夫婦でワンチーム。予想外のトラブルも転職も密な「対話的コミュニケーション」で乗り切る

2024年2月28日

西谷圭介

国内SIerで金融系基幹システムの開発等に従事した後、クラウドサービスの開発ならびに新規事業立ち上げを経て2014年にアマゾンウェブサービスジャパン株式会社(現アマゾンウェブサービスジャパン合同会社)へ。国内企業のクラウドシステム設計支援を実施しつつ、日本におけるサーバーレス市場の創出と普及に尽力。プロトタイプ開発を行う部門の立ち上げに従事した後、2021年6月より現職。CTOとしてプロダクトを国内外に提供すべくすべてのレイヤで開発に従事している。フロントエンドが好きでインフラもそこそこわかるバックエンドエンジニア。
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これまでは、家庭を持つ、特に子どもがいる状況での生活の変化や仕事への影響、それに対してソフトウェアエンジニアの端くれとしてこの業界で生き残るためにどうしているかについて、私自身のやり方をいくつか紹介しました。

今回は少しテーマを変えて、家庭や子どもを持つエンジニアならではの家庭における役割分担、協力体制、いわば「夫婦のチームビルディング」についてお話します。加えて、独身時代とはまた異なる考慮が必要となる「転職」についてどう捉えているか、私の考えや実体験をお話していきます。

子育てには不確定要素が多い

偉そうな書き出しで始めたものの、私自身がすごく上手に「夫婦のチームビルディング」を行えているわけでは決してありません。ほかのご家庭の話を聞いて「すごいな、上手にやっているな」と思うことがしばしばあります。このあたりは、まさにエンジニアチームのマネジメントや組織論と同じかもしれません。ただ、仕事上のチームビルディングと大きく違うのは、「子育て」という大きな不確定要素があることだと思います。

つまり、子どもの年齢が低ければ低いほど、家庭におけるあらゆることが予定通りにいかなくなり、仕事にも影響してくることが多いです。

「それなら子どもつくらなければいいじゃん」という声も聞こえてきそうですが、それとこれとは話が別です。その議論は別の方に譲るとして、ここではそういった不確定要素をはらむ環境において、西谷家ではどのように物事を進めているか、進めるようにしているかについてその一端をご紹介します。

10歳と2歳の子どもがいる西谷家の役割分担

最初に前提として現在の我が家の環境について改めて書いておきます。まず、私は都内のスタートアップでCTOをしており、妻は自営業のような形で不定期に働いております。子どもは娘が2人で10歳(小4)と2歳です。妻の仕事は不定期であるため、下の娘の保育園は週2を軸に繁忙期などは増やしたりしています。また、妻の仕事は土日が多いです。

役割分担といえば家事と育児に関してですが、実は基本的には妻に頼っている形になります。私が定常的にやっているのは週に2回プラスアルファの次女の保育園への送り、週3回ある長女の塾の迎えくらいです。その他には毎日のゴミ出しと妻が仕事の時の子どもの面倒見くらいなので、あまり分担できていないのが実情です。分担内容の寡多はともかく、これを基本としつつ、イレギュラーなときにはお互いがカバーし合うという運用となっています。イレギュラーなときというのは、主に以下になります。

  1. 1. 親の体調不良
  2. 2. 子の体調不良
  3. 3. 自分の出張

その中で突発的なことが多く、仕事への影響が大きいのは2の「子の体調不良」でしょう。ちなみに3の「自分の出張」については、どちらかというと妻に一方的に迷惑をかけてしまっています。特に海外出張となると、1~2週間ほど妻が完全にワンオペになってしまいますので、負担は相当なものだと言えます。今はそれほど多くなくなりましたが、前職の頃は多い時は月に一度くらいはあったので、かなり迷惑をかけていました。

さて、子どもの体調不良と言うと、やはり保育園の登園時に発熱したり具合が悪くなるというのが多いかと思います。これに関しても、現状では妻のほうが融通が利きやすいこともあり、対応をお願いすることが多いです。もちろん私の現職も融通が利く方ではありますし、調整の上で対応可能なときは対応するのですが、自宅にいないことも多く、また社外の方との打ち合わせなどの場合はなかなか調整が難しい場合もあります。特に今はスタートアップ、しかもフルタイムで働く社員は数人という状況なので、代打をしてもらうことも難しいのです。これはスタートアップへの転職における想定外ではありました。

時として予想外のトラブルも起きる

実際にこれまでにも、何度か危機的な状況に陥りました。危機的な状況というのは、1と2の親と子の体調不良が同時に来ることです。最近であれば、昨年末にインフルエンザで家族全員がダウンしました。一昨年には妻が新型コロナウィルスに感染していて、その頃は新型コロナウィルスに感染すると、同居家族全員が濃厚接触者ということで外出が制限されるという状況でしたので、なかなか大変でした。

私の仕事はリモートでなんとかなるとして、長女は学校を休む必要がありましたし、次女に至ってはまだ6ヶ月くらいでしたので、かなりお世話が必要な状況です。当時すでに保育園に通っていたのですが、濃厚接触者ということで保育園にも行けず家で面倒を見ねばなりませんでした。当然のことながら、妻は自宅内で隔離する必要があり、まさに危機的状況でした。周りに多少の迷惑をかけつつもなんとか乗り切れたのはリモートワークであったことと、長女が頑張ってくれたからにほかなりません。このときは買い物にも行けないため、ネットスーパーを活用しつつ家で仕事をしながら3食を用意する必要もありました。ですので、ミーティングなどの他者との仕事以外はできるだけ夜から夜中にかけてこなすようにしていました。

なお、自分は妻が感染する前に海外出張からの帰国時に感染しています。当時、入国時の隔離期間中に発症したため、そのまま強制的にホテルで10日間療養することになり、ワンオペ期間が1ヶ月近くなってしまい妻に非常に迷惑をかけてしまいました。しかし、このときは出張帰りでそのままホテル隔離されたため、家族と接触しなかったことから家族の行動が制限されずに済んだのは不幸中の幸いと言えます。

こう書いてみると、妻に頼りきりというのがよくわかりますね。もう少しちゃんとしなければという気持ちになってきました。

「夫婦」というチームで必要なコミュニケーション

これはチームづくりでも同様に言えます。チーム内でお互い助けあってタスクに対応することはよくあることだと思いますが、それで特定の人に負担が集中すると問題になります。こうした状態が続くと、その人に不満がたまり最悪のケース退職に繋がってしまいます。チームだと夫婦よりもう少し人数が多いのでバックアップ体制を敷きやすいのですが、家庭ではそうはうまく行かないことも多いと思います。

我が家の場合、お互いの両親に頼ることもできない状況なので、前記の通り、どうしても妻に負担がかかりがちです。これはまずいですね。せめてもの罪滅ぼしとして、妻がプライベートな予定を夜や土日に入れたい時は快く送り出すようにはしていますが、改善が必要な状況であるのは否めません。

そして、チームといえば合意形成です。夫婦というチームももちろん、合意形成が必要な状況が多々あります特に子育てに関しては意見の相違はよくあります。

チームで何らかの問題や方針について意思決定し、合意形成する場合、対象となる問題の整理とその背景、前提事項やメリット・デメリットを整理しつつ、意見をまとめ上げていくことになります。そして、その際に重要なのは、各人の考えを表に出してもらうためのコミュニケーションだと考えており、これはまさに家庭でも同じことがいえるのではないでしょうか。

お互いの育ってきたバックグラウンドが異なって考え方も違います。意見の相違が起きたときに、まずは前提事項の整理と認識合わせ、そして目線合わせです。自分がそう思うに至った背景を説明し、理解を得る。そして、当たり前のように聞こえるかもしれませんが、相手の意見を尊重するということです。尊重した上で同意もしくは反対という意見を述べるようにしています。大体ここがうまくいっていないと、議論が噛み合わず感情的なやり取りを繰り返すことになってしまいます。と、偉そうなことを言っていますが、感情的になってしまうこともしばしばあるので未熟だなと思うことも多いです。難しいですね。

常日頃から仕事やキャリアに対する考えを配偶者に伝える

さて、今回はもう一つ「転職」についてもお話したいと思います。この転職に対する向き合い方も、独身時代と家庭を持ってからでは大きく違っています。独身なら、当然ながら自分1人で結論を出せますし、守るものがあるわけではないので、仮に失敗したとしても自分だけが耐えるなり、また新しい職場を探すなりすればいいだけです。

一方で家族がいると、独身時代ほどフットワーク軽く動ける人は少ないと思います。特に共働きではなく配偶者の方が専業主婦/主夫の場合、収入源が単一になります。そうすると、転職に伴うリスク、例えば実際の働き方が選考時に聞いていたのと違ったり、新しい会社のカルチャーやメンバーに馴染めなかったり、といったリスクをなるだけ取りたくないという意識が働きます。本人はよくとも、特に子どもがいるご家庭の場合、生活を共にする配偶者の方が不安に思うことも大いにあり得ますそのため、妻が夫の転職に反対する、俗に言う「嫁ブロック」にあうといったこともよく聞きます。

私の場合がどうだったかというと、過去2回の転職で妻からの反対はありませんでした。まず、前提として私の職歴としては短い期間で転職を繰り返しているわけではありませんし、幸か不幸か一般的な転職活動を経ての転職をしていません。仕事のない期間が発生しなかったこともあって、辞める前に妻にはがっつり相談しませんでした。とはいえ、さすがにある程度、話が具体化してきたタイミングでは妻にも伝えていますが、その時点で反対されることもありませんでした。これはもともと具体的な話が発生する以前から仕事やキャリアに対する自分の考え方、スタンスについて妻にはよく伝えていたというのが、理解してもらえた理由のひとつなのではないかと考えています。

最初の転職は長女がまだ0歳の頃で、妻は休職中でした。この転職は日本企業から外資系企業への転職でした。給与面も大幅にあがる内容だったことから、私自身も妻もあまり不安に思うような部分はなかったというのが実態かと思います。しかも、私自身が入社する組織は日本法人が数十名と、まだまだこれからといったような組織規模ではあったものの、親会社のグローバル全体としてはすでに大規模な会社となっていました。そして妻も知っている会社であったというのも、安心材料のひとつだったのではないかなと思います。私自身も外資系ということで、それまでの自分自身がどれだけ通用するかわからないといった不安はあったものの、それはどちらかというとスキル面での不安要素であり、生活面での不安要素はなかったと言えます。

2回目の転職は最初の時とは状況が少し異なります。まず、この転職の話が出たタイミングは、2人目の子どもが妻のお腹の中にいたタイミングでした。そして当時は大手の外資企業からまだ社長1人だけのスタートアップへの転職だったということです。これはつまり給与面も会社規模の面でもこれまでと大きく異なります。そもそも役員としてジョインするので、それまでのような従業員ではなくなり、労働基準法などの法律に守られることもなくなります。これの意味するところは、法人の役員は労働者ではないため、基本的に雇用保険の被保険者にならないということです。つまり、役員に就任した段階で、その会社を離職した際の失業手当や育児や介護による休業時の給付金が支給されないのです。

そういった法律面・制度面のリスクに加えて、そもそもスタートアップへの転職は一般的にリスクが大きいと言えます。スタートアップとひとことで言っても、ステージの違いによりその様相はだいぶ異なりますが、現職のようなところは会社としての安定さとはまったく無縁と言えます。もちろん、そういったステージのスタートアップだからこその良さもたくさんありますし、そうした部分に魅力を感じて誘いに応じたというのは言うまでもありません。

さらに給与面でも大きなビハインドがありました。具体的な額はここでは言えないですが、給与が大きく下がったことは事実です。これは人によって意見は異なると思いますが、このステージのスタートアップの場合に役員の給与を高く設定することはあまり望ましくないと思っています。役員の給与を高くするくらいならば、エンジニアの1人でも雇ったほうがいいという考えもあります。いずれにせよ、前職が多めだったこともありますが大幅ダウンとなったことは事実です。

そうした条件下でのチャレンジに対しても、妻が背中を押してくれたことはとても感謝しています。まず、給料が大幅に下がるために、それまでの生活を見直して支出を押さえることにはしました。当然ながら私自身のお金の使い方も改めました。それまでは服やアクセサリー、ガジェットなど、気になったものは何でも気にせずに購入していましたがそういったことはやめました。当たり前といえば当たり前の話なのですが。また、それまでに蓄財した資産状況を踏まえて、何かあったとして経済的にどのくらいは問題がないのかを試算しました。加えて、自宅や自家用車を購入済みであったことも好材料のひとつでした。特に自宅については以前ほどではなくなったとは聞きますが、小規模事業者に在籍していると住宅ローンの審査が下りないということもあります。すでに購入済みだったことで、そういった心配がなかったのは良かったです。

キャリアや職業観について配偶者とよくコミュニケーションする

では、なぜスタートアップに移ったのかというと、これまでの自身のキャリアを振り返ったときにエンジニアとしてマネージャとIC(Individual Contributor)の経験はそれぞれ複数回あるものの、経営観点の経験がないことがこの先の社会人人生を歩んでいくうえでの弱みだと常々考えていました。また、転職するにしても、1メンバーとしての転職ではなく、事業責任者といった立場での転職を望んでいました。そういったことをぼんやり考えつつ、日々を過ごしていた状態といえます。そんなときに、現職での今のポジションでお誘いをいただけたので、少し悩みはしたもののお受けすることにしたのです。

私自身では現職での活動期間は、まだまだ続くであろう社会人人生のための投資期間だと考えています。そして、本当にどうしようもなくなったらそのときはまたどこかの外資系企業なりに転職すればいいとも思っています。妻にも同様の話をしました。なぜ今このタイミングで移ろうと思うのか、どういうリスクがあってそれにはどのように対応しようとしているのかといった話を伝えました。結果的に妻からは大きな反対はなく、そう思うならやればいいと言われました。

このあたりについては正直なところ賛否両論だと思います。もしかしたら否定的な意見のほうが多いかもしれませんが、常々妻は私のチャレンジを応援してくれることが多いです。

私の転職事情はあまり参考にならないかもしれません。ただし、お伝えしたいこととして、常日頃から自分のキャリアや職業観について配偶者の方とよくコミュニケーションしておくほうがいいと考えています。

今回は家庭、特に妻との間における役割分担や、転職事情について私のケースをお話しさせていただきました。特に転職の話に関しては字数の関係などでここではすべてを伝えきれませんので、興味がある、もしくはもう少し具体的かつ生々しい話を聞きたいなどがあればXのDMなどでお気軽にお声がけいただければと思います。

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