2024年7月5日
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中国の上海人工知能研究所を中心とする研究チームが発表した論文「Achieving Energetic Superiority Through System-Level Quantum Circuit Simulation」は、古典コンピュータが量子コンピュータを計算能力と消費電力の効率で上回ったとの結果を示した研究報告である。
2019年、Googleは自社の量子プロセッサ「Sycamore」が、古典コンピュータでは1万年かかるとされる計算を僅か数百秒で行ったと発表した。
具体的には、Sycamoreは、100万の量子回路サンプルを200秒以内で、また300万の量子回路サンプルを600秒以内でそれぞれ生成。当時世界最高性能のスーパーコンピュータであるIBMの「Summit」では、同じ結果を得るのに1万年かかると主張した。この「量子超越性」の主張は、量子コンピュータが特定の問題で古典コンピュータを圧倒的に上回ると示すものだった。
しかし、古典的コンピュータの性能向上により、その差は急速に縮まっている。2022年には、512個のGPUを使用し約15時間で同様のタスクが完了したとの研究が報告されている。そして今回の、中国の研究チームが、わずか14.22秒でタスクを完了させるのに成功した。
研究チームは、2304個ものNVIDIA A100 GPUを搭載した高性能コンピュータを使用し、テンソルネットワーク法を基盤とすることで、561 PFLOPSのピーク性能を実現した。
さらに注目すべきは、このデバイスがSycamoreよりも少ないエネルギーで計算を行ったことだ。Sycamoreが600秒のケースにおいて4.3キロワット時(kWh)を消費したのに対し、新しいシステムは2.39 kWhで計算を完了させた。
研究チームは、エネルギー消費と速度のトレードオフを探るため、後処理アルゴリズムを導入することにより、0.29kWhという低エネルギー消費にてわずか17.18秒で完了させることにも成功した。これにより、計算能力とエネルギー効率の両面でGoogleの量子コンピュータを上回ったと宣言している。
Source and Image Credits: Rong Fu, Zhongling Su, Han-Sen Zhong, Xiti Zhao, Jianyang Zhang, Feng Pan, Pan Zhang, Xianhe Zhao, Ming-Cheng Chen, Chao-Yang Lu, Jian-Wei Pan, Zhiling Pei, Xingcheng Zhang, Wanli Ouyang. Achieving Energetic Superiority Through System-Level Quantum Circuit Simulation
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