2022年8月4日
執筆者
TechCrunchジャーナリスト。暗号とフィンテックを専門とする記者。TechCrunchの週刊暗号ポッドキャスト「Chain Reaction」の共同ホストを務め、同名のニュースレターを共同執筆しています。
暗号資産(仮想通貨)においてプライバシーは重要な問題だ。暗号資産のウォレットアドレスが特定の個人につながることが分かれば、その個人がウォレットを通じて行ったすべての取引を、ビットコインやイーサリアムなどのパブリックブロックチェーン上で追跡することができる。
暗号技術者の中には、暗号のプライバシーに関する懸念の解決策は「ゼロ知識証明(ZKPs)」にあると考える人もいる。ゼロ知識証明は基礎データを共有せずにブロックチェーン上で取引を検証することができる技術だ。確かに最も人気のあるブロックチェーンの一部でプライバシーとスケーラビリティを改善することができるが、Web3の進歩を加速させる唯一の暗号手法だとは言い難い。
プライバシーエンジン「Sunscreen」の共同創業者兼CEOのRavital Solomon(ラヴィタル・ソロモン)氏は、完全準同型暗号(FHE)がWeb3のプライバシーを強化するのに有望だと考えている。この技術により、暗号化されたデータを解読しなくても個人が計算を実行できるとソロモン氏は説明する。わかりやすいユースケースとして思い浮かぶのは、金融機関だ。FHEを利用することで現在よりも顧客のプライバシーを保護しながら取引データをより詳しく分析し、潜む不正行為を検出することができる。
「Web3に何を提供できるか、という点において、ゼロ知識証明は非常にエクサイティングだと思う。ゲームやアイデンティティに応用できるのだが、暗号やプライバシーにとって必ずしも万能ではない。これは、食事をしに行くようなものだと私は考えている。今、ゼロ知識証明は『これさえあれば食事ができる』というように紹介されているが、私は必ずしもそうだとは思わない。完全準同型暗号は別の種類のプライバシー技術であり、ゼロ知識証明を補完するものと考えることができる」とオックスフォード大学で数学と理論計算機科学の修士号を取得したソロモン氏は話した。
ゼロ知識証明の課題の1つは使用料が高くつくことだ。ソロモン氏によると、ZKPsを使って構築された多くのプロジェクトは、ユーザーが意図したとおりのパフォーマンスを発揮するために、一般家庭が持つコンピューターの計算能力をはるかに超えることが期待されている。そこで同氏は、FHE技術の開発を促進するスタートアップSunscreenを立ち上げることにした。
「FHEは、ユーザーにとって(ZKPsよりも)ずっと軽量だ。ユーザーはサーバーやラップトップのようなクレイジーなマシーンを必要としない。つまり、さまざまな種類の取引や計算のプライバシーを確保しつつ、ラップトップ上でも妥当なコストとなる」とソロモン氏は話した。
同氏は昨年、Y Combinatorの支援を受けたNuCypherの暗号技術のベテラン、MacLane Wilkison(マクレーン・ウィルキソン)氏とともにSunscreenを共同設立した。ソロモン氏はNuCypherで仕事をしているときにFHE技術の市場投入に取り組むことを思いついた。現在、Sunscreenの顧問を務めるウィルキソン氏は、ソロモン氏に自身のアイデアをもとに会社を設立するよう勧めた。
現在、ソロモン氏を含むSunscreenの社員3人は、エンジニアがFHEプログラムを簡単に構築できるコンパイラを開発した。同社はまた、FHEを活用する開発者、学者、研究者からの提案に、最大50万ドル(約6600万円)、1プロジェクトあたり5万ドル〜7万5000ドル(約660万〜1000万円)を割り当てる助成金プログラムの立ち上げを発表した。
こうした取り組みに資金を提供するため、SunscreenはPolychain Capitalが主導し、Northzone、Coinbase Ventures、dao5、ナバル・ラビカント氏らが参加したシードラウンドで465万ドル(約6億円)を調達したばかりだ。Entropyの創設者タックス・パシフィック氏など、ソロモン氏のNuCypherの元同僚もエンジェル投資家としてこのラウンドに参加した。今回のラウンドは以前57万ドル(約7600万円)を調達したプレシードを補完するものだとソロモン氏は言う。
FHEがそれほど有望なら、その属性にフィットしそうなWeb3では、なぜもっと普及していないのか、と筆者はソロモン氏に質問した。
これに対しソロモン氏は、FHEはまだ新しい分野であるため、FHEプログラムを書くのは非常に困難だと説明した。これが、Sunscreenがその周辺プロセスを簡素化するための開発者ツールを構築している理由の一つになっているのだ。
ソロモン氏は、この技術がプライバシーの領域で有用であるためには、新しいレイヤー1ブロックチェーンが必要だと考えている。これについては、長期的にSunscreenで取り組むことを計画しており、イーサリアムへブリッジすることになると同氏は話す。新しいチェーンがあれば、技術者はそのチェーンとFileCoinなどの他のプロトコルとの間にインテグレーションを構築して、基礎データがユーザーの目に触れないようにすることができ、低コストでZKPsとFHEの両方を一緒に活用できるとソロモン氏は説明した。
FHEは格子暗号のサブセットであり、ソロモン氏によると、この分野は暗号領域でもまだニッチだと考えられているという。
「私が思うに、完全準同型暗号はここ3、4年でユースケースとして十分なものになったばかりだ。ゼロ知識証明はニッチだと思うかもしれないが、格子暗号はもっとニッチだ。これらの異なる分野を組み合わせて問題を解決する専門知識を持つ人はごくわずかだろう。Web3ではこの分野は成長していると思うが、ゼロ知識証明より5年遅れていることは間違いない」とソロモン氏は話した。
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元記事はこちら:This niche cryptographic technique could transform privacy in web3
By:Anita Ramaswamy
翻訳:Nariko
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