2024年11月1日
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中国科学技術大学に所属する研究者らが発表した論文「Minutes-scale Schrödinger-cat state of spin-5/2 atoms」は、量子状態の「シュレーディンガーの猫」を、約23分間にわたって維持することに成功した研究報告である。これは、通常では極めて壊れやすい「量子重ね合わせ」状態を、長時間維持できることを実証した成果である。
シュレーディンガーの猫状態とは、量子力学における重要な概念で、相反する状態が重なり合って存在する状況を指す。古典的な例えでは、箱の中の猫が生きているか死んでいるかを確認するまで、両方の状態が同時に存在するとされる思考実験が知られている。
このような量子重ね合わせ状態は、通常、環境からのわずかな影響で簡単に壊れてしまう。特に原子を捕捉する格子状の光の檻(光格子)の中では、レーザー光の強度むらが量子状態を乱す大きな要因となる。
研究チームは、約1万個のイッテルビウム原子を用い、レーザー光で作られた光格子の中に原子を捕捉。各原子の核スピンを、上向き(+5/2)と下向き(-5/2)という正反対の方向へ同時に向いた状態にすることで、原子によるシュレーディンガーの猫状態をつくり出した。
さらにこの状態を、デコヒーレンスフリー部分空間(Decoherence-free subspace)と呼ばれる特殊な保護領域に配置することで、光格子中のレーザー光の強度むらによる影響を受けない状態を実現することに成功した。この手法により、従来は極めて困難だった約23分(1,400秒)という長時間にわたって、量子重ね合わせ状態を維持することが可能となった。
研究チームは、この長時間維持できる量子状態を使って、超高感度の磁場測定も行った。160秒かけて測定を行ったところ、0.12ナノテスラ(ナノは10億分の1)という微細な磁場の変化を検出することに成功。これは量子力学において提唱されてきた理論的な限界値である0.10ナノテスラに近づく精度であり、従来の測定限界(0.22ナノテスラ)の約1.8倍の高感度を実現した。
このような高精度測定が長時間可能になった今回の成果は、様々な分野への応用が期待されている。例えば、より精密な原子磁力計の開発や、量子コンピュータで使用する量子メモリへの応用が考えられる。
Source and Image Credits: Yang, Y. A., et al. “Minutes-scale Schr {\” o} dinger-cat state of spin-5/2 atoms.” arXiv preprint arXiv:2410.09331 (2024).
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