宇宙を漂う微弱な光「宇宙可視光背景放射」 “暗さ”の精密測定に成功、宇宙史の手がかりに?【研究紹介】

2024年9月10日

山下 裕毅

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米宇宙望遠鏡科学研究所やコロラド大学ボルダー校などに所属する研究者らが発表した論文「New Synoptic Observations of the Cosmic Optical Background with New Horizons」(プレスリリース)は、米航空宇宙局(NASA)の探査機「ニュー・ホライズンズ」を用いて、宇宙の奥深くに漂う微かな光「宇宙可視光背景放射」(COB: Cosmic Optical Background)の高精度な測定に成功したとする研究報告である。

▲各観測領域の位置を示した図

宇宙の誕生以来、無数の星を含む数兆の銀河が形成され、消滅してきた。その過程で、人間の目では捉えるのが困難なほど微かな光である宇宙可視光背景放射が残されている。「宇宙の夜天光」ともいえる現象だ。

宇宙可視光背景放射は極めて光が弱く、この研究のような精密な測定を地球から行うのは極めて困難である。その理由は、地球の周辺には微小な塵やデブリが多く存在し、太陽光がそれらに反射することで、宇宙可視光背景放射からの微弱な信号が大きな影響を受けてしてしまうからである。

研究内容

この研究における観測時点では、探査機ニュー・ホライズンズは地球から約55億マイル(約88億キロメートル)離れた場所(太陽系の外縁)にあり、太陽系の明るい部分からは十分に離れている。探査機は長距離偵察撮像装置(LORRI)を通して、宇宙の暗い領域合計24箇所を撮影した。

▲15の観測領域を示した画像

研究チームはこれらの画像から、銀河内の星や塵による光などを計算して取り除き、宇宙可視光背景放射の総量を導き出した。その結果は驚くほど暗いものだった。科学的な単位で表すと、この宇宙可視光背景放射は約11ナノワット/m²/srの強度であり、非常に弱い

この光は地球の表面に届く太陽光のおよそ1000億倍も暗く、人間の肉眼では見えないほどという。論文著者のMarc Postman氏によれば、その微弱さはたとえると「月のない夜に人里離れた場所で、1.6キロメートル以上離れた家の冷蔵庫の光が灯ったときの明るさ」。他にも、以下の表現を示した。

・地球の表面上で、最も暗い場所から見える、最も暗い夜空よりも、300倍も暗い。
・ハッブル宇宙望遠鏡が観測した最も暗い空よりも60倍暗い。
・夜空で最も明るい星であるシリウスの光を集め、その光を空全体に均等に広げたとすると、それは宇宙可視光背景放射と同程度になる。これは、シリウスの光の強度を5,350億分の1に減少させることに相当する。

この微かな光の正確な測定は、ビッグバン以降の宇宙の歴史を解明する上で重要な意味を持つ可能性がある。

Source and Image Credits: Marc Postman, Tod R. Lauer, Joel W. Parker, John R. Spencer, Harold A. Weaver, J. Michael Shull, S. Alan Stern, Pontus Brandt, Steven J. Conard, G. Randall Gladstone, Carey M. Lisse, Simon B. Porter, Kelsi N. Singer, and Anne. J. Verbiscer. New Synoptic Observations of the Cosmic Optical Background with New Horizons. The Astrophysical Journal, Volume 972, Number 1. DOI 10.3847/1538-4357/ad5ffc

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