古代の投槍器「アトラトル」、高台からだと威力低下? ネアンデルタール人が使わなかった理由に迫る【研究紹介】

2024年10月16日

山下 裕毅

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米ケント州立大学や米クリーブランド自然史博物館などに所属する研究者らが発表した論文「The gravity of Paleolithic hunting」は、古代の槍投げ器「アトラトル」を使い、高所から発射すると速度と運動エネルギーがどうなるかを調査した研究報告である。

研究背景

アトラトルと呼ばれる槍投げ用の道具は、人間が長距離にわたって投射物を発射することを可能にする。先端に投射物を保持するための溝がある手持ちの棒であり、人間の腕が達成できる投射物を投げる勢いを増幅する、テコのような役割を果たす。

しかし、中期旧石器時代にヨーロッパやレバント地方に生息していたネアンデルタール人は、明らかにこれを使用しなかった

「重力」がもたらす、予期せぬ負の影響が、ネアンデルタール人や一部のホモ・サピエンス集団によってアトラトルが採用されなかった理由を説明できるかもしれない。

研究内容

研究者たちは、当初、アトラトルで発射された投射物と、手で投げられた槍の両方が、より高い位置から下向きに投げられた場合、重力によって速度が増すと仮定していた。これは、先史時代の狩猟者が崖や木の上などから、下にいる獲物に向かって投射物を発射した可能性を想定したものである。

しかし研究によると、実際には、槍のみが高さによる利点を得たという。

実験では、参加者が3、6、9メートルの高さに設定されたシザーリフト上に立って、アトラトルによる投射物と、手投げの重い槍を、地上に設置したターゲットに向かって下向きに発射した。そしてハイスピードカメラを使用して、各武器の速度と運動エネルギーを測定した。

▲参加者が3、6、9メートルの高さから下のターゲットに向かって手投げの槍やアトラトルを発射する実験
▲槍を投げる様子

その結果、手で投げられた槍は、より高い位置から投げられた場合、着実に運動衝撃エネルギーを獲得。地上での計測と比較すると、9メートルの高さでは速度が33.8~41.4%、運動エネルギーが78.7〜100.7%増加した。

しかし、アトラトル投射物は、予想に反して、高度が上がるにつれ、速度と運動エネルギーの両方が低下した。具体的には、アトラトル投射物の最高速度は、地上レベルまたは3メートルの高さで記録され、それ以上の高度では性能が低下した

9メートルの高さでは、アトラトル投射物の速度は地上レベルと比較して10.4〜21.6%減少し、運動エネルギーは19.7〜21.6%減少した。

▲アトラトル(左)と槍(右)のパフォーマンスに対する発射高度の影響の概略図

より急な下向きの発射角度が、アトラトルのテコの動きを無効にし、道具で投げる力を発揮することを難しくしている可能性がある。また薄くて軽量なアトラトル投射物は、下降中の風の突風や空気抵抗にも影響されやすい可能性がある。

このような結果は、起伏の多いユーラシアの地形で狩りをしていたネアンデルタール人が槍に頼っていた理由を説明するかもしれない

Source and Image Credits: Michelle R. Bebber, Nam C. Kim, Simone Tripoli, Russell Quick, Briggs Buchanan, Robert S. Walker, Jonathan Paige, Jacob Baldino, Scott McKinny, Jaymes Taylor, Metin I. Eren, The gravity of Paleolithic hunting, Journal of Archaeological Science: Reports, Volume 59, 2024, 104785, ISSN 2352-409X, https://doi.org/10.1016/j.jasrep.2024.104785.

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