未経験からPdMになれる人が持つ素質とは?積極採用するLayerX VPoPに聞く「見極めと育成」

2025年2月26日

株式会社LayerX バクラク事業部VPoP

飯沼広基

東京ガスにてハードウェアエンジニアとして従事。その後、株式会社グラファーにて事業開発などを担当。株式会社LayerXでは、バクラク事業の法人営業、複数プロダクトの立ち上げ・グロースのプロダクトマネージャーを経て、プロダクト企画部部長に就任。プロダクトマネージャー組織やカスタマーサポート組織のマネジメントを担当し、現任。

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「PdM(プロダクトマネージャー)が足りない」「どう育成すればいいかわからない」など、PdMの採用や育成に悩む企業が多い中、LayerXでは未経験のPdMを積極的に採用しています

育成を担当するのは、「バクラク請求書」など経理向けのプロダクト全般のVPoPを務める飯沼広基さんです。彼自身が、LayerXで初めて、PdM未経験からPdMになった経歴を持っています。

未経験者がPdMになるうえで、「この人ならできる」と判断するための3つのポイントとは? 絶対に外せないという「ユーザーへの愛」を持てるかどうかは、どうやって見極める? アサインするプロダクトはどうやって決める? …など、未経験者をPdMとして育てていく過程での取り組みを、取材しました。

※掲載当初、記事内の質問文にて「プロジェクトマネジメントをしないとなると、PdMは実務として何をしているのでしょうか。」と記していましたが、より正確な表現として「LayerXでは、PdMは実務としてどんなことに取り組んでいるのでしょうか。」へ訂正しています。

PdMの役割に「プロジェクトマネジメント」は含まない

――2024年10月のnoteには、LayerXのPdMは約45%が未経験だとありました。具体的にどんな人たちが集まっているのですか。

飯沼:noteを書いた時から少しメンバーは代わっていますが、PdMは私を含めて15名、うち8名が経験者、7名が未経験者ですね。経験者は全員中途採用、未経験者は5名が社内異動で2名が中途採用です。

未経験者のうち、社内異動のメンバーは、元CS(カスタマーサクセス)が3名、うち1人は経理職の経験があり、ドメインエキスパートです。あとは元マーケターが1名と、セールスが私のみで1名です。中途の2名は、1名は経理職、もう1名は事業開発や、プロジェクトマネージャー経験者です。

――ビジネスサイド出身者が多いのですね。LayerXでは、PdMにはどんな役割を担ってほしいと考えていますか。

飯沼:大きく3つありまして。1つ目はプロダクトビジョンの実現です。会社のミッションやビジョンをプロダクトでどう実現していくかを考え、実践していく役割ですね。2つ目は、ユーザーにとっての価値を増やし、きちんと届けていく役割。3つ目は事業成長へのコミット。やはり売上が立たなければユーザーを幸せにし続けることはできませんし、持続可能なビジネスにはなりませんから。

ただ、「プロジェクトマネジメント」はチーム全体で引き受けるものとして、PdMの役割とはしていません。プロジェクトマネジメントは価値を届けるための手段に過ぎないはずなのに、なんとなく「やった気になれる」仕事だと思うんです。その責任はチーム全体で持ち、PdMは先述の3つの役割に集中する、という分担のほうが、PdMがPdMにしかできない仕事に集中できる、と考えています。当然、その過程でプロジェクトマネジメントをすることはあります。ただ、例えば海外ではエンジニアがプロジェクトマネジメントをすることが一般的であるように、必ずPdMがやらなければならない仕事である、というわけではありません。

――LayerXでは、PdMは実務としてどんなことに取り組んでいるのでしょうか。

飯沼:基本的には1プロダクトにつき、PdMを1名配置して、その領域を一任しています。実務としては、先ほど言ったプロダクトビジョンやユーザーに届ける価値、事業成長を意識しながら、プロダクトを広げたり深めたりして大きくしてもらっています

――プロダクトを「広げる」と「深める」の違いを教えてください。

飯沼:まず「広げる」とは、プロダクトのカバレッジを広げる、言い換えるとターゲットを違う業種にも広げていくことですね。LayerXはマルチプロダクト展開をしています。そのため当社の拡大においては、プロダクト同士がシナジーを出すのはもちろん、バクラクシリーズのそれぞれのプロダクトが、より多くの業界に広がり、顧客が増えていくことが重要です。業種/業態ごとに異なるユーザーの課題を掴み、個別のアプローチを考えたうえで、それらが破綻しないようプロダクトにおさまる形にしていかなくてはならないのです。

そして「深める」というのは、今のプロダクトでサポートができている範囲から、さらに先の業務ステップまで考えて改善すること。請求書が届いてからの業務は、仕訳の入力だけでなく、請求書内容の確認や承認プロセス、さらに支払いまであります。この一連の業務プロセスをもっと楽にできるように、既存機能を改善したり、時には業務プロセスを丸ごと効率的に変えていくような機能をつくっていくことを「深める」と表現しています。

取り組む手段や優先順位を決める権限は、ほぼPdMに委譲しています。エンジニアのリソース配分などもあるので、最終承認は私がしていますが、徐々に手を放していくつもりです。

PdMになるために必要な3つの観点と、その見極め方

――未経験者でも「PdMの役割を果たせそうか」と判断する際は、どんな点に注目していますか。

飯沼:見ているポイントは大きく3つあります。

1つ目がドメインキャッチアップ力。深いドメイン知識がなくても、どんなことを調べてどんな仮説を立ててくるのか。お客さんからの要望テキストを読み解くために、どんな質問をしてくるかなどを見ます。経理経験者のほうが質問の引き出しは多いものの、未経験だからこそ柔軟な発想ができる人もいます。

2つ目がデザイン思考です。例えばプロダクト画面とヘルプページを見せ、どう加工するのか。自分がユーザーだったらどう思うかを想像し、デザイナーとも会話しながら作っていく。その過程でデザイン的な思考回路が現れます。

3つ目がシステム思考です。例えば類似機能を作る時、既存画面に選択肢を追加して同じテーブルに情報を加えるのか、画面もテーブルも別にするかでつくるものは大きく変わります。デザインと裏側のシステムはリンクしているので、デザイン思考とシステム思考の両方がないと、いいシステムは作れない。

これら3つの観点を学ぶ素質や感覚を持っているかどうかを確認するのは、面接だけではおそらく無理です。そのため、採用プロセスの一環で「1日業務体験」をしてもらっています。その人がPdMになる候補のプロダクトについて、お客さんからの要望テキストを渡して仕様を考えてもらうのです。その時のアプローチに、3つの観点を自然と持っているかどうかが現れます。そのため、どんなにリソースがかかっても、1日業務体験は外せない選考プロセスになっています。

――今の3つの観点は、未経験者でも持っているものでしょうか。

飯沼:もちろん持っている方もたくさんいます。例えば経理職の場合は、会計ソフトなどのシステムの移行・導入経験がある人が多く、複数のシステムを触ってきた経験から、自然とシステムやデザインの考え方が身についている人もいますね。

――担当してもらうプロダクトは、どのように決めているんですか。

飯沼:その人が持っているスキルや得意分野が、プロダクトの特徴にマッチするように決めています。

例えば複数プロダクトにまたがる「共通アカウント」を、1つのプロダクトとしてPdMをアサインする場合は、認証周りはかなり技術的な知見を要するからこそ、エンジニア出身またはある程度バックグランドがあり、認証周りに知見のあるPdMをアサインします。一方で、仕訳入力などユーザーが実務で使うプロダクトは、ユーザーである経理の方の業務を知っていることが最重要なので、経理経験者のほうがマッチしやすい。また、現場から経理に書類を提出する画面で使う稟議ツールのようなプロダクトの場合は、エンドユーザーである現場の方にヒアリングする機会が少ないため、利用データからインサイトを見抜く経験をしている人がマッチします。

また、そのプロダクトの販売スタイルも重要な要素です。単価が低く、数多くの企業に使ってほしいプロダクトでは、多くの顧客に等しく求められるものをつくるために、大量に集まったデータを分析して最適な解決策を導き出す必要があります。であれば、データ分析の経験をしている方がマッチしますね。逆に単価が高く、少数の企業向けのプロダクトなら、単価に見合う価値を提供しなくてはなりません。ユーザーの課題への深い理解が必要なので、もともとセールスやカスタマーサクセスをしていたなど、ユーザーと近い距離にいた人をアサインします。

不可欠なのは「ユーザーへの愛」 外部要因で愛を持てるようにはならない

――先ほどの3つの観点を満たすほかに、外せない条件はありますか。

飯沼:一番大事なのは「ユーザーへの愛」ですね。

BtoBプロダクトをつくる当社の事業特性上、「プロダクトを使ってもらうことで溜まるデータだけでは、ユーザーの行動を全てキャッチできない」という制約があります。我々のプロダクトは、ユーザーが一連の行動をする中で大量に開いたうちの1タブにすぎません。メールで受け取っている請求書があったとしても、それをメールで受け取ったのか、どういうふうにアップロードしているのかまではわからない。こうした状況でも、価値を提供するには、ユーザーの生々しい課題や困りごとを把握しなくてはなりません。そのために「ユーザーへの愛」が不可欠なのです。

――「ユーザーへの愛」を要素分解すると、どんな要素が挙げられますか。

飯沼:「想像力」「興味」「“わかりやすい結果”を求めない」の3つだと思います。

ユーザーへ価値を届けるには、ユーザーの課題を引き出し、適切なソリューションにつなげていく過程では「想像力」が必要です。本来、想像力を働かせる土台になるのは知識ですが、ひとことに「経理」といっても業務フローからキャリアパスまで非常に奥が深くて、経験者でも網羅するのは難しい。だから知識の有無より、わからないことがあっても「興味」を持って徹底的に調べられるかどうかが重要です。

興味を持って調べた知識が土台となって想像力が鋭敏に働き、ユーザーにとって価値のあるものを探求し、もしわかりやすい結果がなかなか出なくても焦らず、「本当に価値のあるものは何だろう」と追求する。これが「ユーザーへの愛があるプロダクトマネージャー」の仕事であり、だからこそ大きな成果につながるのだと思います。

――「ユーザーへの愛」を持つかどうかは、すぐにわかるものなのでしょうか。

飯沼:すぐわかります。愛を持つ人は、ユーザーの言葉から自然と仮説を立てていますから。例えばユーザーのヒアリング後の報告では、「こんなことを言われました」という事実に加えて「この部分で困っていると思う」など、相手の立場で仮説を立てて報告してくれます。

――最初はユーザーに愛を持っていなくても、周囲にいる人が支援すれば、愛を持てるようになるのでしょうか。

飯沼:いや、外部要因で「愛を持ってもらえるようにする」のは難しいと思います。ただ、いずれ愛を持てるかどうかを予測することはできます。

ユーザーへの愛を持つとは、言い換えれば「ユーザーを尊敬する」ということ。いずれ愛を持ってほしいなら、ユーザーの特性と、その人が「誰かを尊敬するときの要素」の一致が必要です。

これらが一致しそうかを判断する際には、「今までの仕事でどういうユーザーに対してどんなモチベーションで取り組んできたのか」を聞きます。その際にユーザーのことを尊敬していたか、そのユーザーはどういう要素を持つのかを推測し、担当してもらうプロダクトのユーザーが持つ要素と一致するかどうかを確認しています。

オンボーディングは最低で半年。2~3歩手前で権限を委譲する

――PdM未経験者がPdMとして自立するまでは、どのくらいの時間が必要ですか?

飯沼:経験の有無や、中途入社か社内異動かにかかわらず、最低半年です。「1~2カ月で結果が出るとは思わないでほしい」という話は必ずしています。

プロジェクトマネジメントであれば、得意な人は1~2日で習得できるかもしれない。ですがPdMとしてユーザーに価値を届けようと思ったら、誰でも一定の時間がかかります。ドメインのキャッチアップをして、ユーザーの課題を理解して、ユーザーにとって価値ある機能を考案し、開発して届けるところまで全部やり切らないと結果が出てこないので。ここまでに最低半年、と考えています。

特に経理はとても難しいドメインなので、たとえ別ドメインから転職してきたシニアプロダクトマネージャーであっても、半年で結果を出すのはかなりハードルが高いです。

――その半年間は、どんなふうにサポートしているのですか。

飯沼:直近でいうと他のマネージャーに委譲している部分も大きいですが、私が随時サポートしています。特に厚くサポートしているのは「ドメインのキャッチアップ」「実務の進め方」です。

ドメインのキャッチアップは、経理職として働いた経験がないと苦戦しがちです。特にユーザーヒアリング時に「質問の仕方がわからない」というケースが多い。そのため、私がヒアリングに同席して、私が質問しているのを見てもらうこともあります。ヒアリングの振り返りでは、「あなたのヒアリングはここが……」のように「人」へのフィードバックしないように気をつけています。「さっきの機能、意外と想定と違いましたね」とか「ちゃんと想定通りでしたね」などプロダクトについて話すことで、「プロダクトをよくするためには、どう質問したらよいだろうか」と考えてくれるようになります。

「実務の進め方」に苦戦するのは、経理経験者が多いです。クライアントへのヒアリングは得意だけれど、データ分析の仕方や仕様書のつくり方を知らない。そういう時にはペアプロのような形で、実務のやり方を伝えています。画面を一緒に見ながら、「自分だったら一旦このデータを見ます。なぜなら……」と、どのタイミングで、何をなぜするのかを教えていくと、徐々にやり方を掴んでいってくれます。

また、週次で1on1もしています。主に業務の話をしますが、月1回は必ず、業務に全く関係ない話をするようにしています。ユーザーに価値を届けるにはどうしても時間がかかるので、とくに中途入社の人は「早く結果出したい」と日に日に焦ってしまうんですよね。気持ちはよくわかるのですが、プレッシャーに押し潰されてしまっては元も子もありません。だからこそ、「結果はなかなか出ないよ」という認識を揃えつつ、少しでも落ち着ける時間をとれるように、業務外のことを話して息抜きできる時間を大切にしています。

――最終的に独り立ちするのはどういうタイミングになりますか。

飯沼:「絶対に大丈夫」と思う2~3歩前で権限を委譲しています

私自身は5歩手前で仕事を任されてきたので、生存性バイアスがあると自覚しながらも、やっぱり早く任せた方がいいと思うんです。私がついていると、最終的に私が決める形になるし、周りもそう見るんですよね。任せてみたらできるかもしれないのに決定権を与えていないのであれば、その人の可能性をつぶしているとも言えます。だから、本人にとって大きなストレッチであると認識しながらも、思い切って任せて、失敗は許容する、とした方がいいんじゃないかと思っています。

ただこの場合、「任せ方」には注意が必要です。慎重で安全にやりたがる人なら、マネージャーからすると不確実性が低いので、丸ごと任せても安心です。注意すべきなのは、アグレッシブに挑戦していく気質の人。大きな結果を出す可能性もあれば、絶対やってはいけない失敗をすることもあります。マネージャーにとっては不確実性が高い。だから丸ごとは手放さず、行動へのフィードバックをちょくちょくします。こうした方は普段の仕事でも大雑把な傾向があり、それが失敗につながってしまうからです。フィードバックの際には個人的な感覚で指摘するのではなく、「ユーザーさんにこういう影響が出ます」とか「これだとセールスの人が売りづらくないですか?」など、ユーザーや一緒に働く相手への影響という視点で伝えています。

隣の畑から人材を引き抜くだけでは、業界全体は強くならない

――未経験者をPdMとして採用してきて、率直にどう感じていますか。

飯沼:採用プロセスさえ厚くしておけば、未経験者は積極的に採ったほうがいいと思います。

今、多くの企業がPdMの採用で悩んでいますが、話を聞くと経験者しか採用していなくて。でも経験者といっても、ドメインが変われば「未経験」に近い状態になると思うんです。PdMって、会社によって全然やることが違います。例えばゲーム会社のPdMを経験していた人がうちの会社のPdMをやろうとしたら、相当アンラーンが必要になるはず。でもどこまでアンラーンするかの線引きは本人次第。「今までの経験でいけるだろう」と思っていたのに全然通用しないこともありえます。

その点、未経験者は最初からアンラーンするつもりで入ってくる。「自分は足りていない状態から入る」という認識があるから、もうスポンジみたいになんでも吸収してくれるんです。成長までの時間とコストさえ許容できれば、未経験者は絶対に採用したほうがいい。その後の活躍を考えたら絶対にペイします。

それに人が足りないと言いながら経験者採用ばかりしているのは、業界全体にとってもプラスじゃないと思っています。隣の畑から人参を引っこ抜き続けても、畑が荒れ地になるだけですから。

――ちなみに、新卒でPdMを採用することはありますか。

飯沼:今はしていません。というのは、PdMは何か一つ、よりどころがないと辛い仕事だから。よりどころの最たるものが「過去の経験」です。エンジニア出身ならシステムのつくり方がわかるから、要件をエンジニアにスムーズに渡せるし、セールス経験があればセールスの気持ちがわかる。よりどころがあると、自分の貢献の仕方や価値の出し方がわかるんですよね。

逆によりどころがないと、プロジェクトマネジメントに逃げて、いろんな意見をまとめて丸く収めようとしがち。でも本来プロダクトは尖っているべきもので、尖った意思決定ができるのはよりどころがあってこそ。新卒の人はそういう意味でのよりどころがまだなくて、失敗すると本人が辛いので、あえて採用していないんです。

――飯沼さんは今後はどんなことに取り組んでいきますか。

飯沼:大前提、人を育成するのではなく、その人が勝手に育つという考え方を持つことが大事だと思います。その上で、今の育成は、私が感覚値でやっている部分も多く、このままではスケールしないと思っています。そのため、スケールを見据えて「人が育つ組織」をつくっていかなくてはと考えています。

以前は育成の属人性を排除しようとして、PdMが一人前になるためのステップを言語化すべくいろいろな制度をつくろうとしてたんですけど、やってる途中にみんなが一人前になっちゃって…(笑)。結局その制度は意味がないと思い、つくるのはやめました。人を育てるためのプロセスをつくるんじゃなくて、人が育つ組織にすればいいと発想を転換したんです。自分と似たやり方でも、違うやり方でもいいから、PdMを育てることができるマネージャーが複数人いて、随時サポートができる体制をつくったほうがいい。

組織づくりにおいても、属人性を排除する必要は一定出てくるだろうけれど、以前の失敗があるから、今度は意味のあるものをつくれるはず。ユーザーへの愛を持って、愚直に価値を届け続けられるPdMを、これからもっとたくさん育てていけるといいなと思っています。

取材:古屋江美子・光松瞳
執筆:古屋江美子
編集:光松瞳
撮影:赤松洋太

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