダで得た学びを新人教育に応用する

さて、ざーっとゼルダの話をしてきたわけですが、上記したような「スキル習得のためのゲームデザイン」というものは、実際の仕事でも大いに参考になると思っています。

しんざきの職場では、新人さんや初学者に新しい分野に挑戦してもらうために、粒度・優先順ではなく、難易度・対応スキルでタスクを分類する」「実際に連続したタスクを片付けながらスキル習得に挑戦してもらう」というやり方を採用することがあります(※ただしプロジェクトの状況にもよる)。

例えばTypeScriptなりPythonなり、ただ「学習時間」を設けて自分で習得してもらうのも大事ですが、実際のタスクをこなす中で自然とその言語に触れてもらえればより一層効率的にスキルが身につくのではないか、と。タスク完了の達成感と共にスキルを身につける楽しさを味わってもらえれば理想的だし、ハードルが徐々に上がっていくようだとなお良い。

また、課題の提示の仕方にしても、例えばredmineなどで課題をチケット化して、ブラウザのスタート画面で自動的にチケットが表示されることで、わざわざアクションを起こさずとも「自然と課題に対応することになる」といった工夫もしています。

もちろん、自分から積極的にスキル習得の学習が出来ればそれに越したことはないし、自主的にスキルを身につけていっても欲しいのですが、人間の意思というのは薄弱なものなので、特に意思を発揮しなくても学習が出来るインフラがあればそれに越したことはない、と思っているのです。その上で、「タスクを片付ける上で自然とスキルが学習出来る」「だんだんと自分の判断でスキルを応用出来るようになる」と、それはさらに理想的だなーと。

効果的なこともあれば、タスクが立て込んでいてそれどころじゃない、ということももちろんあるのですが、全体的にはまあまあ上手く回っているように思います。

今後とも、ゲームを始め、色んな場面でもらった仕事のヒントを活かしていきたいなーと。

そんな風に考えているわけなのです。

今日書きたいことはそれくらいです。

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