「バスケ中に横切るゴリラを見落とす」実験に異議。気づいてないだけで認識はしている?【研究紹介】

2024年11月19日

山下 裕毅

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米ジョンズ・ホプキンズ大学に所属する研究者らが発表した論文「Sensitivity to visual features in inattentional blindness」は、人の注意が他に向くことで意識的には見えていないものがあっても、実は対象の特徴をある程度は認識していると実験で明らかにした研究報告である。

研究背景

人は、目の前のことに集中していると、視野に入っているはずのものを見落としてしまうことがある。これを示す有名な実験に「見えないゴリラ(Invisible Gorilla)」がある。これは、ある映像を見て「白いシャツを着た人たちがバスケットボールをパスした回数」を数えていると、その後ろを横切る黒いゴリラに気づかない人が約半数もいる、という実験である。

この「非注意性盲目」と呼ばれる現象は「注意を向けていないものは見えていない。つまり意識的な知覚には注意が必要だ」という考えを支持する重要な証拠として、長年扱われてきた。数多くの研究者が「注意が向けられていない対象は、完全に知覚されていない」と考えていた。

▲非注意性盲目に関する3つの代表的な実験

しかし、今回の研究チームは、新しい研究を通して、この定説を覆す可能性のある発見をした。

研究内容

研究チームは2万5000人以上の参加者を対象に、5つの実験を行った。

最初の実験では、参加者は画面に表示される十字に注目し、十字の水平方向と垂直方向のどちらが長いかを答えるように求められた。そして、4回目の実行時には、十字とは別に、画面の片側に赤い線を表示した。

▲実験の手順

その後、参加者に「前回の試験で、以前の試験には見られなかった、何か異常なことに気づきましたか?」と質問した。結果として、71.4%が「はい」と答え、28.6%が「いいえ」と答えた。

そして、「実は画面の左右どちらかに赤い線が表示されていました。どちら側にあったと思いますか?」と質問したところ、全参加者の87.4%が正しい位置と答えることができた。特に注目すべきは、最初の質問で「気づかなかった」と答えた参加者(28.6%)のうち、63.6%が赤い線の位置を正しく答えられたことである。この正答率は、偶然の確率である50%を統計的に有意に上回っている。

続いて、異なる条件(色の判断、形の判断、動く刺激など)に基づいた実験2から実験5でも、同様のパターンが確認された。これらの結果は、注意が向けられていない視覚刺激でも、ある程度の情報処理が行われていることを示している。

これらの発見は、注意が向けられていない対象への知覚を「ある・なし」の二分法で捉えるのではなく、程度の問題として考える必要性を示唆している。注意の欠如は、視覚的認識を完全に遮断するわけではなく、部分的に低下させるだけであるという可能性が高いことが示された。

Source and Image Credits: Makaela Nartker, Chaz Firestone, Howard Egeth, Ian Phillips. Sensitivity to visual features in inattentional blindness. bioRxiv 2024.05.18.593967; doi: https://doi.org/10.1101/2024.05.18.593967

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