2022年1月6日
大平 かづみ
フリーランスエンジニア。Microsoft MVP for Microsoft Azureアワード5年継続受賞。仕事では、Microsoft Azureを用いた開発、GitHub/GitHub Enterpriseを利用した開発支援を担当。DevOpsやInfrastructure as Code周りが得意。
千代田 まどか
Microsoft で Developer Relations をしている。IT エンジニア兼漫画家。女性 IT エンジニアコミュニティ Code Polaris オーガナイザー。Twitter @chomado ではフォロワーが 8.5 万人を超える。
IT業界において、いまはまだマイノリティである女性エンジニア。周りに男女比に偏りがある状況がゆえに、バリアを張って自己防衛するしかなく、防衛自体に力を削がれている人も少なくありません。11月17日に開催された「Women Developers Summit」セッションで、女性エンジニアコミュニティ「Code Polaris」を運営する大平かづみさん、千代田まどかさんが語った「バリアを開放できる場を提供したら、本領を発揮できた話」をお届けします。
大平かづみ(以下、大平):まずお伝えしたいのは、今あらゆる人が自衛をせざるを得ない環境に置かれ、バリアを張って生きているということ。自衛せざるを得ない状況とは、例えば「職場の男女差が大きく、相談できる人がいない」「周りが古参ばかりで自分だけ若い」「年齢は高いけど、ここでは新参者」などですね。
それは職場だけではなく、容姿や服装、出身地・子育て・家庭とのバランスなど、人によって要因はいろいろあります。こうした周りと異なる状況にいるがために、自己防衛に力を削がれ、チャンスを逃しているという問題に切り込んでいきたいと思います。
千代田まどか(以下、ちょまど):現在の状況を変えたい人、今はそんなに辛くないけど、もっとパワーを発揮したい人。家族や友だちなど、周りに助けたい人がいるのに、どうしたらいいかわからないと悩んでいる人たちの声や想いをお届けしていきます。
様々な方々が、様々な状況で、色んな悩みを抱えています。
大平:例えば、男女の人数に差がある職場の場合、本当はやりにくいと思っているけど、当たり障りのない会話をしたり、服装や化粧を目立たないようしたりして頑張るとか。あとよくあるのは、コミュニケーションしている相手に恋愛感情があると勘違いされてしまうパターンですね。
ちょまど:これは実際に友達から聞いた話なんですけど、彼女は仕事で相談したいことがあって、カフェで待ち合わせしたら、向こうはデートのつもり満々だったということがあるようです。
大平:相手に勘違いされないように距離を置く、というのも一つのバリアですね。家庭の事情や体調の不良などの事情でフルタイムの仕事ができないなど、稼働時間が割かれてしまうのもバリアだと考えています。
大平:一方で、自分を守るために張ったはずのバリアが、いつの間にか重荷になってしまったことに、気づいている人も多いのではないでしょうか。自分の好みじゃない服を着るぐらいの小さい出来事でも、出費が嵩んだり、モチベーションが保てなかったりする。
これは女性に限定した話になりますが、毎月来る生理。人によって差はあるけどイライラしたり、集中力が落ちたり、頭痛がするなど、身体的・心理的に不安定な状態になってしまいます。でも、自分で頑張るしかないと、抱え込んでしまっているパターンがいろいろあると思います。
ちょまど:Twitterに今、コミュニケーションに対するバリアを感じるというコメントをいただきました。社会性フィルターが積み重なった結果、枷になっていると。誰も傷つけないように頑張った結果もう「にゃ~ん」しかツイートできなくなってしまったらしいです。
大平:バリアで労力を削がれる上に、機会が損失されるのは二重に良くないですね。距離を置いているから仲良くなりづらいし、相談しにくい。仕事面では就きたかったプロジェクトに参加できない、昇格できないなど、支障が出てしまうケースも少なくありません。
ちょまど:私は綺麗目カジュアルな服が好きなんですが、2016年頃かな、IT 勉強会やイベントにスカートで登壇したら、エンジニアらしくないって言われてしまってビックリしたことがあります。技術Tシャツにジーパン、という暗黙のドレスコードがある、とのことで。自分らしさを表現しにくいと感じたことがあります。
大平:本当そうなんですよね。では、この自衛する必要がないとしたらどうなるか。そこに目を向けてみましょう。自衛に使っていた力をやりたいことに充て、フルパワーで取り組むためには、やはり「自衛しなくても安心できる場」が必要です。
その条件を探っていくと、まずその場にいるメンバーが同じ属性であることが挙げられます。例えば、日本人なら日本人同士、同性同士、同じ年代、同じ出身など。同じ属性で固めれば、属性の違いによるトラブルは起こりにくいと思います。
でも、現実には難しい。みんなそれぞれ違う立場で、違う属性であるということはもう明らかですよね。そこでやるべきことは、まず「属性が違う」ことに気づくこと。ただ、マジョリティ側から「こうしよう」と提案すると圧力になるし、マイノリティ側からやろうとするその垣根が大きいという問題があるので、一緒にやることが大事です。
属性が違うからこそ楽しめる。いいチームワークができる。ここに着目していくと、どんどん場をつくっていけると思っています。
ただし、マジョリティ側に気をつけていただきたいのでは、むやみに踏み込むことはしない、相手が言いたくないことを無理に言わせるようなことはしないこと。繰り返しになりますが、一方的に行うのは、圧力になってしまうので、むしろ相手の自衛が強化されてしまう。
そしてマイノリティの側も、自衛のバリアを超えて伝えてみるという努力をしないと届かない面もある。ここ結構難しいし、怖いかもしれないけど、一緒に考えることが重要ですね。
ちょまど:私は以前、「大平さんと一緒に女性 IT エンジニアコミュニティやりたい」と職場の男性の方に相談したことがあります。彼は驚いたような顔をして、「たしかに、今まで一度も気にしたことなかったけど、言われてみれば男性ばかりだね、エンジニアって」と。女性 IT エンジニアがいないことが当たり前のことすぎて気づかなかったんです。マジョリティ側は別に悪気があるわけじゃなく、本当に気づいてないだけなんだと思いました。
大平:実際には、お互いに歩み寄る気持ちがないパターンもありますよね。その場合は、環境を変えることも視野に入れてもいいと思う。環境を変えるのも大変だけれども、自衛のためにパワーを割く必要がなくなれば、皆さんの持ち前の能力を本領発揮できる場になるはずです。
ちょまど:安心が大事。安心の土台の心理的安全性を確保した上で、みんなが枷を感じずにのびのびで活躍できたらいい。だから、気兼ねなく技術をやれる環境をつくりたいって、考えたんですよね。
大平:ライフステージが変化すれば状況も変わるし、今の属性やそれぞれ苦しむ場所も変わっていく。誰もがマイノリティであり、どこかのコミュニティでマジョリティにもなりうる。自分ごとに捉えながら、みんながパワーを発揮できるようにしていきたいと、日々考えています。
そう考えるようになった理由の一つに、私たちが立ち上げた女性エンジニアを応援するコミュニティ「Code Polaris」で、見えてきたことがあったからです。Code Polarisと他のコミュニティとの一番の違いは、女性が安心して学べる技術コミュニティだということがポイント。
私自身は、女性だけで集まって云々というのはあまり好きじゃなかったんです。しかし、IT業界において男性が多くて女性が少ないという状況の中、まず同じ属性で集めて女性の力を強くしないと、問題解決できないと考えました。同じ属性であれば、バリアを張る必要がないというところに着目したんです。
コミュニティでは、基本的に技術のことを中心にみんなで情報交換をしています。ただ集まっていると仕事の話や家庭の話も出てきたりして、話題が自然に広がっていきます。今後はもっと本格的にコードを書いたりすることにも注力していきたいと思っています。
これまで助けてもらう側だった人が、ステップアップして助けられる側になったときに、輝く北極星になれるわけですよ。Polarisの名前には、「もがいて頑張って次のステップに行きたい」「何かを変えたい」人たちの目印になりたい、という願いを込めました。
ちょまど:私がCode Polarisの発足に参加した動機は、自分の経験と大きく関わっています。
私は女子高、女子大からITエンジニア界に入ったので、急に男女比が逆転したんですね。男女比0:10が急に9:1くらいになって。そのときに強い戸惑いを感じていました。仕事でいろいろなITカンファレンスや勉強会に行くけど、登壇者も参加者もほとんど男性ばかりで。男性がどうのこうのではなく、単純に男女比が偏りすぎて居心地悪かったです。
具体的に言うと、コロナ前のIT勉強会で、120人の参加者で満室の物理部屋に、女性が私含めて3人だけ、というのもありました。参加者の皆さまはとても親切で優しい方々でした。ただ、部屋に自分以外ほぼ全員異性というのは、やはり疎外感というか、居心地の悪さを感じました。
私と同じ気持ちの人はいっぱいいるだろうし、女性エンジニアが集まれる場をつくれば、少しでも問題解決につながるんじゃないかと思いました。
ちょまど:最終的にそれは社会全体を良くすることにもつながると考えています。具体的には、IT業界の生産性を上げる一助として、女性 IT エンジニアをもっと増やしたい。少子高齢化で労働人口が減っているけど、2016年調査では女性の生産年齢人口の就業率は66%なんです。(出典:『第1節 働く女性の活躍の現状と課題 | 内閣府男女共同参画局 (gender.go.jp)』) そのポテンシャルを活かして、女性エンジニアが増えるのがいいのではないかと考えています。
アプリ開発者などは頭脳労働であり、男女の身体的な体力差などは関係ないので、理想としては男女比半々くらいになるまで女性人口が増えればいいなと思っています。
真面目に考えていること投下!
IT エンジニアに女性を増やしたいって
65535 年前からずっと思ってて明日の女性エンジニアカンファレンスで使うために
2 年前に書いた資料を引っ張り出してきた!女子高女子大からの IT エンジニアで
男女比が反転して以来
ずっとこういうこと考えてる#DevSumi pic.twitter.com/K3hCBCbJcA— ちょまど🎀💻エンジニア兼漫画家 (@chomado) November 16, 2021
そのためには、女性エンジニアのロールモデルを育成したり、男女比がまともになるまで女性エンジニアの居場所確保があったらいいなと思いました。また、女性側の配慮だけではなく、たとえば男性の育休が取りやすい環境やカルチャー作りも必要だと思っています。
私にできることは何なのかと考えたときに、まずは「女性でITエンジニア」のロールモデルとしてビジビリティを上げようとしました。女性エンジニアのロールモデル少ない問題をなんとかしようと。しかし同時に、個人でやるには限界があるとも感じました。だから女性エンジニアの居場所として、女性コミュニティをつくろうと。そこで、私が身近で一番尊敬できるエンジニアである大平さんに声をかけました。
大平:その時ちょうど私ともう一人のオーガナイザーである後川菜穂子さんも、女性エンジニアのコミュニティをつくろうとしていたところにちょまどさんが加わって、動きが加速。翌々週にはミートアップやっていました(笑)。
大平:以下では、Code Polarisの参加メンバーからの声も紹介したいと思います。
年齢は制限してないので、学生もベテランもいろんな方がいます。みんなに悩みがあるということがわかることも、すごく大事ですね。
いろいろな情報をCode Polarisというプラットフォームで得られるというのも大事なことですが、自分が受けるだけじゃなくて、誰かに何かをしようと言ってくれた人もいます。そう思えるってことは余裕ができたんですね。
「自分で答えられることがあれば答えたい、反応したい」
「様々な情報が一つのプラットフォームで得られる」
ほかにも、「緊急性が高い相談ができた」「思考が負のループに陥っていたことに気づけた」「社内に女性がいないことで学んでいたことも相談できてよかった」「次の仕事に繋がった」「他の人の活動を見て刺激になる」「プレゼンの方法を学ぶことができた」など、嬉しいコメントがたくさんありますね。
「子育ての話ができて新鮮だった」というコメントもありました。子育てチャンネルというチャンネルもつくっているので、同じことに悩んでいる人に対策を教えるなど、未来に備えて知っておきたいという人にも役立っているようです。
「背中で語れるエンジニアになりたい」とか、かっこいい言葉もあります。「自分で勉強会を開きたい」と、次のステップに進もうとしている人も多いですね。
私たちは数カ月に1回の勉強会とSlackの運営くらいしかやっていなくて、メンバーの皆さんが自発的に活動しています。例えば、クリーンアーキテクチャの輪読会を開催したり、CS50xを受講したり、ISUCONにチームで参加するなど。Code Polarisが提供したのは場だけなのです。
そしてわかったことは、場があれば人は本領を発揮できる。属性が一緒で安心していられる場を提供したら、誰かに何か指図されているわけでもなく、やりたいことを自由に楽しくやっている。みんなのフルパワーを発動できたのです。可能性は無限大、あなたの本領も発揮させましょう!
本セッションの資料はこちらから
文:馬場 美由紀
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