バーチャル空間のグローバルシェアハウス爆誕!Z世代の起業家がつくる「やさしい」世界

2021年5月10日

株式会社Compass Pioneering CEO

野原 樹斗

1996年生まれ。高校卒業後、新規事業開発インターンを経て、イギリスUniversity of Warwickに進学。2017年に休学し、株式会社Compass Pioneeringを設立。「留学経験者と希望者のマッチングサービス」など複数のサービスをプロデュース後、2019年に『fondi』をリリース。

株式会社Compass Pioneering CTO

磯上 樹

1997年生まれ。東京大学工学部システム創成学科在籍。セブ島でのIT留学からプログラミングを始め、Google Cloud関連サービス会社でのインターンを経て、2017年に株式会社Compass PioneeringにCTOとして参画。web・バックエンド・Unity開発を担当。

英語漬けで過ごすソーシャルライフアプリ『fondi』を運営するスタートアップ株式会社Compass PioneeringのCEOとCTOを務める野原さんと磯上さん。二人は創業当時、実はまだ現役大学生だった。

『fondi』は、世界中からバーチャル空間にユーザーが集まり、自分のアバターをつくってユーザー同士で英会話を楽しむアプリ。「英語漬けで過ごすバーチャルシェアハウス」をコンセプトに、2020年5月に正式リリースされ、現在数万インストールを達成。日本のみならず、中華圏、東南アジア、アラビア圏など、様々な地域から英語を学びたいユーザーが集まっている。良質なユーザーネットワークを有していることから、いまや「純粋に英語を学びたい人が集まっている」と評判になっている。

「より多くの人に留学してほしい」という思いで留学サービスを立ち上げた2人だが、紆余曲折を経て、ピボット。「アバターで入居するバーチャルシェアハウス」という世界観にたどり着いた。その理由とは何か。「Fortnite(フォートナイト)にはできないコミュニケーション空間をつくりたい」と語る2人に、サービスにかける熱い思いと、学生起業して感じた苦楽を聞いてみた。

イギリス大学の寮生活が原体験。気軽に英語が話せるバーチャル空間で

『fondi』には3つのバーチャルスペースがある。まず「マイルーム」で自分のアバターをカスタマイズし、着せかえをする。また、日々の英会話量やインプットできていない単語の振り返りも可能。そこから「プラザ」という空間へ出かけ、ほかのオンラインユーザーと自由に会話できる。うまく会話できないときは、「fondi AI」が会話をサポートすることも。そして「リビングルーム」では、趣味やアクセス時間、英語学習の目的など様々なトピックをベースにマッチングされたユーザーとミニゲームをしたり、テレビを見たりしながらコミュニケーションを楽しめる。

なぜこのアプリをつくったのか、その理由について創業者の野原さんはこう話す。

野原 「『fondi』の前は「留学コンパス」という留学支援事業をやっていました。当時、ユーザーヒアリングを兼ねてよく利用者の留学相談に乗っていたんです。すると、『留学の準備をするための英語の勉強法を教えてください』と言われることが多くて。

そのとき、本気で留学を考えている人は、『スクールの先生から正しい英語を学びたい』というより、『英語が使えるようになって、海外に飛び出していく自分にワクワクしている』ことに気づきました。だったら、今世の中にあるレッスン系の英語サービスはそのニーズにマッチしていない。そう思い、より本気で留学したい人たちの思いにヒットするプロダクトをつくりたいと考えました」

では、なぜ「バーチャルシェアハウス」という形を選んだのか。その背景には、野原さんが留学中にイギリスの大学寮で暮らしていた原体験からくるものが大きかったという。

野原 「当時僕がいた寮は6-10名の学生が1フラット、まさに日本でいうシェアハウスみたいなところで。1人ずつの個室と1キッチン、1ダイニングルームがあって、そこに各国からやってきた留学生が本国の学生と一緒に暮らしているんです。

50カ国くらいからやってくる人たちがランダムに混ぜられているので、生活スタイルも違えば、言葉も違う。でも長い間一緒にワイワイお酒を飲んだり、話をしたりすると自然に仲良くなって、お互いの文化やパーソナリティについて理解が深まっていきました。そこで暮らしていた時間はすごく楽しかったし、イギリスという新しい環境に溶け込むためにも役立った。これこそが留学の本質的な体験なんじゃないかと思ったんです

▲英語漬けで過ごすソーシャルライフアプリ『fondi』。アプリ内で会話量の記録もできる。

市場に敗北。失敗と挫折を乗り越え、仲間とともにfondiを生み出す

2017年の夏にイギリス留学から帰国した野原さんは、ゲーム企業でのインターンを経て2018年4月に起業。しかし当初手掛けていた留学支援事業はとん挫。そのとき大きな挫折を味わったという。

野原 「今振り返れば市場に対する判断が甘かったんです。留学意欲のそれほど高くない潜在層の意識を高め、Webで情報を閲覧するだけで気軽に留学へ行きたいと思わせるシステムづくりを目指していたのですが、短時間でユーザーの意欲を上げられる仕組みをつくるのは難しい、少なくとも僕にはつくれないと気づいたんです。

事業を立ち上げた当初は、事業が詰まっていた焦りと自身のマネジメント力不足で、立ち上げ時から関わってくれていたエンジニアの方にかなり負担をかけてしまいました。結局プロダクトが出来上がる前にその方がチームを離れることになりました。今でもすごく申し訳なく思っていますし、そうさせてしまった悔しさもあります。

1年間でやれることをやり尽くしたのですが、結局は市場に敗北して、ピボットすることになりました」

23歳のときに、留学支援事業から撤退するという意思決定をくだした野原さん。その決断は並々ならぬものだっただろう。

そんな野原さんの事業に、留学事業の頃から伴走してきたのがCTOの磯上さんだ。野原さんが高校時代に所属していたサッカー部の後輩だったという磯上さん。「スタートアップの世界を見てみたい」と考えていたところに、「一緒に事業をやらないか」と誘われたのだという。

磯上 「その頃ちょうど、プログラミングの勉強でフィリピンのセブ島にIT留学へ行ったんです。そこで知り合った友人がスタートアップっぽいことをやっていて、いろいろ教えてもらううちに楽しそうだなと。僕にとって事業の立ち上げに関わるのは真新しい世界だったし、自分の力量を試したいというちょっとした勝負ごころが芽生えて、野原の誘いに乗ることにしました」

磯上さんは当時、Layer Xの福島 良典さんも輩出した東京大学工学部システム創成学科で海底資源について勉強中。当初、ウェブサイトをつくることも難しかったそうだが、事業にジョインした後、先輩エンジニアからUnityの開発スキルを猛スピードで吸収し、1年ほどでアプリを作り込めるようになった。共に留学事業にコミットするうち磯上さんは休学を決断。事業の立ち上げに集中することにしたという。

磯上 「休学に関しては、親に説明するのはハードルが高かったですが、僕自身は割と平気でした。作ったものがユーザーに使ってもらえる嬉しさが自分の中では圧倒的に大きくて、これをやるのが自分にとって正しいというか、腑に落ちるとずっと感じていたからです

今では、野原さんが全体の方針を決めるプロダクトオーナーの役割を担い、磯上さんがCTOとしてその方向性をプロダクトに落とし込み、形にする道筋をつくっている。

現在はシェアオフィスに入居し、周りの経営者からプロダクトをスケールさせるためのノウハウを得たり、『fondi』のアプリが抱える様々な課題を解決すべく試行錯誤したりと、二人三脚で日々邁進している。

そしてプロダクトの成長に伴い、有名ゲームアプリの立ち上げに参加していたエンジニアや、大手ゲーム会社で活躍中のエンジニアもチームに加わり、気づけばエンジニアリング組織には精鋭メンバー6人がそろった。

▲起業する決断について語っている磯上さん。

目指すは「やさしい世界」? これから2人が見据えるものとは

こうしてスケールしつつある『fondi』だが、いまは「真面目に英語を学びたい人だけが集まっているから居心地が良い」と、多くのユーザーから信頼を集めている。また、発展途上国のユーザーなど、経済的や地理的な理由で英語のレッスンに通えない留学希望者にとっても、『fondi』は大事な場所になっているという。実際ユーザーからこんなエピソードを教えてもらったこともあるという。

野原 「インドの農村に住む人にヒアリングしたとき、『fondi』のおかげでカナダに留学できたと言われたんです。このアプリつくった甲斐があったなと、すごく嬉しかったですね。その方はもともと英語に苦手意識を持っていて、留学に行きたくてもIELTS(アイエルツ:International English Language Testing System/海外留学などの際、英語力を証明するために必要なテスト)で必要な点数が取れないと思い込んでいたそうです。

でもコロナ禍で時間があったからと『fondi』を使い始めたところ、多くのユーザーと英語で話しているうちに自信がつき、ついにIELTSでいい点数が取れたんだそうです。そしてカナダへの留学の準備が整ったんだと、嬉しそうに話してくれました。自分たちのつくったプロダクトが誰かの人生を変えたのかもしれない!と実感した瞬間でしたね」

こうして、リアルな日常英会話の経験を積むことで、多くの人の可能性を増やしている『fondi』。古くはセカンドライフから、コロナ禍では『cluster(クラスター)』や『oVice(オヴィス)』など、バーチャル空間にあたかもリアルな交流の場を立ち上がらせるアプリケーションは多数生まれてきた。これから『fondi』はどのような立ち位置を目指すのだろうか。

野原 「いろんな方向性を考えています。音声版『Duolingo(デュオリンゴ)』みたいな英語学習サービスの立ち位置にするか、国際的なネットワークや交流にフォーカスしたバーチャル空間サービスのような立ち位置にするか、まだ模索中です。

ただ、ほかのサービスと比べて差別化できるポイントは段々見えてきたところですね。一つは『英語を話したい』ということに特化した人が集まっているユーザーネットワークを有している点。恋愛や出会いを目的としていないところが、思っていたよりもはるかに大きな価値がある、ということに最近気づきました。

もう一つは英語を第2言語とするような人たちに向けて、学びをサポートするサービスにする方向性。あるいはバーチャル空間に人が集まるということでいえば、オンラインゲームの『Fortnite』みたいにメタバース化していくこともできる。

『Fortnite』などのゲーム空間上でも、海外の人と出会うことはできるのですが、『fondi』は国際交流に興味のある人同士が、シェアハウスでビリヤードをしながら文化の話をして仲良くなる。同じオンラインでつながっている人と英語で話すという体験でも、会話から何をどれだけ学べるかという部分では、全然違う体験設計なんですね。コンテンツ設計を工夫して良質なコミュニティの実現を突き詰めていくことができれば、年齢関係なく海外のキャンパスライフを過ごすようなコミュニティを目指せるかもしれません

▲『fondi』の今後について語っている野原さん。

学生起業を目指すエンジニアへ

2人は大学在学中に起業するという、大きなチャレンジによってそのキャリアをスタートさせた。その結果「外資系金融会社へ行って新卒でいきなり年収1千万円、みたいなキャリアは失った(笑)」(野原さん)、「大手企業へ行ったり、大学院へ進んで好きな研究に没頭したりする人生の方向性はなくなったかもしれませんね(笑)」(磯上さん)というが、より良いプロダクトづくりを追求するという今の道を選んでよかったと、2人は口をそろえた。

最後、これから学生起業を目指す人に、学生時代にその一歩を踏み出してよかったことを聞いてみた。

磯上 「僕は正直、自分のやりたいことを気兼ねなくやれているのが、よかったと思っているし、日々楽しいですね。これは個人的な意見なんですが、起業はやりたい人が、誰でも自由にやればいいものだと思うんです。とくに一つのことに集中して打ち込める人にはちょっとおすすめの生き方ではないでしょうか

野原 「語弊があるかもしれませんが、僕は学生というローリスクな状態で一歩踏み出せたこと自体がすごくよかったと思います。自分は起業が好きですし、事業をスケールさせていくビジョンが見えているので、ほかの道を削ぎ落として『fondi』に集中しています。

とはいえ、学生なら事業を立ち上げたけれど何か違うと思ったら就職するという選択肢も残っている。そんな風に最初の一歩を、怖がらずに踏み出せるところが学生の特権かもしれませんね。ダメだったらすぐ撤退するという意思決定をして、身を引けばいいだけですから。そういう気持ちで、ぜひ挑戦してほしいですね」

「誰でも留学への第一歩を踏み出せるようにしたい」と話す2人。その先にどんな世界が生まれるのか、期待せずにはいられない。

取材・編集:石川香苗子
企画・執筆:王雨舟

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