「パソコン買って」と言われたら。“調査”の作法が自然と身につく我が家のルール

2024年12月9日

しんざき

システムエンジニア、PM、ケーナ奏者、三児の父。南米民族音楽の演奏が趣味。仕事・育児・演奏活動の傍ら、レトロゲーム雑記ブログ「不倒城」を20年程運営している。

X:@shinzaki

ブログ:「不倒城」

こんにちは、しんざきと申します。長男と双子の長女次女、3人の育児をしながらIT企業で管理職をしている45歳です。主にDBの監査ログを威嚇する仕事で生計を立てています。よろしくお願いします。

先にまとめてしまうと、この記事で書きたいことは以下のようなことです。

よろしくお願いします。

さて、書きたいことは最初に全部書いてしまったので、後はざっくばらんにいきましょう。

子どもにもIT知識のベースがあったほうがよい?

育児中のエンジニア同士で話していると、「子どもにパソコンを使わせるかどうか」「いつ、どうやって、どんなルールでパソコンに触れてもらうか」といった話題が出てくることがちょくちょくあります。

今の時代、どんな道を選ぼうと、IT技術と無縁に暮らすことはほぼ不可能です。インターネットは言うに及ばず、電子決済、SNS、チャットボット、スマート家電などのIoT機器などなどなど、意識する・しないに関わらず、生活のありとあらゆる部分にIT技術が絡んでいます。

となると、「IT技術をより有用に、身近で馴染んだものとして」利用出来た方が良いですよね。そして、技術を有効に利用するには、「利用者」としての視点だけではなく、「開発者」やら「運用者」やら「設計者」やら、なるべく幅広い視点をもっておくに越したことはありません。将来IT技術者の道を選ぶかどうかに関わらず、何をするにも根っこの知識があるかないかでは大違いです。経済の仕組みを知っていれば投資で大損はしにくいし、金融の流れを知っていれば特殊詐欺には遭いにくい道理です。

で、知識というのは、深く理解しなくても、「とっかかり」を知っているかどうかで学びやすさがまるで違います。「そういうものがあるんだ」ということだけでも知っていると、後から深く理解するための入り口が出来る。そういう意味で、出来ることなら、スマホやタブレットだけではなく、広くIT技術の根っこの方に触れやすいパソコンが使えれば望ましいと思うんですよね。

「出来れば子どもにもパソコンに馴染んで欲しい」とお考えの親御さんは、エンジニアに限らず、それなりの人数いらっしゃるようです。一方で、「スマホは欲しがるけどパソコンには興味を示さない」とか、「何をどこまで使わせるか、セキュリティのルールはどうするか」といった悩みをお持ちの方も多いように見受けられます。この辺、各家庭でどうやっているかという話はあまり表に出てこないこともあり、実際に行っている事例について書くのは、参考になる部分も多いのではないかと思いました。

そのため、現在高校生の長男がパソコンを運用しているしんざき家での事例について、ちょっとご紹介したいと思います。別に一般化して「こうすればいいですよ!」とオススメするつもりはなく、あくまで「しんざき家で現在上手くいっていると思われるやり方の紹介」であることについてはご承知ください。

長男のパソコン導入プロジェクトの話

しんざき家では、パソコンなどの家電やアプリ・ソフトウェアなどのITインフラ導入の際、とあるルールを設けています。

それは、「事前に『導入の目的・メリット』『導入のコスト』『運用時のリスク」『運用のルール』などを自分で調べ・考えて説明してもらい、それに基づいて親が導入の判断をする」というものです。子どもが「プレゼンする側」で親は「説得される側」なんです。

まず、しんざき家の長男の話をします。

長男は幼少の頃からの清く正しい電車好きで、小学校時代を通じて、一番のお気に入りのおもちゃはプラレールでした。彼、複々線と環状線が組み合わさった複雑なレイアウトをあっという間に組み立ててしまうくらいプラレールに熟達しておりまして、子ども用施設で周囲の小さい子がわらわら寄ってきてレイアウトで遊ばせてもらう、なんて光景もちょくちょく見ました。

▲「おもちゃ王国」で長男がつくったプラレールのレイアウト

これ、軽井沢の「おもちゃ王国」に行った際、長男が30分くらいでぱぱっと作ったプラレールのレイアウトの写真です。結構いい感じのレイアウトですよね。これ、私にはちょっと作れないです。

長男の欲求は、基本的には「運転士になりたい」「色んな鉄道に乗りたい」ということのようで、例えば鉄道博物館やキッザニアに行っても、彼が目をつけたのは鉄道シミュレータを使った「運転」でした。自分で遊ぶのはもちろん、人がプレイしている間もじっと画面を見つめて、日がな一日シミュレータの前に張り付いていることもしばしばありました。

そんな長男が、中学校に上がるくらいの頃、友人から聞きつけてきたらしい「家で出来る鉄道シミュレータ」が「Bve transim」、通称BVEでした。

▲本物さながらの鉄道の運転が体験できるBVEの操作画面

BVEって、2000年くらいから公開されている、Windowsで動作するフリーウェアの鉄道シミュレータでして、本物さながらの運転が出来ることもさることながら、ユーザが独自の鉄道路線や車両を作って公開することが可能で、色んな路線が再現される一大コミュニティが出来ているんです。

長男、「家で鉄道シミュレータを動かせる」という夢のような状況に憧れて、「何とか自分のパソコンが欲しい」と思ったらしいんです。私を説得しようともの凄く頑張り始めました。家事の手伝いもしましたし、勉強も随分頑張りました。

どんなことでもそうだと思うんですが、インフラ導入の最良のタイミングは「やりたいことが明確にある時」です。明確な動機と目的意識がない状態で導入したインフラは、比較的置物になりやすいです。皆さんもご経験ないですか?「すぐ必要ってわけじゃないけど、なんとなく導入してみるか」で導入した家電や家具が置物になること。少なくとも私は割とあるんですが。

余談なんですが、「楽器を買ったはいいがすぐ置物になりがち」な方にオススメしたいのは、「まずその楽器を使っている団体なり集まりに入って、コンサートの予定を入れること」です。マジで、「人前で演奏する」という半強制的な機会があると、楽器の上達ってとても速くなります。

今回、長男にとっては「BVEで電車を走らせてみたい」という、この上なく明確な動機と目的意識があり、以前から「機会があればパソコンに触って欲しい」と思っていた私にもいいタイミングのように思えました。Pythonで自作モジュールも作れるらしいので、なんならコーディングに触れる機会にもなりそうでした(実際そうなりました)。

とはいえ、皆様よくご存知の通りパソコンは高価です。しかも今回、導入理由が鉄道シミュレータなので、簡易なノートパソコンでごまかすという訳にもいかず、それなりの性能の3Dグラフィック処理環境も必要になります。当然セキュリティインフラも整えないといけませんし、どうせ触るならオフィス環境もそろえたいところです。残念ながらしんざきは石油王ではないので、必要だからといって、野菜を買うのと同じような感覚で「オッケー、じゃあ明日パソコン買おうか」などと言えるものでもありません。どうせ買うなら、きちんと段取りをつけて、有効に導入・運用出来るようにしたいし、将来的には長男自身がちゃんと管理出来るようにしたいと思いました。

で、長男、昔から「人に何かをお勧め・プレゼンする」のが好きだし、得意なんですよ。料理とか漫画とかゲームとか、自分が触れて「良かった!」「美味しかった!」「面白かった!」とプレゼンしてくれるのが、彼、妙に上手いんです。小・中学校くらいまでの子どもって、根源のところで「ごっこ遊び」が好きなようで、「○○ごっこ」という形式をとると目の色を変えて真剣になる子どもは多いです。そこで、今回「パソコンの導入」についても、「導入プロジェクトごっこ」にすることを思いつきました。

まず長男とこんな会話をしました。

  • 「BVEやりたいのはよくわかった。でもパソコンは高い。サイゼに30回行けるくらい」
  • 「でも欲しいの…!」
  • 「だから、ちゃんと導入プロジェクトにしよう。企画を立てて、説明して、パパとママが承認する」
  • 「プロジェクト?どうやるの?」
  • 「どうしてパソコンが欲しいのかとか、パソコンを買うとどんないいことがあるのかとか、パソコンをどう使っていくのかとか、そういう計画を書いた企画書を作る。そして、パパとママにその企画を説明する」
  • 「説明すればいいの?」
  • 「パパとママを説得出来たら、ちゃんとパソコン導入プロジェクトとして承認して、予算もつけられてパソコン買える。分かる?」
  • 「分かる!出来る!」

やる気です。

さすがに何のテンプレートもなくプレゼンをするのは難しいので、私が考えて提示したのが、こんな企画書のフォーマットでした。

  • ・プロジェクトの目的(パソコンを買いたい、パソコンが欲しい理由)
  • ・期待される効果(パソコンを買うことでどんないいことがあるのか)
  • ・必要なコスト(いくらかかるのか、どんな作業が必要なのか)
  • ・想定されるリスクと対策(パソコンを使う上で危ないことは何か、どんなルールで防ぐか)

こういう、ある程度明確なテーマがあると、子どもなりにそれに沿ってちゃんと考えてくれるんですよ。

で、金銭コストについては私が見積もったんですが、目的や効果は自分で考えさせて、リスクについては私が助言しつつ、図書館や学校のプリントで調べさせました。そうして、長男が自分で考えた「パソコン導入プロジェクト」の企画書が、だんだんとできあがっていきました。「BVEで遊べて楽しい」以外に、「勉強の調べ物も出来る」とか「じいじやばあばにメールを出せる」といったメリットも挙げられました。

何かを実現させようと頑張る時、「何故それを実施するのか」「そのゴールはどこで、ゴールにたどり着くことでどんないいことがあるのか」を言語化するのって滅茶苦茶大事ですよね。それに子どもの頃から馴染むってもの凄くいい経験になりますし、しかも親が言わなくても主体的に取り組めるって、滅茶苦茶貴重な機会だと思うんですよ。

そういう意味で、この「BVE欲しい!」プロジェクトは、私にとっても長男にとっても最高のタイミングだったと思うんです。

セキュリティリスクにどう対応するか

企画書を作る際、「リスクとその対策」をある程度自分で考えさせるようにした、というのも、非常に重要なポイントだと思っています。

子どもがITインフラに触れる時、一番の問題が「セキュリティリスク」でして、エンジニア仲間で子どものITインフラの話をする時も、そこがまず話題に上ります。どこまで管理するのか、どこまでを制限するのかって非常に難しい問題ですよね。

ただ、これについても、例えば個人情報漏洩のリスクとか、「個別のリスクに対してどう対処するか」というのはあくまで方法論なので、そこだけを個別にピックアップして子どもに伝えようとしても、上手く定着しない、理解してもらえないことが多いんじゃないかと思うんですよね。例えばの話、「Web上で顔写真や名前を公開してはいけない」とか「SNSで知らない人と会う約束をしてはいけない」って、もちろん当然のことなんですが、そういう「禁止事項」「注意事項」を全部網羅するのも容易じゃないし、子どもにもなかなか定着しないじゃないですか。

各論を一つ一つ列挙するだけだと身につかない。まず、根本的に「どんなリスクから、何を守らないといけないのか」を考えないといけない。リスクマネジメントの基本です。

その点、「まず自分で調べてみる」かどうかで全く定着の度合いが変わるんですよね。例えば「パソコンの中の大事なデータを守らないといけない」とか、「他人に危害を加える人から身を守らないといけない」という目的意識から、きちんと自分で納得して言語化する。すると、「どんな対策が必要か」ってこともある程度自分で考えられるし、それ以外の対策についても定着しやすいと思うんですよ。

この時も、もちろん私とやり取りをしながらではあるんですが、「webで書いたちょっとした情報から自宅の場所を突き止められて、家に怪しい人が来た例がある→これくらいいいか、と思っても自分につながるような情報を書いてはいけない」とか、「人の文章や絵を丸々コピーすると法律違反になる場合があるのでやらない」といったリスク・対策は、長男自身で考えて書きました。

例えばスマホにアプリを入れる時なんかも、簡単でもいいから「リスクと対策」をある程度自分で考えておく、って重要なんじゃないかと。その点でも、この「企画書」の仕組みって悪くないんじゃないかと思っています。

その後のパソコン導入プロジェクト

で、最終的に長男の企画書は完成しまして、私と妻相手にプレゼンをしてくれました。まあ私は事前に内容を知っていたので出来レースと言えば出来レースなんですが、長男のプレゼンには妻もちゃんと納得して、パソコンが導入されました。

で、今パソコンでBVEを遊んでいる長男はこんな感じです。

▲BVEで電車を運転する長男

もうちょっと机を整理した方がいいですね。でもめちゃ楽しいらしいです、BVE。私もプレイさせてもらいましたが、とにかく運転と路線の再現性がもの凄いです。ただ、操作系がかなり難しくて、私自身は全く上手く運転できません。「電車でGo!」ならちょっとやったんですけどね。

その後、この「導入企画」ルールはしんざき家で定着しまして、ある程度大きな買い物をする際、あるいはアプリやソフトを導入する際、簡単ながらもある程度「導入の目的とメリット」「コスト」「リスクと対策」を考えてプレゼンしてから導入する、というのは共通のルールになりました。長女も次女もなんとなくコツをつかんできたらしく、毎度説得される日々です。

最初の方でも書いたんですが、これは「しんざき家でたまたま上手くいっている、しんざき家独自の事例」に過ぎません。子どもによっても家庭によっても適したやり方というのはあるもので、あまり一般化出来るやり方でもないと思います。

とはいえ、「目的とリスクの言語化」はいい経験になると思うし、今後IT技術を利用していく上でも恐らく役に立つだろうと。いつかどこかでこの経験が役立ってくれるといいなということで、当面は継続していこうと考える次第なのです。子どもたちがITと上手いこと付き合えるようになって、これからもいい感じで暮らしていってくれるといいなあ、と考えるばかりです。

今日書きたいことはこれくらいです。

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