2024年1月10日
国内SIerで金融系基幹システムの開発等に従事した後、クラウドサービスの開発ならびに新規事業立ち上げを経て2014年にアマゾンウェブサービスジャパン株式会社(現アマゾンウェブサービスジャパン合同会社)へ。国内企業のクラウドシステム設計支援を実施しつつ、日本におけるサーバーレス市場の創出と普及に尽力。プロトタイプ開発を行う部門の立ち上げに従事した後、2021年6月より現職。CTOとしてプロダクトを国内外に提供すべくすべてのレイヤで開発に従事している。フロントエンドが好きでインフラもそこそこわかるバックエンドエンジニア。
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第1回「西谷圭介が振り返る、育休なしで乗り切った娘2人の誕生と仕事の両立」では、子どもができる前後の生活の変化や仕事への影響などについてお話しました。子どもが生まれたことで時間の使い方や過ごし方を変える必要があり、その中で「エンジニアとしての技術キャッチアップのための時間確保をどうするか」が課題になったのです。今回はこの勉強時間の確保について掘り下げてみます。
前回の最後でも述べましたが、私自身のスタンスとしてはITエンジニアとしての自身のキャリアを成長させていくという観点では継続的な勉強・キャッチアップが必要だという考えです。これはやはりITやソフトウェアの世界は常に変わり続けており、多かれ少なかれその時々の技術トレンドというものが移り変わっていくからです。もしかすると他の業界でも同様なのかもしれませんし、その場合、この悩みはITエンジニアに限らず社会人共通の悩みとも言えるのかもしれません。
こういう話をすると、中にはそれを勉強とは思っていない、趣味の範囲でやっているという人もいるでしょう。人によってはITエンジニアたるものそうであるべきという人もいるかも知れません。しかし、残念ながら私はそうではないのです。ですので、根本的にはITに関するトピックは好きではあるものの、感覚的には必要に迫られてやっている、必要なのでやっているというのに近いかもしれません。私と同じような方はいっぱいいると思います。いなかったら逆に辛いです(笑)
ひとことで勉強・キャッチアップといっても大きく2種類に分けられると考えています。ひとつは現在担当している業務などで必要となるものを学ぶケース、もうひとつが現時点の業務では、必ずしも必要とはされていないが今後のキャリアアップや自分自身の成長のために新しい技術を学ぶケースです。前者については業務に直接的に関係がある内容を学ぶことになります。そのため、研修への参加などもあると思いますし、恵まれた環境であれば業務時間内にある程度のことは許されていることも多いと思います。一方で後者については多くの場合、業務時間内に行うことは難しいでしょう。そうすると業務時間外、つまりプライベートな時間で行っていく必要があります。これが、子どもができることでどう時間を確保していけばよいのか悩むことが増える点だと思っています。子どものことも仕事のこともどちらも向き合いたいからこそ出てくる悩みかもしれません。
さて、具体的に私がどうしているかについてお話をしていきたいと思います。実はこれまでそういった話はあまりしたことがないですし、これからお話することはあくまでも我流です。これが正解だとかベストな方法だと言うつもりはないので、あくまでも一例として捉えていただけると嬉しいです。皆さんがどうやっているのかも聞いてみたいと思っています。
さて、私の場合、現在業務として開発中のプロダクトに活かせそうなことも常日頃ウォッチしていますし、興味のある新しい技術要素についてウォッチし、適宜まとまった時間をとって取り組む場合のどちらもあります。
また、キャッチアップや勉強の仕方にもいろいろなパターンがあります。私自身は書籍やネットを参考にした学び以外に、各種勉強会やミートアップ、カンファレンスに参加するというものもあります。さらには勉強用に何らかのプロダクトを個人開発するというのもあるでしょう。
まず、子どもが生まれてから現在まで、基本的に決めていることがあります。それは「土日祝日の勉強会やカンファレンスには業務以外では行かない」ということです。ここでいう業務というのは、つまり何らかの理由で仕事として登壇する必要がある場合や、自社が開催するカンファレンスなどの運営をする場合です。逆に言うと参加者として行くことはほぼないですし、CfP(Call for Proposals)などセッション公募がされていたとしても、開催日が土日祝日のものであれば応募することはありません。参加者として行くことがあるのは、基本的に妻や子どもたちが友達と遊ぶなどの理由で不在となるときくらいです。
これは妻と話し合った結果、こういう形になっているわけではなく、賛否あるかもしれません。ですが、やはり一生における可処分時間の中で子どもたちと過ごせる時期は限りがあります。家族と過ごす時間と勉強を両立するためにこうしています。また、我が家の場合、土日は妻が仕事になるケースもままあります。その際には、子ども2人の世話を私がする必要もあるからです。なお、これらは勉強やキャッチアップという文脈だけではなく、家事や育児などその他も含めてです。
つまり、基本的に土日祝日は自分だけの予定は入れません。自分だけが参加するような飲み会に行くことも、土日祝日には基本的にありません。
もちろん、独身時代や子どもが生まれる前は何も気にせずに、土日祝日のイベントにも足を運んでいました。ですので、ここが独身時代と一番大きく異なるところと言えるかもしれません。
一方で、平日に関しては会食や飲み会といった予定がない場合は、22時くらいまでは家族と過ごしていることが多いです。したがって平日に自分のための時間を使う場合は22時以降となります。ただし、この時間帯に関しては仕事をしていることも多く、勉強会への参加はともかく、会食や飲み会があったりすることもあるので思ったように時間を確保できているとは言い難いのが実情です。
なかなかまとまった時間を取れていないため、勉強といっても実際には、自分の手を動かすところまで至れないというのもあります。特に新しい言語やフレームワーク、ライブラリなどは、本来であればじっくり触る時間を確保したいところですがなかなかそうはいきません。
その代わりに脳内インデックスに溜め続けるということを意識しています。これは実際に手を動かすまではいかなくても、こういうときに「こういうものがある」という引き出しだけは常にアップデートしておこうという考え方です。実際には業務などで必要になった際に、その時点で業務時間内も使って詳細に比較検討した後に取り組むことになります。
この「脳内インデックスにどれだけ溜められるか」というのを個人的には重視しています。ここで大事になってくるのが、隙間時間の有効活用です。具体的には、移動中やちょっとした待ち時間など細切れの時間で各種情報をザッピングするというのを日々繰り返しています。効率よく情報収集をするため、いくつかの技術系ニュースサイトに加えてX(旧:Twitter)をウォッチしています。
特定の技術ブログをウォッチするということはほとんどありません。また、QiitaやZennなどの技術情報が広く集まるサイトを、常にウォッチすることもないです。常にウォッチしない理由は対象範囲が広くなりすぎる、もしくは深くなり過ぎるからです。ここでの目的は脳内インデックスの拡充だからです。ただ、Qiitaについては時折メールで送られてくる「先週いいねが多かった投稿ベスト20」から興味を引いたものだけを読むことはあります。基本的にはニュースサイトとX中心です。ニュースサイトはおもに、はてなブックマークのテクノロジーカテゴリとTechFeedを見ています。あとは海外のサービスになるのですが、daily.devでキュレーションされた情報をChromeの新規タブを開く際に表示するようにしています。daily.devについては、どなたかがPodcastか何かで紹介していたのを聞いて使い始めました。
Xについては流れている投稿を眺めて、他の人がシェアしているブログだったり、感想を述べていることについて興味があったものについてのみ自分でももう一度調べるという程度です。
これらを移動時間や休憩時間などの隙間時間にやっているので、見るのは基本的にスマートフォンです。この小型デバイスがなければ今の僕のスタイルは実現不可だったと思います。
特定の内容を深掘りをするときには、Web上の公式ドキュメントや解説記事といった情報を参照することも多いですが、全体感を掴むために書籍に頼ることも多いです。また、書籍については技術書だけでなくビジネス書なども読み漁っています。読書をする上で悩ましいのが紙媒体で購入するか、電子書籍を購入するかではないでしょうか。
私は電子書籍一択です。その理由は電子書籍の場合、デバイスを持ち歩いてさえいれば読めるときに読む、読みたいときに読むということが可能だからです。また、外出先で急に所有している書籍を参照したいときってありませんか?そういうときにも電子書籍の場合だとデバイスさえあればいつでも参照できます。私は読書用のデバイスとしてiPadminiを愛用していますが、電子書籍の場合は複数のデバイスから利用可能なことも多いので、iPadを家に忘れて外出しても最悪スマートフォンさえあれば参照できるのも利点です。
また、私の場合は主にAmazonのKindleかオライリーのeBookで購入することが多いのですが、Kindleの場合はセールを結構な頻度でやっています。すぐには読まないけれど、将来読んだり参照したい本はセールのタイミングで購入しておく、なんてこともよくやっています。一方で、電子書籍の最大のデメリットは一覧性に欠けるところだと思っています。パラパラとめくって必要な情報にさっとアクセスするといった体験は、電子書籍では得られないものです。
そして隙間時間の活用という意味では音声も活用しています。具体的には朝にランニングを行う際(前回の記事参照)に、Podcastやオーディオブックを活用しています。Podcastは以下のようなものをそのときの気分で聞いています。どれも有名なものですね。
また、オーディオブックについてはAmazon Audibleというサービスを利用しています。オーディオブックの場合は技術的な内容のものではなく、どちらかというとビジネス系の書籍を聴くことが多いです。こう書くと、すごく意識が高い人のようにみえるかもしれませんが普通の小説なども聞いています。なお、オーディオブックの場合、どうしても文字を読むのと違って自分のペースに合わせるということが難しいです。そして多くの場合、読むよりも時間がかかります。したがって自分の場合は2.5倍速で聞いています。自分の脳の処理能力ではこれが限界でしたが、人によってはもう少し速くても大丈夫な人もいると思いますので、ぜひ数倍速で聞いてみてください。
なお、以前に技術カンファレンスのセッションを聴きながら走ったこともありましたが、これは正直なところ全くダメでした。セッションはスライドがあることが前提となった喋りとなっていることが多いからか、とても理解し辛かったです。
さて、次にインプットとして重視しているのが、勉強会やミートアップと呼ばれるようなイベントです。実はこういったものは、コロナ禍によってオンライン開催も増えたので効率よく学ぶためにはオンライン一択という考え方もあるかと思います。しかし、私自身はオンラインのものに参加することは、今ではほぼなくなりました。基本的にはオフラインで開催されているもので、そのとき興味のある分野のものに絞って参加しています。そのため、実際に参加する回数はあまりなく、月に1回あるかないかです。
なぜオンラインのものに参加しなくなったかというと、これはひとえに個人の性質的な問題です。オンラインだと集中して参加することができず、見ている間に何か別のことをし始めてしまったりして、終わってみたら何も覚えていないという状態が続いたからです。それならばネットワーキングもできるオフラインイベントだけにしよう、ただしオフラインイベントは時間の消費も多いので限られたものだけにしようという考えに至りました。
なお、オフラインで参加しているときもセッションを聞いている間にラップトップを開いていると同じ状況になってしまうので、ラップトップを閉じて聴くようにしています。「それなら自宅でオンライン開催のイベントに参加する場合もそうすればいいじゃないか」と思われるかも知れませんが、物理的に移動して参加するというのはある意味、自分に対する縛りのようなものと言えます。
ここまでおもに、隙間時間を使った雑多なインプットについてお話をしてきました。先だって述べたように、ここまでは脳内インデックスの拡充を主目的としていて、あまり手を動かして行うことはやっていません。理由についても先に述べたとおりです。そのため、「それでは学習とは言えない」という人も多いのではないでしょうか。自分自身もそういう負い目を感じるときがあります。
では、どうしても手を動かしたいときにはどうするかというと、無理やり時間を作っています。具体的には“仕事を休む”です。1日とか半日とか強制的に仕事を休みにしてしまい、その時間を使っています(ちなみに、このときは家族には特に休みを取っているとは伝えていません)。
前述のとおり、22時以降の夜の時間にやれるときはその時間を使うことを基本としつつ、どうしてもまとまった時間が欲しいときなどはこうしています。これを休みというのかは意見の分かれるところだと思いますが、自分の場合はこのように強制的に時間をつくり出しています。ここまで読んでくださった方の中には「結局それかよ」と思われるかもしれませんが、物理的に時間が必要なのであればつくり出すしかないのではないかと思っています。有給休暇は会社員の権利です(私の場合、少し事情は異なりますが)。
あとはそもそもエンジニア職ではあるので、業務ではプロダクト開発もしています。進行中のプロダクト開発に直結するような内容は、業務時間内にやっていたりしますので、上記は完全に業務外のものを触る場合の話になります。
今回は私がどのようにエンジニアとしての技術キャッチアップを行っているかについて、おもに隙間時間の有効活用という話をしました。人それぞれ置かれている環境や状況によってもできること、できないことが左右されると思います。それ故に、なかなか正解を示すのが難しい部分でもあります。インプットとくればアウトプットということで、次回はアウトプットの話をしたいと思います。
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