小城久美子が薦める、事業サイドからプロダクトマネージャーになる人向けのPM本5選

2024年6月12日

プロダクトマネージャー

小城 久美子

プロダクトづくりの知見の体系化を試みるプロダクトマネージャー。書籍『プロダクトマネジメントのすべて』共著者であり、日本最大級のプロダクトづくりコミュニティ「プロダクト筋トレ」の主催者。

経歴は、ソフトウェアエンジニア、スクラムマスターなどの開発職を経験後、プロダクトマネージャーに転身し、現在は現場でのプロダクトマネジメントの傍ら、プロダクト戦略の構築や仮説検証の伴走を実施している。

書籍リスト
  1. 1. 『アジャイルなチームをつくる ふりかえりガイドブック 始め方・ふりかえりの型・手法・マインドセット』森一樹 著
  2. 2. 『アジャイルサムライ ー達人開発者への道』Jonathan Rasmusson 著、近藤修平・角掛拓未 訳、西村直人・角谷信太郎 監訳
  3. 3. 『プロダクトマネジメント ―ビルドトラップを避け顧客に価値を届ける』Melissa Perri 著、吉羽龍太郎 訳
  4. 4. 『ユーザーストーリーマッピング』Jeff Patton 著、長尾高弘 訳、川口恭伸 監修
  5. 5. 『質的データ分析法―原理・方法・実践』佐藤郁哉 著

私は「本を読んで頭でっかちになるよりも現場でたくさん失敗をした方が良い」と思います。一方で「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」とビスマルクは言いました。自分以外の失敗や他人から学ぶことで、視野を広く、引き出しの数を増やすことができるようになるのも事実です。人が人生でできる成功と失敗の数は限られているので、他者からも学んでみましょう。

プロダクトマネージャーキャリアの2段階構造

会社やプロダクトによって、「プロダクトマネージャー」の役割の定義は異なります。しかしながら、その役割は大きく2つのタイプに分けられます。ひとつは、プロダクトの未来図を描きそれに従って大きな舵を切るという、ロードマップに責任を持つ役割、そしてもうひとつは描かれたロードマップに従って、その時々に目指す状態へ向けてリサーチをし、機能を発想してリリースし、効果を見るという、PRD(Product Requirements Document/プロダクト要求仕様書)に責任を持つ役割です。

この2つの役割を1人が兼任している現場もありますし、POとPMのように役割をわけている現場もあります。最近は、PRDに責任を持つ役割からステップアップして、ロードマップに責任を持つキャリアラダーが一般的です。

開発サイドの知識を身につけるための技術書5選

ロードマップに責任を持つプロダクトマネージャーにも、開発期間を予測して現実的な線表を引くには開発知識が必要となりますが、PRDに責任を持つプロダクトマネージャーのほうがより開発サイドの知識が必要になります。

今回はPRDに責任を持つプロダクトマネージャーに向けて、おすすめの本をご紹介します。

1. 『アジャイルなチームをつくる ふりかえりガイドブック 』

▲『アジャイルなチームをつくる ふりかえりガイドブック 始め方・ふりかえりの型・手法・マインドセット』森一樹 著、翔泳社

プロダクトマネジメントにまつわるいろいろな手法論はありますが、私は一番大切なことは「ふりかえり」が機能するかだと考えています。自分の働きが良いのか、改善点があるのか、プロダクトマネージャーにそれを教えてくれるのはユーザーとチームです。

プロダクトマネージャーはチームに一人なので、どうしても孤独になりがちです。ひとりではなく、プロダクトチームとして仕事ができるようになるために、まずは「ふりかえり」を機能させることを目指しましょう

ときどき、ふりかえりは開発だけで実施しており、プロダクトマネージャーは参加をしていないというケースを聞きます。もちろん、開発は開発だけでふりかえりをするほうが濃度の高い議論ができることもあるでしょう。しかしながら、私は開発」のふりかえりではなく、「価値提案」のふりかえりが必要だと考えています。ただものをつくるのではなく、発想から提案までのプロセスやツール、コミュニケーションをふりかえる機会があると、よりチームとしての価値提案ができるようになるのではないでしょうか。

取り組みとしては、最初からスクラムのふりかえりのように定期的に実施するよりはPRD単位で実施するチームが多いように思います。こういったふりかえりには、エンジニアとプロダクトマネージャーだけではなく、CSや営業など他の関係者も巻き込んで実施すると相互理解のきっかけにもなります。

この『アジャイルなチームをつくる ふりかえりガイドブック』はイラストも豊富で大変読みやすく、これからふりかえりを導入する方におすすめです。

また、すでにふりかえりを実施していてマンネリ化しているチームには『アジャイルレトロスペクティブ』も複数の手法が掲載されているので別の視点からの実施に効果的です。

2. 『アジャイルサムライ−達人開発者への道』

▲『アジャイルサムライ−達人開発者への道』Jonathan Rasmusson (著), 西村 直人 (監訳), 角谷 信太郎 (監訳), 近藤 修平 (翻訳), 角掛 拓未 (翻訳)、オーム社

2011年の本なので少し古いのかもしれませんが、私は『アジャイルサムライ』が好きです。はじめてプロダクトマネージャーを務める方は、往々にして一人で抱え込んでしまい、チームを頼れなくなりがちですが、この本はチームで仮説検証をすることが前提になって書かれており、元気づけられる本です。

この本には「インセプションデッキ」というワークが紹介されています。この取り組みは、プロジェクトを開始するときにあらかじめ答えておくべき10個の答えづらい問いにチームで答えるというものです。PRDを書くひとつ手前に実施しておくと、チーム全員が同じ方向を向くことができるでしょう。これは、一人で書くのではなくチームみんなでプロダクトの方向性とおおよその全体像を言語化するというアプローチであり、全員が当事者意識を持ちやすいので私はとても気に入っています。

また、インセプションデッキの紹介のところで使われている「みんなをバスに乗せる」という表現を私はとても気に入っています。リーダーの仕事は、まずプロダクトの方向性を明らかにして、何が決まっていて何が決まっていないのかの共通認識を取って、みんなをバスに乗せることだと思います。

新しいチームを始めるなら、私は『アジャイルサムライ』を全員の課題図書として配って同じ方向を向いて始めたいです。

また、同じ著者による『ユニコーン企業のひみつ』という本も同様に読みやすく、チームでどのように同じ方向を向くのかについて書かれていて、大変勉強になりました。

3. 『プロダクトマネジメント ―ビルドトラップを避け顧客に価値を届ける』

▲『プロダクトマネジメント ―ビルドトラップを避け顧客に価値を届ける』Melissa Perri (著), 吉羽 龍太郎 (翻訳)、オライリージャパン

プロダクトマネージャーの必読書であるメリッサ・ペリさんの『プロダクトマネジメント ―ビルドトラップを避け顧客に価値を届ける』、通称『ビルドトラップ本』も何度も読み返したいです。PRDに責任をもつ働き方をしていると、遅延なくリリースすることがゴールだと間違って認識してしまうことがありますが、私たちはアウトプットではなくアウトカムに責任を持たなければいけません

私はエンジニアからプロダクトマネージャーになり、エンジニアから見えていた仕事だけがプロダクトマネージャーの仕事だと誤解したところから始まりました。そのため、プロダクトマネージャーとは要件を定義する人だとキャリアの1年目は誤解していました。

「プロダクトマネージャーの仕事はアウトプットではなくアウトカムである」という原則に気がついたことは私にとって、これまで自分が一生懸命していた仕事はなんだったのだろうか、私は開発チームに対して無駄なことをさせてしまっていたのではないかと思い悩む、大変胃の痛む経験でした。

できるだけ傷が浅いうちにこの原則に気付いてほしいので、私は「プロダクトマネージャーの仕事はチームを巻き込んでアウトプットすること」だと誤解している方に、この本を強くおすすめしたいです。

また、この本の秀逸なところは「ビルドトラップ」という鋭利な共通言語をチームにもたらすことです。どうしても日々の仕事に忙殺されればされるほど、目の前のアウトプットだけで手一杯になってしまい、本質を見失うことがあります。そういったときに「ビルドトラップでは?」のひとことでハッとすることができます。この本は、いつでも忙しくて本質を見失ったときに叱ってもらえる大変耳の痛い一冊です。今も、私はこの記事を書きながら仕事の仕方を改めようと思いました。

4. 『ユーザーストーリーマッピング』

▲『ユーザーストーリーマッピング』Jeff Patton (著), 川口 恭伸 (監修), 長尾 高弘 (翻訳)、オライリージャパン

今読み返しても、この本が2015年に出版されていることに驚きます。アウトカムのためにソフトウェアをつくること、そしてアウトプットではなくアウトカムのためにソフトウェアを形づくるための手法である「ユーザーストーリーマッピング」の具体的な手法について提案されています。しかしながら、これは「ユーザーストーリーマッピング」について書かれただけの本では決してなく、アウトカムを達成するために具体的に何をどうチームで検討すればよいかについて書かれた本です。フレームワークの解説書だと侮ってはなりません。

ユーザーストーリーマッピングは現在、日本でかなり有名になっていると思います。しかしながら、時々ただ機能群を並べてMVPという名前の下、最低限に削ぎ落としたアウトプットを合意するためのフレームワークとして使われている状況も観察しています。 

私がユーザーストーリーマッピングの一番好きなところは「すべての機能に対して誰のためなのか?」「どのユーザーをどんな状態にしたいのか?」という議論を前提にできるところです。もしユーザーストーリーマッピングを学ばずに作成しているなら、ぜひ新しい機能を作るときや一定機能が充足してきたときに、次の一手を見つけるために読んでみることをおすすめします。

また、ユーザーストーリーマッピングは物事を自分ごと化するためにも有効です。ジュニアなプロダクトマネージャーに「その機能はどうして必要ですか?」と聞くと「社長がやれといったので」といった回答が返ってきて、私は呆れてものが言えなくなることがあります。
最初は「社長がやれと言ったから」はじまったとしても、開発とコミュニケーションをとるタイミングでは、どんなユーザーのどんな成果を達成するために実施するのかを語れなければプロダクトマネージャー失格です。そのためにも、ユーザーストーリーに置き換えてその機能がなんのために必要なのかを考えてみましょう。

5. 『質的データ分析法―原理・方法・実践』

▲『質的データ分析法―原理・方法・実践』佐藤 郁哉 (著)、新曜社

最後に、この並びではちょっとカテゴリ違いにも思える本を紹介します。「社長がやれといったので」と答えなければいけない状況では、プロダクトマネージャー本人にとってその機能が必要な理由に腹落ちしていない状況でしょう。

私は経営と話が合わないとき、いつも頭の中に円柱を思い描きます。視座の高い人からみたらそれは円に見えるが、私レベルの横から見たときそれはただの四角形です。丸でも四角でもなく円柱であるときに話が噛み合わないので、コミュニケーションを諦めずに私は経営に現場から見るとそれは四角に見えるということを伝えなければならないと思っています。

プロダクトマネジメントにおいて、私が伝えなければいけないのはユーザーです。そしてこれは外資コンサルが出しているTAMの書かれた市場レポートには書かれていない生のユーザーの姿です。しかし、N=1の声は意思決定の場に持っていくにはあまりにも不確かで根拠が無いように思えます。

『質的データ分析法―原理・方法・実践』は定性的なユーザーの声をどのようにまとめて意思決定に使うとよいのかを学ぶことができる本です。プロダクトづくりに特化した本ではないので少し異文化に感じることもあるかもしれませんが、定性的な情報の扱い方の基本として知っておくと良いと思います。

以上の5冊が、私がPRDに責任をもつプロダクトマネージャーに推薦したい本です。この記事を書きながらこれまで自分を育ててくれた本を見返して、これらの本にあらためて励まされた思いです。本を読むというのはとても意識の高い行動のようですが、私にとっては背中を押されたり、日々の仕事で抱えている難しさを解決する糸口になったり、とてもあたたかい行動です。

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