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次世代のエンジニアをどう育成するか。新人に身につけてほしい“スキル”【サイボウズ】

2026年3月17日

サイボウズ株式会社 開発本部 People Experienceチーム オンボーディング担当

久宗大雅

2014年にサイボウズに新卒入社。
インフラエンジニア/SREを経験した後、2018年に技術ブランディング/関係性づくりを担うチームへ異動し、技術広報やコミュニティ活動に携わるとともに、より高い価値を提供できるチームを目指してチームビルディングにも取り組む。2021年にオンボーディングチームへ異動。入社者のオンボーディング設計や、インターンを含む採用・育成に取り組み、エンジニアリング組織の強化を支援している。大阪在住。
X(Twitter):@tignyax

サイボウズ株式会社 開発本部 People Experienceチーム オンボーディング担当

酒井康晴

2010年にサイボウズ株式会社に新卒入社。
Webエンジニアや技術広報などをへて、現在はkintone開発チームのエンジニアリングマネージャー。EMとして採用や組織づくりを主軸に、チームが持続的に成果を出せる状態づくりに取り組んでいる。あわせて、エンジニアのオンボーディング設計や育成施策にも関わり、プロダクトの成長と人・組織の成長が相互に加速する環境づくりを探求している。兵庫県在住。3児の父。
X(Twitter):@sakay_y

これからジュニアエンジニアをどう育成したらいいのか――。AIコーディングツールなどが登場して以降、IT業界全体で悩みの種となっているテーマです。開発の進め方もスキルの学び方も大きく変わっていくなか、「次世代を担うエンジニアが身につけるべきスキル」にも見直しが求められています。

本記事では、例年、新人研修のブラッシュアップを重ね、研修資料の公開を行うなど独自の取り組みを行っているサイボウズ株式会社に取材しました。

同社は、2025年度にエンジニア新人研修のあり方を土台から再構築したのを機に、今まで以上に、事業や組織の理解、マインドセットやソフトスキルの教育に力を入れるようになったといいます。自社を取り巻く技術動向を反映した研修内容のアップデートもしていますが、進化を続けるAIに対して浮足立つことなく、「あくまで便利なツール」と冷静なスタンスを崩しません。

技術の変化と向き合いながらも、流行には左右されない。そんな軸を持ったサイボウズのエンジニア新人研修について、運営に携わる久宗大雅さんと酒井康晴さんにお話を伺いました。

2025年度から大きく変わった「サイボウズのエンジニア新人研修」

――サイボウズでは、どのような方針でエンジニア新人研修を行っているのでしょうか?

久宗:実は、2025年度のエンジニア新人研修から抜本的な見直しが行われ、大きな変化がありました。

研修期間が約3か月から約1か月半へと半分ほどに短縮された一方で、講義数は増加しています。特に、事業や組織の理解、マインドセットやソフトスキルに関する講義を拡充しつつ、ハードスキルに関する講義も増やしています。

――期間が減って学習内容が増える。一体どういうことでしょうか?

久宗:そもそも大きな見直しを行うことになったきっかけは、「エンジニアの新卒採用の仕組みが変わり、それに伴って研修に求められる役割が変化した」という社内的な事情でした。

前提としてお話すると、まずサイボウズの新人エンジニアが受ける研修は、大きく3つの段階に分かれています。

新人エンジニアは入社後、まずはじめに全職種の新卒社員を対象とする「全社研修」を受け、2番目に、エンジニアリング組織所属のみを対象とする「エンジニア新人研修」を受けます。最後に、各チームに配属されてより専門的なスキルを身につけていくのですが、チームによってはここでさらに独自の研修を設けています。

研修期間が半減し、講義数が増えたのは、この2番目の「エンジニア新人研修」。背景には「採用フローの変化」があります。

――採用フローが、どのように研修内容に影響するのでしょうか?

久宗:従来のサイボウズのエンジニア組織では、「新卒採用後に配属先を決める」というフローを取っていて、入社時点ではどのチームに配属されるか決まっていませんでした。

そこで約3か月のエンジニア新人研修のなかで、新人が配属先の候補となるチームをまわる「チーム体験」を1か月半かけて行っていたのですね。この期間を使って、新人エンジニアや、新人を受け入れる側であるチームやマネージャーが「どこのチームなら合うだろうか」と検討をしていました。

しかし2024年度以降は、入社時点ですでに配属先がある程度決まった状態で新人エンジニアが入社してくる体制に変わったため、配属先を決めるために「チーム体験」を行う必要性がなくなったのです。

これにより、エンジニア新人研修の期間が短くなりました。

――採用方針の変更で、研修の役割が変わってコンパクトになったわけですね。では学ぶことが増えたのはなぜでしょうか?

久宗:長年、新人研修を行うなかで改善すべき点も見えていたので「この機会に」と、2025年度のエンジニア新人研修では土台から見直すことになりました。

エンジニア新人研修では以前から特定のコンセプトを定めていましたが、「この研修を通してどういう状態を目指すのか」というゴールまでは決めていませんでした。その明文化からはじめていきました。

酒井:「チームワークあふれる社会をつくる」などの当社の企業理念、「組織力を向上させたい」というエンジニア組織としての中長期的な方向性からブレイクダウンして、研修のあるべき姿、ゴールとなるものを再検討していった――というのが、大枠の流れになります。

久宗:一言で言うと、「新しいメンバーが早く自分の力を発揮して、チームに貢献できるようになる」ことがエンジニア新人研修のねらい。そのために必要な要素を考え、従来の研修には足りなかった部分を補うかたちで講義を追加しました。

結果として「開発技術や開発手法といったハードスキル中心だった研修内容を改め、事業や組織の理解、マインドセットやソフトスキルを拡充する」「“当社で働くうえで必要な知識のラインをそろえる”ことに注力する」といった方向にシフトし、その結果、講義数も増えました。

AIを無視せず、振り回されもしない新人研修設計

――近年の業界動向といえば、やはりAIの存在感は強いですよね。エンジニア新人研修への影響はありますか?

久宗:もちろん、社内的にAI活用を推進する動きはありますし、新人研修でも2025年度からDifyやGitHub Copilotについて教える講義を取り入れました。

とはいえ、AIはあくまで「便利な技術やツールのなかのひとつ」と捉えていて、他の技術と比べて特別視しているわけではありません。

酒井:新人研修の目的はあくまで「事業貢献できる状態になってもらうこと」。どんな技術やツールであっても、この観点は変わりません。

――では、大きく見直されたエンジニア新人研修では、どんなことを教えているのでしょうか?

久宗:1つには、自社における働き方に関わるテーマ。「エンジニアはどのように事業貢献するか」を理解するための事業・顧客理解や、「サイボウズの開発組織における品質への向き合い方/プロダクトマネジメントへの向き合い方」といった概念的な部分です。

もう1つには、「自他の価値観を知る」などの、長いキャリアを歩むうえで役立つマインドセットに関わるテーマも取り入れています。

酒井:これまで「学んだ技術をどう活かして事業貢献するか」という点は、チームに配属されてから先輩エンジニアの背中を見ながら学んでもらう側面が強かった。しかし、「働いていくうえで大前提となる認識を研修段階でそろえたい」「組織として目指す方向性を大事にしながら技術を学んでほしい」という考えから、このような方向性になりました。

エンジニア新人研修では、インプットを中心とした「講義パート」を約14日間、約5人のチームでハッカソン的に開発を行っていく「実践パート」を約8日間行います。以前はその講義パートの大部分を技術学習に費やしていたのですが、2025年度から体感的には、ハードスキル、ソフトスキルで半々くらいの比率になりましたね。

――ハードスキルの学習内容ではどのような変化がありましたか?

久宗:「自社のエンジニアとして働くうえで、最低限持っておくべき知識のラインを揃える」という方針のもと、社内の開発組織で広く使われているツールや技術を中心に扱っています。

最先端のトレンド技術、専門的な技術の学習については「チームへの配属後、そこで必要なものを学んでもらう」というのが基本的なスタンスです。

酒井:新人研修には自習の時間も用意していて、そこで学んだ最新技術を研修後半の実践パートで使う人もいますね。

「組織で求められるマインドセット」は新人でも変わらない

――AIはあくまで便利なツール。しかし、ソフトウェアエンジニアリングの領域にすでに深く浸透していることも事実です。新人エンジニアにはどんな影響が現れていますか?

久宗:おっしゃる通りです。最近は新卒入社の時点でAIに触れている人が多く、例えば研修中もNotionでメモを取ったり、講義中にAIに質問していたりしますね。

「講義中に分からない単語が出てきて、そこから先が理解できなくなる」という、つまずき方が減って、学習速度が上がっているように感じます。

――「これからの新人エンジニアに身につけてほしい力」は何でしょうか?

久宗:AIは確かに便利なツールではありますが、その一方で、AIを使うこと自体が目的化してしまっているケースもあるのでは、と感じています。「何のために、これを使っているのか」を考え、意識できるようになってほしいですね。

酒井:やはりAIから情報を受け取って終わり、ではなく、自分で考える力を身につけてほしいという気持ちは強いですね。

サイボウズには「あくなき探求」という行動指針があり、企業文化として考える力を大事にしています。

先ほど触れた通り、新人研修では「この会社で事業貢献できる力を身につけること」が目的になりますが、この「力」を分解すると、コードを理解する力、自分たちのゴールを理解する力、チームの方向性を理解する力……など、エンジニアとして普遍的に役立つスキルになると思います。

いま自分が置かれている場所で貢献するために必要な知識や振る舞いを学ぶなかで、ミドルエンジニア、シニアエンジニア以降のキャリアに通じるスキルを身につけてほしいですね。

――目的意識や自分で考える力、事業貢献の観点を持つこと。新人に限らず、本質的に求められる能力かもしれませんね。

酒井:サイボウズの開発組織でも「“新人のエンジニアだから”、こういうことを学んでほしい」という発想が、以前より弱まってきています

もちろん、キャリア採用ではこれまでの経験がある分、「Gitの使い方」というような研修は行わないなど、ハードスキルの面では差があります。

しかし、自社の開発組織で働くうえで持っておいてほしいマインドセットについては、オンボーディングの内容も共通化する動きが出てきています。そういう意味では、新人とキャリアのあいだの区別がなくなっていく方向に進んでいると思います。

取材・執筆:川島 昌樹
編集:川島 昌樹、田村 今人

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