【産業医が教える】新たな働き方を模索しながら、ヘルスケアリテラシーを高めよう

2023年7月14日

株式会社iCARE 代表取締役CEO 産業医・労働衛生コンサルタント

山田 洋太

1979年生まれ、大阪府出身東京育ち。金沢大学医学部卒業後、2008年より公立久米島病院で離島医療に従事。「持続可能な地域医療の在り方」に疑問を持ち、一旦医師を辞め、MBA取得のために慶應義塾大学大学院経営管理研究科に入学。在学中に、心療内科・総合内科で医師として従事しながら、iCAREを創業。2016年に企業向け健康管理システム「Carely」をローンチ。厚生労働省の検討会において産業医の立場から提言し、2018年から同省の検討会委員も務める。iCARE代表を務めるとともに、現役の産業医としても活動している。プライベートでは四児の父。

はじめに

昨今、組織やそこで働く人のライフスタイル・ワークスタイルが変化する中で、従業員体験として健康へのニーズが高まっています。企業にとっても従業員への健康投資を行うことは、従業員の活力や生産性の向上など組織の活性化をもたらし、結果的に業績向上や株価向上につながると重要視されはじめています。

この流れは多忙な印象があるIT業界にも波及しています。実際、労働時間の抑制は進んでいますが、IT業界の中でも激務の印象が強く、読者であるエンジニアのみなさんの職場はどうでしょうか?

私が産業医を務めていた多くのIT企業でも、エンジニアはともすれば不調に陥りがちでした。

長時間労働はエンジニアの業務特性上、いたしかたない部分もありますが、エンジニアの習性として職人気質な部分があり、完璧さを求めることや集中できる時間帯が自分の中で決まっているなど残業をいとわない部分も感じられました。

しかし、働き方改革が叫ばれる現在において、過重労働による健康不良はエンジニア自身にとっても、企業にとってもデメリットしかありません。エンジニアが競争の原動力となっているような業態であれば、なおさらです。

健康管理システム「Carely」を開発する企業のCEOとして、普段からエンジニアと接する機会も多く、産業医としてもIT企業を中心に100社以上の相談実績があり、IT企業やスタートアップ企業の働き方を理解している私が、これからのエンジニアに必要な健康知識と組織への関わり方を解説します。

残業過多はエンジニアの職務特性ともいえる

一般的に、エンジニアは労働時間が長い職種であると言われています。実際、厚生労働省の実態調査によれば、情報通信業の月間総実労働時間は1907時間で、全産業の1706時間を上回っています(厚生労働省「毎月勤労統計」平成29年度確報)。

残業を発生させる職務特性として、「突発的な業務」、「仕事の相互依存」、「外部とのやり取り」などがあります。急な仕様変更やサーバーエラーなどのアクシデントによる突発業務の発生、個人の経験やノウハウに依存した属人的な業務、要領を得ない仕様策定など、身に覚えがあるものも多いのではないでしょうか。さらに、顧客先への出張や保守のための夜勤により時間数以上に質的負担の高い業務も発生します。

つまり、エンジニアは慢性的に残業が発生しやすい職務特性を持っていると言えるのです。

法改正による働き方の変化で、エンジニアも働き方を考える時代へ

しかし、エンジニアの職務特性とは無関係に、社会的には残業の抑制をはじめとした新たな働き方が求められています。その代表的な法改正が2019年4月1日から順次施行されている『働き方改革関連法案』です。主な内容は以下の通りです。

  • ・時間外労働の上限規制を導入
  • ・産業医・産業保健機能の強化
  • ・年次有給休暇の確実な取得
  • ・中小企業の月60時間超の残業の、割増賃金率引上げ
  • ・正社員と非正規雇用労働者との間の不合理な待遇差の禁止
  • ・「フレックスタイム制」の拡充
  • ・「高度プロフェッショナル制度」を創設
  • ・勤務間インターバル制度の導入促進

簡単に言えば、企業に対しては従業員の労働時間の管理や、健康管理をより厳正に行っていくことを求められるようになりました。一方で従業員として、フレックスタイム制や勤務間インターバル制度など、個々人が働きやすい、新しい働き方の選択肢が認められてきています。

なかには「エンジニアの仕事をわかっていない!」と思う方もいるかもしれませんが、所属する組織・企業が変わっていく以上、エンジニア自身も新たな働き方を考えていかなくてはいけない時代になっているのです。

知らないのは危険。労働時間とメンタルヘルスの関係

エンジニアが抱える問題として、労働時間のほか、メンタルヘルスの不調が挙げられます。厚生労働省「令和3年 労働安全衛生調査(実態調査)結果」によれば、情報通信業でメンタルヘルス不調により、1ヵ月以上の休業をした従業員がいた事業所は全体の26.7%、退職した従業員がいた事業所は全体の11.7%となり、いずれも全業種の中でワースト2とワースト1という結果になっています。

エンジニアとしてのキャリアを考える上で、メンタルヘルス不調による休職や退職は避けたいものです。メンタルヘルスは、「仕事の負担」x「組織の支援」x「個人の素養」の組み合わせによって不調になったり、回復したりと上下動します。

つまり、自身のスキルセットや業務範囲をコントロールすることに加え「組織の中でどのように働きやすさを保つのか?」ということが、エンジニアにとって新たな働き方を模索するために重要な視点になるのです。

クオリティ高く働くため、エンジニア自身もヘルスリテラシーを高めよう

働き方改革は、以前のNO残業デーのように強制的に電気を消して社員を帰らせるような乱暴なものではなく、働き方に多様性をもたらすためのものとも言えます。

多様な制度があり、企業のヘルスリテラシーも向上している今、エンジニアは自分で働き方をある程度選ぶことが可能です。

フレックス制度や高度プロフェッショナル制度、勤務間インターバル制度などは、労働時間が不規則になりがちなエンジニアに適した制度と言えます。

先程も述べたように、無理な労働はフィジカルにもメンタルにも影響があり、キャリアを閉ざしてしまう可能性もあるもの。働き方を選べる今だからこそ、エンジニア自身もヘルスリテラシーを高めることが、これからのキャリアを形成する上で重要になってきます。

今回の連載では、変わりゆく時代の中でエンジニアがさらなるパフォーマンスを発揮できるように、体の不調やメンタルの問題点に対するセルフケアの方法と、所属する組織との関わり方について紹介していこうと思います。

連載が終わる頃には、一人でも多くのエンジニアがクオリティ高く働くためには健康が重要であることを意識できるよう、ヘルスリテラシーを高めていければ幸いです。

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