TikTokを擁するバイトダンス。BtoC技術とBtoBに活かす次なる動きから目が離せない

2024年5月27日

中国アジアITライター

山谷 剛史

1976年生まれ、東京都出身。2002年より中国やアジア地域のITトレンドについて執筆。中国IT業界記事、中国流行記事、中国製品レビュー記事を主に執筆。著書に『中国のITは新型コロナウイルスにどのように反撃したのか?』(星海社新書)『中国のインターネット史 ワールドワイドウェブからの独立』(星海社新書)『新しい中国人 ネットで団結する若者たち』(ソフトバンククリエイティブ)など。

TikTokを生み出したバイトダンス(ByteDance/字節跳動)。TikTok自体は、中国向けと中国以外向けで見た目は同じでも完全に別物のアプリが提供されており、正確にいうと「TikTok」は海外向けで、中国向けは「抖音(ドウイン)」となる。そのためか、TikTokが出始めのころ、運営企業が中国企業だと思ってなかったという人も多くいただろう。

TikTokはご存知の通り、自分の好みへとカスタマイズされた動画を次々にスワイプして再生するというサービスで、ブログに対するミニブログにX(旧Twitter)があるように、動画サービスに対するショートムービーの定番アプリというポジションをつかみ取った。中国企業は何かと海外企業のサービスを真似てスタートするイメージが強いが、バイトダンスに関しては「ショートムービーといえばTikTok」という評価を世界的に得たと言っていいだろう。

既に国際展開しているアリババにしろテンセントにしろ、中国で製品力で力をつけてから海外に進出し、徐々に海外市場でローカライズしていく印象が強い。一方でバイトダンスは、最初から海外市場にも力を入れ、成功を収めた。その成功の屋台骨となる映像系AI技術に関しては、TikTokチームはもちろん、「西瓜視頻(Xigua Video)」やVRの「Pico」など、様々なチームを擁し、それぞれの製品に技術力のあるスタッフを多く抱えている。さらに、技術力だけでなく、世界市場においてコンシューマー向けネットサービスで成功体験をしているのも同社の強みだ。

これらの強みを武器に、バイトダンスは2019年に、兼ねてから社内向けに開発し使われてきた、ビデオミーティングをはじめ、チャットや文書共有やカレンダー機能のあるオンラインビジネス協業ツール「飛書」を市場向けにリリースし、海外向けには「Lark」としてリリースした。新型コロナウイルス感染拡大がはじまったタイミングで無料提供を始め、ゼロコロナに協力する姿勢を示しつつ、サービスの利用促進を目指した。LarkはTikTok同様、中国企業だとアピールせず展開し、動画処理技術を武器に一定の広がりをみせた。

Lark同様に、同社は培った動画処理技術を活用し、次の一手となるサービスを中国と海外市場で多数展開している。TikTok自体のECへの拡張、バイトプラスによるTikTokのテクノロジーのビジネス向けサービス、そして生成AIアプリによる模索だ。大きく3つにわかれる同社の取り組みを紹介する。

▲「Lark」アプリのインターフェイス

TikTokのEC拡張が中国で起こしていること

バイトダンスはTikTokにEC機能を付加した「TikTok Shop」を展開している。動画で商品を紹介し、紹介された商品をTikTok内で購入できるわけだ。中国向けでの抖音で利用できるほか、TikTokが扱う中国外においては、4月末時点でインドネシア・マレーシア・フィリピン・シンガポール・タイ・イギリス・アメリカ・ベトナムで利用できるという。「TikTok Shop」を手掛けるのは、2021年にバイトダンスグループより成立され、法人向けサービスを展開する「バイトプラス(BytePlus)」だ。バイトプラスも本社同様に、中国企業だと認知してもらうことには消極的だ。

TikTokのサイトによれば、「TikTok Shopは、TikTokでの販売とブランドの成長を促進するためのワンストップeコマースソリューションです。TikTok Shopを使用すると、販売者はインフィード動画、LIVE、ショーケースタブを通じて、TikTokで直接商品を販売できます。これにより、商品の発見・商品の詳細確認・注文・支払い後のアクティビティがすべてTikTokアプリ内で可能になります」と書いてある。これについて説明したい。

中国の消費者はECに強く依存していて、実店舗で商品を見ることなく、オンラインで商品を見て買うという習慣がある。特に抖音で顕著で、インフルエンサーが配信すると、販売する商品に限らず「着ている服やアイテムと同じものが欲しい」「使っている化粧品と同じものを使いたい」という気持ちになり、その場で買ってしまおうと考える消費者は多いという。これは検索して購入するアリババの天猫(Tmall)や淘宝(Taobao)にはない消費者の動きだ。アリババにとって、バイトダンスはECの脅威のひとつとなっていた。アリババもライブコマース「タオバオライブ」を導入しているが、抖音の牙城はそれほど切り崩せていない。

バイトダンスはいま、これと同じことを外国でも展開しようとしているわけだ。各国でサービスを追加するほか、各国で最適化すべく抖音のエンジニアを送り込んでいる。とはいえ各国でそれぞれ人気のECサイトが既にあり、消費習慣もできあがっている。またアメリカやインドネシアなど政府が禁止するケースもある。中国市場はEC市場でより存在感を示すだろうが、海外市場ではどうなるかは未知数だ。

▲「TikTok Shop」の実際の購買インターフェイス

バイトプラスによるtoB展開

バイトプラスはバイトダンスが培った技術力をWebサイトやアプリ活用するソリューションを展開していて、アメリカのファッションアプリ「Goat」、シンガポールの旅行予約サイト「WeGo」やシンガポール観光局、インドネシアのECサービス「Chilibeli」「Tokopedia」ほか、日本ではECサービスや求人サービスにも導入実績がある。

具体的には、TikTokで培ったレコメンド技術の活用があり、例えば導入実績のある求人サービスであれば、使えば使うほど各人にあった読み続けたくなるような求人内容が自動で表示される。ECサイトでも同様で、利用し続けたくなる情報が優先して表示される。それによってサービス滞留時間を増やし、ひいては利用率を向上させることができるというもの。

またTikTokで培ったARを活用したソリューションもある。アパレルショップでカメラをユーザー自身に向けて試着できる商品デジタル試着を提供するというものや、観光地のきまった地点でアプリのカメラをかざすことで、ARで様々な映像や割引チケットや簡易ゲームなどを表示可能にするというものがある。

TikTokの映像系技術に比例して、同社の映像系ソリューションの技術力も向上する。海外で導入実績は増えていて、今後の各国のECサイトやSNSサイトの「より長いユーザーにいてほしい」「試着サービスで他サイトに差をつけたい」というニーズがある限り成長していくだろう。

数々の生成AIアプリを展開

バイトダンスは、ChatGPT以降の生成AIブームに乗り、2023年からは新たにAI部門「flow」を設立し、中国国内だけでなく国外でAIアプリをリリースして人気となり、独特の立ち位置で存在感を出している。

短期間でAIビデオ編集アプリ「CapCut(剪映)」、AI対話アプリ「Cici(豆包)」、AI botを作成できる「Coze(扣子)」、AI生成ポータル「ChitChop(小悟空)」、ストーリーのAI作成ができる「BagelBell」 、AI数学回答サービス「Gauth」といったAIを活用したサービスをリリースしている。

数あるサービスのなかで、特に成功したのがAIビデオ編集アプリの「CapCut(剪映)」だ。昨年8月の時点で、世界中で4億9000万人がiOSとAndroidでCapCutを使用し(Data.ai調べ)、CapCutのアプリ内収益は1億米ドルを超える(Sensor Tower調べ)と言われている。ほかにも「Cici(豆包)」と「Coze(扣子)」が数千万レベルとなっている。「Gauth」は米英で人気だ。「ChitChop(小悟空)」と「BagelBell」はインドネシアやブラジルで局所的に数百万程度のダウンロード数がある程度で、今のところ世界的に爆発的に人気になっているわけではない。しかし何かのきっかけやアップデートで突然ブームになるかもしれない。

▲AIビデオ編集アプリ「CapCut(剪映)」

これらのサービスを簡単に紹介すると、

  • ・Cici(豆包)GPT-3モデルに基づいてトレーニングしたAI対話ツール
    ・Coze(扣子) 多数のプラグインが用意されていてコーディング経験不要で安定したAI Botを作成できる
    ・ChitChop(小悟空) 生成AIストア的な用途別に多数用意された文章や画像の生成ツール集
    ・BagelBell ストーリーをアップロードしてプロット描画スタイルを選択すると、プロットに必要なキャラクターやストーリーや章立てを生成してくれる
    ・Gauth 問題の写真を撮るか、手動で入力すると、段階的なアイデアと回答を提供してくれる

あえて競争を引き起こすプロダクト戦略

AI製品をいくつも出していることは、バイトダンスがAI製品を重視していることを裏付ける。また、同じジャンルの製品をいくつもローンチすることで競争を発生させるというのは中国でありがちだ。たとえばテンセントのWeChatとQQ、シャオミのMiシリーズとRed miシリーズ、旧ファーウェイのファーウェイブランドとHonorブランドは同一社内の製品でありながら、ライバル視し実質競争状態にあった。バイトダンスもいくつものAI製品を立ち上げることで、異なるチーム間で競争を発生させることで切磋琢磨をすることを期待しているそうだ。

バイトダンスは一時期力を入れたゲーム事業を切り捨ててAIに力を入れている。2022年には抖音にAIペイント機能を導入し、飛書にスマートパートナーなるデータ分析やコンテンツ制作サポートをまとめたAIツールを導入した。また上記のアプリをはじめ多数の製品開発に投資した。

バイドゥ、テンセント、ファーウェイも同様に生成AI関連製品を開発していて、各社が中国のクラウド市場で高いシェアを獲得している。各社のAIは、クライアント企業がAIを導入すればクラウドが儲かるが、バイトダンスはクラウドに弱いのでそうもいかない。したがって3社と似て非なるコンシューマー向けたAI製品をリリースせざるを得ない。AI時代に他社を異なる動きをするバイトダンスは中国のネット企業の動きらしからぬアクションを起こしていくので今後も目が離せない。

関連記事

人気記事

  • コピーしました

RSS
RSS