2021年11月24日
株式会社ディー・エヌ・エー システム 本部CTO室
平子 裕喜
新卒入社後、エンジニアとしての経験を活かし、新卒育成 / マネージャー強化施策 / コミュニティづくりなどを推進。現在は自宅でリモートをしながら複数部署を兼務しつつ、和歌山県広川町に地域活性化起業人として出向し、2拠点で働いている。
GMOインターネット株式会社 システム本部アクセス開発部 マネージャー 兼 エバンジェリスト
村上 悠
北九州で10年以上ソフトウェア開発に従事してから、2018年にGMOインターネットに入社。アクセス事業のプロダクト開発を行う傍ら、プレイングマネージャーとして北九州の拠点から東京とベトナムのエンジニアチームのマネジメントも行う。
株式会社ミクシィ 人材採用部
佐々木 忠輝
2010年にSPを扱うベンチャーの広告会社に入社。2016年に中途で株式会社ミクシィへ入社し、人事部に配属。新卒の育成やタレントマネジメントの導入など組織開発に携わった後、2018年に新卒採用グループのマネージャーに就任。2021年10月より中途エンジニア採用に異動。
株式会社サイバーエージェント 全社システム本部/技術政策管轄エンジニアリングマネージャー
板敷 康洋
バックエンドエンジニアとしてサイバーエージェントに中途入社後、メディアメディア事業の開発組織責任者や新規系サービスのPMを歴任。現在は社内HRテック領域のプロジェクトを推進中。2019年5月より新潟からリモートワーク中。移住のタイミングでサービスの開発から横断組織のミッションへキャリアチェンジ。
株式会社HARES 代表取締役
西村 創一朗(モデレーター)
複業研究家/プロモデレーター。2011年に新卒でリクルートキャリアに入社後、法人営業・新規事業開発・人事採用を歴任。2017年1月に独立。独立後は複業研究家として、働き方改革の専門家として個人・企業向けにコンサルティングを行う傍ら、モデレーターとして年間100本以上のイベント・セッションの司会進行を務めている。
最新のテックカンファレンス現場をレポートする本シリーズ。「変わる働き方とカルチャー、変えるテクノロジー」がテーマのカンファレンス、BIT VALLEY 2021。10月27日に開催された#05 Tour of Work From Anywhere 『WFAの可能性を探る』から「新しい働き方」に着目したトークセッション「リモートワークは生産性の敵か味方か?4社と語るWFA最前線」の内容を抜粋してご紹介します。
西村:近年、リモートワークやWork From Anywhere(以下WFA)の動きが活発になっているなか、WFAは仕事の生産性に対してプラスに働く側面もありますが、マイナスの影響もあるでしょう。今日はそれにどう向き合っていくかのお話をしていけたらと思っています。まずは皆さんがWFAを実践したきっかけを教えてください。
佐々木:ミクシィでは現在「マーブルワークスタイル」を取り入れて、週3日のリモートワークを許可しています。当社ではこれ以外にも柔軟な働き方の実現を検討しており、今夏は一部の部署でワーケーション制度を試験的に導入しました。私も妻の実家で1週間のワーケーションをやってみたんです。事前に仕事と休みの割合を決めていましたが、いざ仕事を始めると次から次へやることが出てきて、日を跨いで仕事をしてしまった時も。結局大型連休のつもりだったのに、ほとんど仕事をしてしまいました(苦笑)。
ただ挑戦してみて初めてわかったこともありましたね。自分は事前にワーケーションのスケジュールを社内に周知しなかったのが反省点かなと思います。
西村:またやりたいか、というといかがですか?
佐々木:やって改善をしたいという思いが強いですね。いろいろ改革は進められているものの、長期休暇の取得はまだ難易度が高い部分があるかと。より休暇を取りやすい環境がつくれるように、実践を通して改善を進めていきたいなと思います。
西村:村上さん、板敷さんは現在地方を拠点として活躍していますね。
村上:自分は生まれも育ちも福岡県の北九州市で、東京へ行こうと思ったタイミングで、ちょうどGMOインターネットが地方拠点を展開したので、転職しました。今は北九州に拠点を置きながら、東京・ベトナムを加えた3カ所のエンジニアチームをマネジメントしています。普段は週に3~4日、出社率は7割くらいですね。
板敷:私の場合は、2019年5月に家庭の事情で新潟へ移住して、それ以来ずっとリモートワークですね。サイバーエージェントでは、前までメディア系のサービス開発を担当していましたが、リモート切り替えをきっかけに、よりエンジニアにとって働きやすい仕事環境を創出すべく、技術人事や社内HRテック領域のプロジェクトを推進しています。
西村:ありがとうございます。平子さんも現在和歌山県と東京の2拠点で働いているようですが、地元ではないようですね。なぜ和歌山県を拠点に選んだんですか?
平子:きっかけとしては、地方行政からの声がけで「地域活性化起業人」として和歌山県広川町にも拠点を置くようになりました。私自身も地域活性化の取り組みに興味があって、個人の働き方の新たな可能性を探ってみたいという気持ちも強かったんです。
西村:9月米マイクロソフト社が「テレワークは生産性を下げ、イノベーションを脅かすリスクがある」という研究結果を発表し、警鐘を鳴らしました。皆さんWFAを実践していかがですか?
板敷:自分自身のことで言えば、個人レベルの生産性はものすごく上がりましたね。自分はマネジメント業務が中心というのもあって、出社時には生産性を下げる物理的な要因が結構あったと思います。例えば、個人の作業中に周りから話しかけられたり、フロア間の移動なども単純に時間がかかったりしていました。オンラインだとそういったタイムコストが削減され、出社時より余裕ができて業務の範囲は広がったと感じていますね。
村上:よくわかります。オフラインだと、面談の場所を探したり、時間を調整したりするのが大変でしたが、今はZoomなどで簡単にできています。またオンラインの場合、ミーティングの合間にちょっと開発をするなど、すきま時間を有効に使えるところも生産性が上がった部分だと思います。ただ、マネジメントを行う立場からすると、チーム全体の生産性はやや下がる気がしますね。
西村:具体的にどの部分で生産性が下がったと感じたんでしょうか?
村上:やはり開発のペースや対応件数など、実際の数字にも現れているんですね。GMOで私が見ているチームは若手社員が多く、リモートだとすぐに質問できる環境がなくて、わからないことがあると手が止ってしまうこともあります。あとは社会人になったばかりで、家だと気持ちを切り替えにくいというのもあるかと。そこをオンラインだけのマネジメントでカバーするのはなかなか難しいと感じていますね。
佐々木:オンボーディングの観点からも、新入社員の生産性をすぐに上げるのは難しいですね。
平子:特にコミュニケーション頻度はどうしても出社時に比べて下がってしまうので、だいぶ工夫する必要があると実感していますね。その点に対して、DeNAではチームごとに振り返りながらルールを設けたり、仕組み化したりします。オフラインのときにはあったものを代替する、あるいは新たに加わるものもあります。最初はどうしても生産性は下がりますが、後々持ち直すことはできると思います。
西村:オフィス出勤していた頃に存在していたムダがなくなり、個人単位ではキャパシティが増えて関われるプロジェクトが増えているようですね。ただ、チームとしての生産性は下がってしまう、というのも皆さんの実感のようですね。
西村:オンラインで信頼関係を構築するために心がけていることはありますか。
村上:各メンバーと個別に話す時間を設けるようにしているのと、チームで話す時間も出社時より多めにつくっているところですね。また、マイクやカメラはちょっといいものに変えるなど、オンラインでもストレスなくコミュニケーションが取れるよう環境整備にも力を入れています。「ちょっと聞き取れなかったんで…」が頻繁に起きるとコミュニケーションの質が下がるので特に気をつけています。
平子:やはり実際に対面で会っていないと、相手が今何を考えているのか、どんなことで悩んでいるのか、なかなか汲み取れないんですね。そこで、個人の自己開示はつよく求められるようになると思いますし、組織でできるのは、自発的なコミュニケーションがよりしやすい環境を整えてあげることでしょう。
あとは、チームと一緒に仕事できる環境はどうしても必要だと思います。自分が今いるDeNAのCTO室は基本モブワークです。Slackで「今からこのタスクをやります」と共有して、ハドルミーティング機能などを使ってペアや3人1組で仕事をしています。
西村:モブワークを取り入れたことで変化はありましたか?
平子:1人で課題を抱え込んで悩む時間を大きく削れたと思います。あとは単純に誰かと一緒に作業できるのは楽しいですよね(笑)。そして何より、「こういう順番で考えていきます」など自分の思考プロセスを開示しながらやっていくので、仕事上手な人のやり方がわかって、とても学びになると実感しています。
西村:コロナ禍前からリモートワークを実践している板敷さんは何か心がけていることはありますか。
板敷:オンラインのコミュニケーションは広めすぎず、小さい範囲内で深く会話をすることを意識していますね。例えば、オフラインの飲み会だと初対面の人でも盃を交わすと仲が深まることもありますが、オンラインだとなかなかハードルが高いですね。それよりも共にプロジェクトを進めるメンバーとの会話に時間をつかったほうが、信頼関係の構築に繋がります。自分の肌感としては、5人以下が適当かなと思いますね。
村上:5人前後がベストというのは同感ですね。自分が一緒に仕事するチームメンバーは1年ごとに増えてきたのですが、5人だった頃のミーティングはやはり一番話しやすかったですね。この人数を超えると、みんなが発言できるように話を回すのは結構大変なんですよね。
平子:時間の余白は大事ですね。あえて「会議の前に5分間の雑談時間をつくる」とかを取り入れても良いかもしれません。
西村:「要件で始まり、要件で終わる」ことはオンラインミーティングのメリットである反面、まったく余白がなくなると信頼関係の構築が難しいかもしれませんね。
西村:先ほど平子さんからモブワークというアイデアがありましたが、ほかにもチームの生産性を上げるコツはありますか?
佐々木:コミュニケーションの量と質を保つのがもっとも重要だと感じますね。リモートワークが進むと孤独感が増して、「今日ひと言もしゃべってないわ」みたいな人もいたりするんですよね。それをなくすために、ミクシィでは1日1回オンラインミーティングツールなどを使った対面での会話を推奨しています。
ほかにもエンジニア組織ではメンバー間の交流促進の取り組みとして、社内のDevRelチーム(Developer Relations/開発者間の関係構築を促進する役割を持つチーム)が交流の場を積極的につくっています。例えば、週に1回誰でも参加できるオンライン雑談会を開催したり、不定期にLT大会(ライトニングトーク大会/5分ほどの短いプレゼンテーションを発表者が行う)を開催したりしています。
西村:エンジニアに限らず、懇親会を企画したのに誰も参加しないというのをよく聞きますが、参加のハードルを下げるために何か工夫していることはありますか?
佐々木:参加したいと思ってもらえるようにするのが一番重要だと思いますね。ミクシィでは4半期に一度、社内のエンジニアが集まるイベントとして「デペロッパーミーティング」を開催していて、発表後にもオンライン懇親会を設けています。また、事前に自宅へ飲み物や食事セットを届けて参加者が同じものを楽しめる環境をつくるようにもしています。
板敷:オフラインでのコミュニケーションに慣れている分、オンラインでも無意識的に相手の顔色を伺ったりするんですね。相手の反応がはっきり伝わってこないとストレスが溜まってしまいます。それを解消するために、非同期にできるコミュニケーションはできるだけSlackのメッセージなどで済ませるようにしています。あと、「さ、雑談しよう」とわざわざ時間を設けると、身構えてしまい楽に話せない人もいるので、あくまでも仕事の延長線だと意識して自然にコミュニケーションの時間を増やしていますね。
平子:ツールを上手く活用することも、オンラインでのチームビルディングにとって重要ですね。顔色が伺えないのでリアクションボタンで意思表示したり、絵文字を投稿して心境を表現したり、意見を投票で決めたりするなど、オフラインでは表情で読み取っていた心の中を、ツールを通して可視化することが容易にできるようになりました。そこを上手く活かして、より踏み込んだ議論につなげていくことが、オンラインコミュニケーションを円滑に進めるコツだと思います。
西村:村上さんは今行っている取り組みや、今後取り組んでいきたいことなどはありますか?
村上:私の場合、複数拠点が連携して1つのプロジェクトを推進することが多いですね。そのため、どこにいてもオフィスで集まったときと同じ距離感が保てるように、メンバー間の常時接続が可能な「バーチャルオフィス環境」を構築しています。GMOの場合、拠点内ではoViceをつかってオフィス環境をオンライン上で再現し、拠点間ではDiscordでつないでいます。Discordの1つのサーバー(※グループ)に北九州、東京、ベトナムの3拠点のメンバーを同時につなぐようにしています。
まだトライアル中なのですが、思ったより効果があるんですよ。わざわざミーティングの時間をつくらなくてもオフラインのように自然に声がけができるので、交流が活発になっている実感があります。
西村:会社ではなく個人の意見として、出社とフルリモート、もしくはハイブリッドなら、どれが理想的ですか?
板敷:「ハイブリッド」というのは、定期的に出社するだけではなく、フェーズによって使い分ける方法もあると思いますね。プロジェクトの立ち上げ時や新メンバーがジョインしてきた時は、メンバー間の信頼関係を構築するためにオフラインで積極的に集まったほうが良いと思います。やはりオフラインのほうが情報量も多いし、安心感もありますから。
村上:出社は「コミュニケーション貯金」をする良いタイミングだと思っています。出社の時間を利用して徹底的にコミュニケーションを取ることで、オンラインで生産性が下がることをある程度防げると感じています。
西村:「コミュニケーション貯金」っていい言葉ですね。弊社も今年の4月からずっとフルリモートだったのですが、この間初めて全員でオフラインであったんですよ。お互いに今後のビジョンなどについて話し合いができて、その後の仕事がよりスムーズになったと実感していますね。
西村:最後に皆さんからひと言ずつお願いします。
平子:WFAは効率で選ぶ人が多いと思いますが、「リリースの瞬間はみんなと一緒にいたい」、「タイミング的に、今は家族との時間を大切にしたいからリモートに切り替えたい」など、感情を優先して選ぶのもアリかなと。私はいま「地域活性化起業人」をはじめとして、多様な働き方をさせてもらっているので、働き方の幅と認知をより広げていきたいです。
佐々木:WFAは可能性しかない分野で、業界各社もまだ色々と模索している途中だと思います。ミクシィも働きやすく、かつ生産性が上がる仕組みをつくれるよう、引き続き取り組んでいきます。
村上:地方でもエンジニアが活躍できる拠点をより増やしていきたいとい考えております。GMOインターネットでは2022年2月に小倉駅の駅前に新オフィスがオープンしますので、興味のある方はぜひプレスリリースなどをチェックしてみてください。
板敷:これからおそらくリモートが当たり前になり、時間・場所に制限されることなく働き方も多様になっていくはずです。何かに偏るのではなく、全体としてベストな道を模索していけたらと思います。
西村:皆さん、今日はテイクアウェイできるお話をありがとうございました!
文:古屋江美子
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