2023年12月12日
合同会社エンジニアリングマネージメント 社長 兼 流しのEM
2000年より慶應義塾大学村井純教授に師事。動画転送、P2Pなどの基礎研究や受託開発に取り組みつつ大学教員を目指す。博士課程(政策・メディア)修了。その後高学歴ワーキングプアを経て、2012年に株式会社ネットマーケティング入社。マッチングサービス SRE・リクルーター・情シス部長・上場などを担当。2018年にレバレジーズ株式会社入社。開発部長、レバテック技術顧問としてエージェント教育・採用セミナー講師などを担当。2020年より株式会社LIGに参画。海外拠点EM、PjM、エンジニア採用・組織改善コンサルなどを担当。現在は合同会社エンジニアリングマネージメント社長 兼 流しのEMとして活動中。X(@makaibito)
ここ数年、副業を扱う人材サービスが多数登場し、私も近頃、副業人材の受け入れや活用の活性化などに関わってきました。今回はレバテック株式会社が発表した「 IT人材の副業に関する実態調査」のデータを用いつつ、副業人材の現状と課題について掘り下げていきます。
副業人材の活用を企業に提案すると、反応がよくない企業が一定数あります。副業人材についての成功体験がないのも理由としてありますが、各人材業界プレイヤーや事業者の活動により、「副業」という言葉そのものが拡がりすぎている状態です。
私が副業人材を各社に提案する際、直面する副業を巡るイメージを下図に示します。
ポジティブな副業人材の活用シナリオとしては、「他社で活躍しているスペシャリストにスポットでも良いので業務委託契約で参加してもらう」というものがあります(図内赤)。
ここから転じて「副業転職」という言葉もあります。一般的には正社員転職の前に業務委託の1~6カ月を副業として挟むことにより、スキルマッチやカルチャーマッチを図るというものです。ある企業ではELTVが正社員として即転職するよりも、副業転職を経由したほうが2倍伸びたという調査もあります。ミスマッチを解消するという点では全ての業種に有効ですが、特に事業内容やシード期スタートアップ、逆に何かしらのステレオイメージで凝り固まってしまっている大企業でのIT人材採用でも効果が高い傾向にあります。
一方で、副業人材の受け入れを拒む企業も一定数存在しており、そうした企業で抱いているイメージは図内の緑の部分になります。テレビの情報番組などでも時折副業という働き方が取り上げられるのですが、下記のような「小遣い稼ぎをしている人材」のイメージが強いように思われます。
総じて副業人材の受け入れを一方的に拒む企業には、こうした専門性は高くないスポットでの小遣い稼ぎのイメージを抱いており、積極活用のイメージからは遠い状態です。
エンジニアの副業に関する情報を集めていると、「複業」という言葉に到達します。副業という言葉についてはあくまで本業があった上でのもので、正・副の関係性があります。「複業」という言葉を使う人の中には、複数の業務をもっているという意味で使う人や、副業を2つ以上受けていることを指している方もいます。
個人事業主ということであれば、リスクヘッジのために複数の案件を受けることは自然です。その一方で同時に受けたがために、そのうちの一つの案件が炎上することで、ほかに手が回らなくなり、納品トラブルに繋がる話も複数聞こえてきています。こうしたトラブルの結果、複業ワーカーに対するイメージが悪化していくリスクがあると考えています。
下記は実態調査のうち、年収に関する回答になります。最低賃金を踏まえると、200万円以下と回答している方々は、フリーランスや非フルタイムの非正規雇用が含まれているだろう。1,500万円以上となると、顧問やコンサルタントが多く含まれていると考えられます。副業人材と一口にいっても、スキルレベルも単価感も非常にバラバラであると言えます。
このように副業を巡る市場は幅広いものであると認識した上で、どの層に対して何の業務を依頼したいのかということについて言語化していかなければなりません。
ちなみに、副業を巡る議論において、無報酬のボランティアを募集している集団もあることも意識しなければなりません。ある複業媒体などで多く確認されていますが、地方自治体のDXやマーケティング、組織構築など名目上はハイレベルな業務内容なのですが、「報酬は発生しません」という注意書きがなされています。
▲IT人材が副業を行う目的についての設問結果(レバテック株式会社「IT人材の副業に関する実態調査(後編)」より)
副業を行う目的として、最も多かった59.2%の人は「収入アップである」と回答した。注目すべきは2番目以降のものです。スキルアップやステップアップが20.6%とあり、単に金銭目的だけでなく、業務内容を経て得られる経験も目的としていることがわかります。副業人材を勧誘するにあたっては、こうした事柄も意識して訴求するようにしましょう。
企業が副業人材の受け入れを検討した場合、よく言われる質問として「どの程度の時間を複業人材に割いてもらえるのか」ということがあります。
作業頻度としては週2~3日(35.8%)、1週間あたりの合計作業時間は「5時間以上10時間未満(24%)」という回答が最多となりました。
副業人材によって稼働スタイルは異なるため、稼働可能な時間帯や避ける時間ボリュームを元に契約を進めましょう。稼働報告書を用いた時間清算スタイルによる準委任契約なのか、納品物を元にした請負契約なのかを判断していきましょう。
IT副業人材を活用するにあたり、障壁となるのがコミュニケーションコストです。本業がある副業人材の場合、稼働が本業を開始する時間前、本業開始後、休日が一般的です。フリーランスの複業人材や、本業がフルフレックスなどであれば平日日中の打ち合わせに応じて貰える人材もいます。
企業の中にはタスクを切り出し、ミーティングなどを不要な形で進めている組織もありますが、どうしても末端業務を切り出す形になってしまいます。そのため、副業人材に期待する事柄が自組織に対する改革や変革などであれば難しくなります。契約時に前もってコミュニケーション方法や頻度を合意するようにしましょう。
また、「期待したアウトプットが出てこない(24.6%)」というのは、副業人材に限らずリモートワーク下における正社員やフリーランスでも起きうる問題です。タスク進捗について見える化しつつ、適宜チェックできる形で進めることをお勧めします。
一般的に業務委託の人材は期間を区切った契約が可能であるため、テンポよく契約するケースが多いです。特に副業人材はフルタイムの人材と違って、稼働時間が少ないこともあり安価であるという特徴があります。特にスタートアップなどは副業人材ばかりで構成された組織が多数存在しています。
しかし、これまでお話してきたようにクリアすべき課題は多数あります。「安価である」以外に副業人材に期待することを言語化して採用に臨むようにしましょう。具体的には下記のようなものが考えられます。
▲副業先に対する貢献内容の調査結果(レバテック株式会社「IT人材の副業に関する実態調査(後編)」より)
貢献内容でみていくと、副業先に対して転職よりもライトな形で「客観的な視点の提供」(46.6%)ができているという回答もあります。正社員の中途入社と比較すると副業はミスマッチ時のリカバリも軽微な部類に入ります。一度、受け入れの検討をされてみてはいかがでしょうか。
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