2024年11月6日
先端テクノロジーの研究を論文ベースで記事にするWebメディア「Seamless/シームレス」を運営。最新の研究情報をX(@shiropen2)にて更新中。
オーストラリアのシドニー工科大学に所属する研究者らが発表した論文「A numerical evaluation of the Finite Monkeys Theorem」は、タイプライターのキーをランダムに叩く猿が、シェイクスピアの作品を書き上げられるかを数学的に検証した研究報告である。
「無限の猿定理」とは、無限の時間があれば、キーボードをランダムに叩く猿が、シェイクスピアの全作品など、どんな文章でも偶然に打ち出せるという思考実験をいう。有限の長さのテキストにおいて、ランダムな入力でも、無限の時間があれば目的のテキストが必ず出現するという数学的な確率の考え方である。
研究チームは、この「無限の猿の定理」を現実的な条件下(有限の時間と有限の個体数の猿で確率計算)で検証することにした。
現在地球上に生息する約20万頭のチンパンジーを対象に、英語のアルファベットと一般的な句読点を含む30個のキーを持つキーボードを使用すると仮定し、各個体が1秒間に1文字をタイプするという条件で計算を行った。また、宇宙の寿命を10^100年と想定し、数学的分析を実施した。
研究結果は、次のようになった。
例えば、チンパンジーが「Bananas」という簡単な単語を偶然に書き上げるには、約2.2×10^10回もの文字入力が必要となる。1頭のチンパンジーが生涯(10^9秒、30年余り)をかけてこれに挑戦しても、「Bananas」のタイプに成功する確率はたったの約5%しかないことが判明した。
さらに複雑な文章になると、成功確率は急激に低下する。デカルトの「我思う、ゆえに我あり」をもじった「I chimp, therefore I am」という短い文章でさえ、20万頭全ての猿がタイプをしても、全頭が寿命を迎えるまでに1頭が生成に成功する確率は約2×10^(-20)という天文学的な低さとなった。
これは事実上、不可能に等しい確率であるが、仮に猿全頭が宇宙の寿命までタイプを続けた場合はほぼ確実に「I chimp, therefore I am」のタイプに成功すると示されている。
一方、シェイクスピアの全作品となると、その規模は約88万4647語にも及ぶ。これをランダムな入力で再現するには、宇宙の寿命までに利用可能な総キーストローク数をはるかに超えてしまう。
研究チームは、宇宙の寿命と、実現可能なチンパンジーのタイピスト数の現実的な推計を考慮しても、意味のある文章生成に必要なリソースとの間には依然として桁違いの差が存在することを実証した。そのため、人間の創造性や学術的成果を、猿による労働で代替することは不可能という結論に達した。
Source and Image Credits: Stephen Woodcock, Jay Falletta, A numerical evaluation of the Finite Monkeys Theorem, Franklin Open, Volume 9, 2024, 100171, ISSN 2773-1863, https://doi.org/10.1016/j.fraope.2024.100171.
関連記事
人気記事